宮城県・東松島市の「知られざる食」を味わう美食の会【イベントレポート】

会場写真

海と山、豊かな自然に恵まれる宮城県・東松島市。近年、東松島沖で獲れる魚の種類が変わり、せっかく獲れても、その価値を活かしきれていない「未利用食材」である「太刀魚」と、その土地で、かつては食べられていたのに、時とともに忘れ去られてしまった料理「楠公飯」を味わうイベントが、東松島と東京をオンラインでつないで開催されました。

「未利用食材」とは……?
形が規格に合わないために市場に出回らなかったり、人の価値観で、その価値を見落としている可能性がある食材のこと。また近年では、温暖化による海水温度の上昇などの理由で、各地で獲れる魚の種類に変化が起き、せっかく獲れても食べる習慣がなく調理法がわからないなどの理由で知識や技術が対応しきれず、本来活用できるはずの地域資源の価値が見えなくなっている現状があります。

おいしい料理を通して、未利用食材についてあらためて学ぶ機会になった
東松島の漁師・尾形秀樹さん

イベントでは、東松島の漁師・尾形秀樹さんが一人で定置網漁をする姿のほか、民宿「ちどり館」の鈴木一男さんや「東松島市地域生産物加工研究会」の皆さんが、獲れた太刀魚のメニューを考案する様子、食材を提供いただいた地元生産者など「食材が届くまで」を動画で紹介。視聴後、東松島でとれた太刀魚を使ったオリジナルメニューの試食をしました。

動画を見た東京会場の参加者からは、
「都市部にいると情報が入ってこない。現場に行って東松島についてもっと知りたい」
「生産の現場を見て、食を大切にしなければとあらためて実感した」
「おいしい料理を通して、未利用食材についてあらためて学ぶ機会になった」
といった声が寄せられました。

未利用食材を使うことは、フードロス対策、地域活性化に繋がる

今回、東松島の未利用食材を活用したレシピ考案にご協力くださった料理研究家のコウケンテツさんからは、「未利用食材を活用することは、フードロスを減らしたり、地域の新たな魅力発見にも繋がり、地域がどんどん活性化する原動力になると思う。ぜひ、積極的に取り入れていただきたい。また、未利用食材は、東松島だけでなく全国各地にあり、都市部の生活者が活用法を考えたり、思いを馳せるだけでも、フードロスや食についての新たな気づきに繋がる」とメッセージが寄せられました。

東松島と東京、それぞれで未利用食材を活用したメニューを考案
今回のイベントでは、未利用食材「太刀魚」を活用したメニューの考案を、東松島市在住の皆さんとともに、料理研究家・コウケンテツさんにも依頼。地元からの視点と都市部からの視点、それぞれから生み出された新しいメニューを通じた交流となりました。

●太刀魚は、関西圏では昔から食べられていた魚。近年、東松島沖でよく獲れるようになったが、調理法がわからないなどの理由で、その価値を活かせていない魚のひとつ。
●くせのない白身で、身はふっくらと柔らか。今回は、東松島からは揚げ焼き、コウさんからは酒蒸しと、家庭でも作りやすいレシピを提案いただきました。

東松島から東京へ
「東松島♡あんのせ太刀魚」&「元祖楠公飯」
東松島から東京へ「東松島♡あんのせ太刀魚&元祖楠公飯」
「東松島♡あんのせ太刀魚」に、以前は東松島でも食べられていたという「楠公飯」を添えて味わっていただきました。
「東松島♡あんのせ太刀魚」は、しょうがをきかせたしょうゆ味のあんに、揚げ焼きにした太刀魚をのせたオリジナルメニュー。また、「楠公飯」楠木正成公が考案したとされる料理で、少量の玄米を炒ってから水でふやかし、炊いたもので、少ない米で満腹感が得られるため、戦時中の「節米食」として推奨されていた料理です。

東京会場の参加者からは
「あんをかけるのではなく、のせる、という技に感心しました」
「かりっと揚がった太刀魚に、しょうががたっぷりのあんが美味しかった」
「動画で現地のおばあちゃんたちの姿を見ることができ、より味わうことができました」
などの、コメントが寄せられました。

東京から東松島へ
「太刀魚とあさりの酒蒸し せりのオリーブじょうゆだれ」
東京から東松島へ「太刀魚とあさりの酒蒸し せりのオリーブじょうゆたれ」
東松島では食べる習慣がなかったため、なかなか調理法がわからず活用できていなかった太刀魚。コウケンテツさんが生まれ育った大阪では、昔からよく食べられていると言います。
「塩焼きとかムニエルもいいんですけど、僕はこのふっくらした酒蒸しがすごく大好きなんです」と、コウさん。たっぷりのしょうがを使うことで臭みを消し、あさりで旨みをプラス。仕上げに宮城県特産のせりのタレをかけ、香り高く仕上がった一品となりました。

コウケンテツさんが、失われた食「楠公飯」を現代風アレンジ
牡蠣の楠公飯チーズリゾット
失われた食を今に繋ぐ「牡蠣の楠公飯風チーズリゾット」

戦前の暮らしの中には自然や環境に応じた先人の知恵があります。東松島市の90歳前後の方々へのヒアリングから、地域に伝承されている地域らしい食を再発見し、そのエッセンスを新たな東松島の魅力ある食の発信につなげることも、イベントのテーマでした。
その意図をくみ、コウさんが考案してくださったのが、楠公飯を現代風にアレンジした、こちらのリゾット。
楠公飯に使われる玄米は、食物繊維、ミネラル、ビタミンB1などの栄養が豊富。そこに牡蠣やチーズ、生クリームを加え、たんぱく質やカルシウムもとれるメニューになりました。


食材提供
「海苔」アイザワ水産 https://www.aizawasuisan.com/
「玄米」佐藤農園 https://sato-fm.org/
佐藤農園「玄米」(左)、アイザワ水産「海苔」(右)

「からたち・かぼす」三浦養一ファーム
三浦洋一ファーム「かぼす・からたち」

「牡蠣」「太刀魚」鳴瀬漁協
鳴瀬漁協「太刀魚・牡蠣」

レシピ考案
「東松島市地域生産物加工研究会」

「東松島♡あんのせ太刀魚」のレシピを考案・調理されたみなさんが普段活動されている「東松島市地域生産物加工研究会」についてご紹介します。 
東松島市地域生産物加工研究会のみなさんは、市内で生産される農林水産物を加工し、付加価値をつけることで、食料の自給向上をめざしています。無駄なく加工することで、食品ロスの削減にもつながっています。また、販売を志す人への支援や、さまざまな生産者との共同加工にも積極的に取り組み、よりよい地域づくり、交流に貢献されています。


「東松島♡あんのせ太刀魚」

材料(2人分)

太刀魚の切り身(三枚におろしたもの) 4切れ
ねぎの細切り 1/2本分
しょうがの細切り 2かけ分(15~20g)
オリーブオイル 大さじ3
好みのかんきつ類(からたち、かぼす、ゆずなど)、ねぎの青い部分の細切り 各適宜
【煮汁】
  水 1カップ(200ml)
  しょうゆ 大さじ1
  砂糖  小さじ2
     和風だしの素(顆粒) 小さじ1
【水溶き片栗粉】
  片栗粉 小さじ2
  水 小さじ4
塩 粗びき黒こしょう 小麦粉 

作り方
1.太刀魚は長さを3等分くらいに切り、塩、粗びき黒こしょう各少々をふる。20~30分置き、味をなじませる。水溶き片栗粉の材料を混ぜ合わせる。
2.鍋に煮汁の材料を入れて混ぜ、しょうがを加えて中火にかける。ひと煮立ちしたらねぎを加え、水溶き片栗粉をもう一度混ぜてから回し入れ、とろみがつくまで煮る。
3.太刀魚に小麦粉を薄くまぶす。フライパンにオリーブオイルを中火で熱し、太刀魚を皮目を下にして並べ入れる。こんがりとしたら裏返し、身の側もカリッとするまで焼く。ペーパータオルにとり、油をきる。
 4.2のあんを器に盛り、太刀魚とねぎの青い部分をのせる。好みのかんきつを添え、果汁を絞りかけていただく。

「太刀魚とあさりの酒蒸し せりのオリーブじょうゆだれ」

材料(2人分)
太刀魚の切り身 2切れ
あさり(殻つき・砂出ししたもの) 150g
しょうがの細切り 2かけ分(約20g)
【せりのオリーブじょうゆだれ】
  せり 1~2本(太さによって)
  オリーブオイル 大さじ1
    季節のかんきつ類(ゆず、すだちなど)の絞り汁 小さじ2
  しょうゆ 小さじ2
塩 酒

作り方
1.あさりは殻と殻をこすり合わせるようにして洗い、水けをきる。太刀魚は塩小さじ1/2をふり、手で全体にすり込む。
2.フライパンに太刀魚を並べてしょうがを散らし、酒大さじ4をふる。ふたをして中火にかけ、煮立ったら弱火にして5~6分酒蒸しにする。蒸している間に、たれを作る。せりは長さ2~3cmに刻み、残りのたれの材料と混ぜ合わせる。
3.蒸し汁がなくなっていたら酒大さじ2をたし、あさりを加える。再びふたをし、あさりの口が開くまで中火で2分ほど蒸す。太刀魚とあさりを器に盛り、フライパンに残った蒸し汁を回しかけて、せりのオリーブじょうゆだれをのせる。

「牡蠣の楠公飯風チーズリゾット」

材料(2人分)
玄米 1/2合(90ml)
牡蠣(むき身) 10個
玉ねぎのみじん切り 1/4個分(約50g)
にんにくのみじん切り 1かけ分(約10g)
生クリーム 1/3カップ(約70ml)
粉チーズ 大さじ2
焼きのり 1枚
万能ねぎの小口切り、仕上げ用の粉チーズ 各適宜
オリーブオイル 大さじ1
【煮汁】
  水 200~300ml
  塩 小さじ1/2
塩 酒 粗びき黒こしょう

●前日の準備
玄米はフライパンで全体がこんがりとするまでから炒りする。たっぷりの水につけて一晩置く。 
作り方
1.玄米はざるに上げて水けをきる。牡蠣はざるに入れ、塩少々を加えた水につけてさっと振り洗いし、水けをきる。
2.フライパンにオリーブオイルを中火で熱して玉ねぎ、にんにくを入れ、しんなりとして、にんにくの香りが立つまで炒める。牡蠣を加えてさっと炒め、酒大さじ3をふってふたをし、3分ほど酒蒸しにする。火を止め、ボールなどに牡蠣を取り出す(蒸し汁はフライパンに残っていてOK)。牡蠣にラップをかけておく。
3.フライパンに残った蒸し汁に玄米を加え、中火でさっと炒める。全体に蒸し汁がなじんだら煮汁の材料を加えて混ぜ、煮立ったら中火のまま12~15分煮る(ふたはしない)。途中、汁けがなくなったら水適宜を足す。のりはおおまかにちぎる。
4.玄米を食べてみて好みの堅さになったら生クリームを加え、牡蠣を戻し入れる。粉チーズを加えてさっと混ぜ、味をみて、たりなければ塩適宜でととのえる。器に盛って仕上げ用の粉チーズと万能ねぎを散らし、のりをのせる。粗びき黒こしょうと、好みでさらに粉チーズ各適宜をふる。

本研究は、JST共創の場形成支援プログラムJPMJPF2110の支援を受けたものです。

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