
「夫と、レシピを作ってくれる人と、みんなで食卓を囲む気分です」話題の料理家・長谷川あかりさん
へとへとに疲れ果て、もう料理なんかしたくない……。そんな日でも作ってみたくなるレシピ投稿がSNSで大反響を呼び、一躍注目の存在となったのが長谷川あかりさんです。
パパッと手軽に作れるのに、気がきいていて見た目もすてき。何より、疲れた体にじんわりとしみるおいしさには、抜群の癒やし効果が。そんな料理の数々に助けられた人も多いのでは?
今回は、満を持して始まる長谷川さんの新連載「長谷川あかりの日々の料理 これでいいのだ」を記念して、長谷川さんに特別インタビューを敢行。若くして大ブレイクを果たした料理家ながら、飾らず自然体な長谷川さんの姿が印象的なひとときとなりました。
子役タレントから転身、大学で栄養学を学んで料理家となった長谷川さん。
おいしいものをおすそわけしたい。そんな気持ちで発信しています
――長谷川さんがSNSで発信を始めたのは昨年4月。そこから一気にブレイクされました。有名になるまでがとても早かったと思います。
私自身も、まだ全然信じられないんですよ。大学を卒業したのも去年の3月ですし。
当時のTwitterのフォロワー数は、子役時代からのファンのかたもふくめて3万人ほど。でも料理の発信をしても100「いいね!」がつくくらいでした。
最初は自分が食べているごはんの写真をそのままアップしていたのですが、今のようにレシピをつけて投稿を始めたら、ほどなくして「本格魚介中華粥」がいわゆる〈バズった〉状態になりまして。
――最初は中華粥だったんですね! 他のレシピに比べると、少し地味な印象を持たれそうな料理でもありますが。
そうなんです。私も「中華粥がバズるんだ……!」って思って。
でもすごくうれしかったんですよ。私が発信したかったのは、作ってみたいと思えるくらいのちょっとしたおしゃれさがあって、作るのもむずかしくない、かつ健康的でやさしい味わいのレシピ。そういうレシピの需要が、思った以上にあるのかもしれないと思ったんです。
その後、5月に投稿した〈薬味たっぷりだしカレー〉をかなり話題にしていただいたことで、私を知ってくださったかたが増えて、今に至る感じです。
――口コミ的に、「これいいよ!」と人に教える感覚でリツイートする人も多そうです。
私のレシピを作ってくださる人って、言語化するのが上手なかたが多くて。
たとえば私自身が実際作ったとき、こういう気持ちになったとか、食べてこんなふうに感じたとか、本当は届けたいけどレシピには書いていないことを、きちんと言葉にしてくださるんです。それに共感してくださるかたがいたからこそ、広がっていったのかなと思います。
瞬く間に人気料理家の一人に。いまだにその状況が「信じられない」そう。
――長谷川さんがレシピ作りのモチベーションにしていることはありますか?
もちろん作ってくださるみなさんの反応もモチベーションになっているのですが、あまりどう〈バズる〉かとか、どんなものがウケるかとかは考えません。どちらかというと、自分自身が「こんな料理を食べたい」、「無理なく楽しく作れる料理を知りたい」と思う気持ちがモチベーションになっていますね。
でも最近、私が食べたい、作りたいと思うレシピと、フォロワーのみなさんの「こういうレシピがあったらいいな」は同じはずだという自信がついてきて。SNSで発信する料理は、ほぼ私が自宅で作っている料理ですし、実際作って食べて、みなさんに「おいしかったよー」って伝えている感覚です。
――その感覚、なんだか伝わっている気がします! SNSでの発信を見ていると、勝手に長谷川さんとの距離が近いような気がしてくるんです。「やってみてね」と背中を押してもらっているような。
料理家として専門的にレシピ開発をしているわけではないので、プロフェッショナルではないなぁと思うんですけど……。おいしいものを〈おすそわけ〉するようなテンションで、レシピを出しているんですよ。
でも、高校時代からゴリゴリの難解なレシピ本を見て育っていますし、珍しいハーブや海外の調味料なんかを使ったおしゃれで雰囲気のあるお料理も大好きなので、ともすると変化球なレシピを作りたくなっちゃう(笑)。
そんなときに、なじみのある家庭料理と気分の上がるおしゃれな味わいとのバランスを微調整してくれるのが、夫の存在。
うちの夫は自分のことを、勝手に〈試食家〉と呼んでるんですけど。
――試食家! 楽しそうな肩書ですね。
たくさんの人に作ってもらうレシピとしてはちょっと変化球すぎない? とか、味についても、もう少し甘みがあってもいいんじゃない? とか指摘してくれて。
たとえば私の〈ビーフストロガノフ〉のレシピは、しょうゆとみりんを使っているんです。しょうが焼きや肉じゃかなどの家庭料理になじみがある人からしたら、ビーフストロガノフ? となるかもしれないけれど、しょうゆとみりんなら牛丼と同じ味つけだし(笑)、いつもの食卓にちゃんと納まる味わいになる。
そういうあんばいを、夫に試食してもらいながら調整していく感じです。
「ビーフストロガノフは一生作り続けたい大切な料理」と長谷川あかりさん。
夫リクエスト率No.1料理、ビーフストロガノフ。使うのはごく身近な材料のみ、調理時間15分。生クリームとプレーンヨーグルトを1:1で加えることで、まろやかなのに食べ疲れないすっきりとした味わいに。どんな時でも絶対に喜んでもらえる、まさに救世主のようなレシピです。 pic.twitter.com/jzY8uK6eTk
— 長谷川あかり (@akari_hasegawa) July 28, 2022
–{人気料理をどんどん生み出す、長谷川家の人気のメニューは?}–
じつは長谷川さんのレシピは、夫婦の共同作業で生まれている!?
