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柚木麻子の「拝啓、小林カツ代様」~令和のジュリー&ジュリア~
人気作家・柚木麻子さんが昭和の料理研究家・小林カツ代さんを語る食エッセイ。映画「ジュリー&ジュリア」ばりに往年のカツ代さんレシピを作り、奮闘します。コロナ禍ですっかり料理嫌いになった柚木さんが、辿り着く先はーー?

【柚木麻子連載】「推し」の動画鑑賞は、食べ疲れない小林カツ代の家庭料理とともに。

2024.07.27

「10分肉じゃが」「えびマヨチリ」「わかめとオクラの酢の物」「春雨ときゅうりの中華あえ」

第15回 「推し」の動画鑑賞は、食べ疲れない小林カツ代の家庭料理とともに。

連載最初に書いたが、私は外食もお惣菜も冷凍食品も大好きである。自分じゃない人が作ったものは全部美味しい。誰かの家で誰かが作ったものを食べさせてもらっていると、心から幸せを感じる。洗い物にさわらなくていいのもありがたい。チェーン店のタッチパネルの人を介さない冷たさと自由さも好きだ(ちなみに、夫は料理はさっぱりだが、冷蔵庫、シンク、コンロの掃除及びメンテナンスとなると業者ばりの働きを見せるのは、一応つけ加えておく。帰宅した時、新しい冷蔵庫に買い替えたのか? と思う時がまあまあある)。

ところが、である。カツ代さんレシピを作り始めてから、私の考え方は改まりつつある。

自分で料理を作るのって、ある面からしたら、とっても楽じゃないーー?

カツ代さんレシピが短時間でできて、少ない食材しか使わないものが多いせいもある。ご飯を炊いて、カツ代さんのおかずが一品あれば、まあなんとかなるのなら、うちで過ごした方が楽では?
そんな風に思うようになったのは、コロナ後の生活に私が馴染んだせいもあるし、子どもが大きくなってよく食べるせいもあるし、物価高で財布を開ける機会をなるべく減らしたいせいかもしれない。外食は好きだが、やっぱり確実に食べきれる量を見極めての注文やお会計は緊張する。お惣菜も便利だけど、割高だと思う時もあるし、逆にもう少し食べたい、と物足りなさを感じる時もある。レトルトや冷凍食品は大好きだが、開封してレンチンする手間を考えると「やっぱりこれ、調理みたいなもんなんじゃないの?」という気もする。いずれにせよ、どの味にもまったく不満はない。自分の手作りが一番とはまったく思わない。

特に何人かでご飯ということになると、予約やら集合場所やらお金をどう割るかやら、色々と気になることが多い。特に今回のようにアイドルファンたちの会食ともなれば、DVDをみんなで観られる機材がマストなので、結局、家が一番ということになる。だったら、テイクアウトもいいけど、私が作るよ〜と決めた方が断然楽。もはや手に馴染むくらいクタクタになっている『小林カツ代の伝説のレシピ〜「うまい!」は時代を超える〜』(家の光協会)から「10分肉じゃが」をメインで作ることを決めてしまう。連載が始まってすぐ、カツ代さんの一番弟子の本田明子さんに目の前で作ってもらった、思い出のレシピである。
あの肉じゃががあまりも美味しかったたため、今日の今日まで作れないでいたのだが、チャレンジする良いタイミングかもしれない。あとは、同じ本から「えびマヨチリ」、暑くなってきたのでさっぱりしたものが欲しいかと思い「わかめとオクラの酢の物」「春雨ときゅうりの中華あえ」。ネットのKATSUYOレシピから「ちくわのチーズフライ」も選ぶ(ちなみにデザートは根岸規雄さんの『ホテルオークラ元総料理長のわが家でプロの味』(KADOKAWA)から一番よく作っているプリンケーキを選んだ)。

酢の物と春雨のあえものは、プリンケーキと一緒に前日に作っておいた。私は好きだが、わが家ですっぱいものは人気がないので、普段はほぼ作らないメニューである。米酢をどぼっと使うと、鼻の奥がつんとした後で、頭がすっきりする。こちらも通常なかなか使わない春雨を久々に買ったが、給食のメニューで春雨サラダがすきだったなと思い出したり、水で戻しやすく改良されていたり、使いやすい量ごとにパックされている商品に、発見があった。
当日、炊飯器にお米をセットし、えびの下ごしらえを終え、ちくわにチーズを詰めて衣をつける。いよいよじゃがいもの皮を剥いて水に漬けた頃、お客さんたちがやってきた。

「今から、カツ代さんの肉じゃがを作りますよ! 10分で!」と、宣言すると、2人とも興味しんしんでキッチンを覗き込んでいる。

この日のために、使いこんできた鉄の中華鍋で……と思ったが、残念、それはえびマヨチリとフライに使うため、テフロンのフライパンを利用することになり、いきなりつまずいてしまう。それでも本田さんの語り口を思い出しつつ、ガンガン強火で、油を熱し玉ねぎを炒め、端に寄せ、牛肉を投入。本田さんがやっているのを見て密かに憧れていた工程、肉めがけて、砂糖をぶつけるようにざっとまぶす。しょうゆ、みりんも同様に加え、じゃがいもを混ぜ、水を加えてふた。本田さんの手際が目に焼きついているせいで、なんだかモタモタしている自分が気になる。それでもとてもいい匂いがしてきて、ほっとする。続いて、えびを仕上げ、ちくわを揚げる。
食卓に皿を並べたら「うわ、実家のご飯だ」「家庭の料理を食べることがまったくないから新鮮だ」と、2人とも反応がいい。家族の団らん風にアイドルDVDを流しっぱなしにして食事する。残念ながら肉じゃがは本田さんの味とは別物だったが、お客さんたちと向き合っているうちに、それはそれでいいのかもと思えた。食事がメインではなく、今日はアイドルがメインだからである。邪魔にならない、親しみある、なにげない家庭料理は、きらびやかな動画を引き立てたし、なにしろ全員疲れなかったのだ。酢の物がとにかく人気で、どんどんはけたのも嬉しい。

カツ代さんも、料理は大事だが、料理以外にも大事なことはたくさんある、と解いていた気がする。おもてなしとなるとつい調理にかかりきりになってしまうが、10分肉じゃがとご飯を中心にしたメニューは気楽かつ、目立ちすