2020.04.25
体験も含めて3つのジムに通ったことがある。
いちばん長く続いたのは、ある郊外のスポーツジムの「女性限定・ダイエットスイミングコース」。
20~50代の10人ほどがチームになって、専属インストラクターが指導する特別のコースだ。楽しいから続いたのではなく、3カ月限定の前払いだったのと、チームのおつきあいで抜けづらく、渋々一度更新。半年通うはめになったのである。
その経験は強烈だった。若い女性のインストラクターがばりばりの体育会系で、なにを間違ったか、オリンピック選手育成コースかというくらいハードだったからだ。
まず、泳ぎの上手い下手で、1軍と2軍のチームに編成される。おおっぴらに「1軍2軍」とは命名はしていない。だが、インストラクターが泳ぐ順番を決める時、明らかに下手な人たちが後列になる。ああこれは2軍だとだれでもわかった。私はもちろん2軍で、万年補欠だった中学時代のバスケット部を思い出してちょっぴり凹んだ。
1軍には共通点がある。
1.2~3年通っているリピーター。
2.見るからに65キロオーバー。
3.教え好きのおばちゃん
ちなみに2軍は平均56.7キロのぽっちゃり若めチーム。
古株の1軍はリーダーみたいな存在になっていて、なんだったら2軍の新入りに泳ぎのアドバイスもする。
最初に遠泳のように1キロほど泳ぐ。2軍は必死についていくが、すぐに1軍と2軍に大きな差が出てしまう。
インストラクターは1軍に教えるのが楽しいようで、メニューはそれ中心だった。2軍はただただつねに最後尾でヒーヒー言いながらついていくだけである。
そこで教えられるのは〈泳ぎのテクニック〉であり、いつの間にか全員が、〈ダイエット〉という目的を忘れ、厳しいトレーニングをこなしていた。
半年後のある日、はるか先の1軍巨体チームの背中をみつめながら、はっとした。前を泳ぐ人の姿がいっさい見えない広い背中。溺れそうな幼児をこともなげに抱きかかえて救えるであろうたくましい胸板。がっちり筋肉と脂肪がつまり、バタフライでも3キロは泳げそうな鋼の腕。胸よりせりでた腹。1軍の人ってこの半年で、だれひとり1グラムも痩せてないよな……。
「私は痩せたいだけで、泳ぎはどうでもいいのだ」と原点に気づいた。
太っている人は、泳ぎが魚のように速くて美しいが、あれはよく浮くからだろうか。
帰りはみんなでいつもカフェに寄った。
1軍はあんこたっぷりのパフェなどを食べていた。甘味とお茶を飲みながら、「あなたの泳ぎはすごいわ」「いえあなたこそ」というやり取りが延々繰り返された。
辞めると告げた日、ドーナツを食べながら1軍に「どうして?」と聞かれた。
「パイセンのみなさんが1ミリも痩せてないから」とは口が裂けても言えなかった。泳ぎの助言はいらないの、ダイエットの方法を知りたいだけでスパルタ式ヨットスクールに入りたかったわけじゃないの、とも言えなかった。
通っている時、一度だけ大金持ちの1軍マダムの自宅のクリスマスパーティに呼ばれて行ってみたら、もみの木の下に山のようなスナック菓子やクッキーが積まれ、アメリカかと思った。
それにしても、あの激しい練習の日々はなんだったんだろう。
クジラのようなおばちゃんたちの広い背中を追いかけた日々が、いまもジムのトラウマになっている。
チームプレイでダイエットは私には向いていません。いまはちまちまダイエットアプリ日記に写真をあげ、カロリー計算をする単独プレイに専念中。
おおだいら・かずえ
文筆家。長野県生まれ。’94、編集プロダクションを経てライターとして独立。著書に『東京の台所』『男と女の台所』『もう、ビニール傘は買わない。』(平凡社)、『届かなかった手紙』(角川書店)、『あの人の宝物』『紙さまの話』(誠文堂新光社)、『新米母は各駅停車でだんだん本物の母になっていく』(大和書房)など。『そこに定食屋があるかぎり(ケイクス)』など連載多数。大学生長女と映画製作業の夫と3人暮らし。現在どうやら人生初のダイエット道アガリの噂あり。今後の展開にご注目を!
www.kurashi-no-gara.com
instagram : @oodaira1027
twitter : @kazueoodaira
イラスト/いいあい
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