――ちなみにこれまで発信されてきたレシピのなかで、長谷川家でのリピート率が高い料理はどれでしょう。ファンには気になるところです。
これ笑えるんですけど……夫にリクエストをきいて作ることが多いのですが、彼自身あまり料理に詳しくないから、確実に料理名がわかるものしかリクエストできないんですよ(笑)。
から揚げ、キーマカレー、ビーフストロガノフ、オムライスは料理名がわかりやすいので、必然的に登場回数が増えますね。特にから揚げかな。昨日も作りました! 調理が本当にラクなので、大学生のころから週に1~2回は作っています。ヘロヘロに疲れていても、鶏もも肉を買ってきて、調味料といっしょに袋に入れてもみ込んでから、揚げ焼きするだけなので。
そういえば、最近はレシピ本を出したので、夫がそれを私に見せながら「これ食べたい」って言ってきますね。本のことを〈デンモク※〉と呼んで、活用しています(笑)。
※第一興商の登録商標で「電子目次本」の略。カラオケで曲検索に使用する電子機器のこと。
フォロワーの間でも人気の「醤油だけ唐揚げ」は、長谷川家でもスタメン料理!
材料本当にこれだけ?!と驚かれる、我が家の定番”醤油だけ”唐揚げ。醤油のコク、恐るべし。片栗粉をまぶす前に小麦粉でお肉をコーティングすることで、衣サクサク&口の中でほろっとほどける不思議な食感に。冷めても美味しい(というより個人的には冷めた方が美味しい)のでお弁当にもぴったりです。 pic.twitter.com/HNKZY7zhok
— 長谷川あかり (@akari_hasegawa) August 12, 2022
――アナログな〈デンモク〉(笑)。いつも、主菜のほかに副菜もそろえるほうですか?
あまりやらないです! 基本はメインの料理と、めっちゃ具だくさんの汁ものか、炊き込みご飯。どちらかにたんぱく質を入れて、野菜もたっぷり詰め込んで。
余裕があればもう1品副菜を足すくらいで、シンプルです。
――一汁一菜派なんですね! 日々の料理に大活躍するスタメン食材があれば教えてほしいです。長谷川さんの技を盗む気満々なのですが(笑)。
冷蔵庫に欠かさないのは、ミニトマトと梅干し。この2つは調味料として使っています。
ミニトマトは普通のトマトよりうまみが強くて、量も調整できるので、ソース代わりに使うことが多いですね。梅干しは塩味や酸味を足したいときに。オリーブオイルでソテーするときちょっとたたいて入れるとおいしいし、じつはバターとの相性もいいので、和食以外にも活躍するんですよ。
トマト味や梅干し味にしたいわけではなくて、あくまでしょうゆやみりんと同じ感覚で入れています。
インタビュー中、梅干しへの愛を熱く語ってくださいました。
――日々たくさんの人が、長谷川さんのレシピで料理を作って、SNSにアップしていますよね。長谷川さんご自身も、よくそういう投稿をリツイートされています。
作ってくれたかたが「この手間で、こんなにおいしいものができるんだ!」って言ってくださると、「でしょ? そうなの!」って本当に仲のよい友達みたいな感覚になっちゃうんです(笑)。
私は他の料理研究家の先生がたとは違って、料理がうまいわけではなくて。とにかくおいしいものが好きだから、先生として何か教えるというより、おいしいものを共有したいという気持ちでやっているだけなんですよ。
夫もみなさんの投稿を見て、よく「いっしょに大食堂で食べている気分」といってます。みなさんと食卓を囲んでいるような感覚で。
――なんてすてき!
「ああ、その料理俺もこの間食べた。おいしいよね~」って(笑)。ときどき「みんなが食べてるカレー、俺も食べたいんだけど」っていい出して、「どれ?」みたいな(笑)。
――フォロワーの方々の食卓と長谷川家の食卓は繋がっているんですね。では最後に、ぜひ連載への意気込みを伺いたいのですが……。「これでいいのだ」というタイトルを見ると、あの曲が頭をよぎります(笑)。
〈天才バカボン〉ですよね(笑)。基本的に、「肩の力を抜いて、楽しく料理をしようよ」っていうスタンスでやっているので、そのニュアンスが伝わるといいなと思ってこのタイトルに決めました。
料理って、よく「こうあるべき」とか「こうした方がいい」という答えを求められがちだけど、ドンズバな正解があるものじゃなくて。だからいちばん気楽な方法で、作っている楽しさも味わいながらおいしいものができたらいいよね! という気持ちを、みなさんと共有できるような連載にしていきたいです。
どうぞよろしくお願いいたします!
〈PROFILE〉
長谷川あかり
1996年埼玉県生まれ。料理家、管理栄養士。10代で芸能界入りし、NHK『天才てれびくんMAX』などで子役タレントとして活躍。20歳で引退後、料理の道を志し、大学で栄養学を学ぶ。卒業後の2022年4月からSNSで始めたレシピ投稿が瞬く間に注目を集め、大きな話題に。「なんでもない日を幸せにする、シンプルで豊かなごはん」をテーマに、食べ疲れないのにちょっぴりおしゃれで自己肯定感の上がるレシピを発信中。同年11月、初のレシピ本となる『クタクタな心と体をおいしく満たす いたわりごはん』(KADOKAWA)を上梓。

撮影/キッチンミノル 文/唐澤理恵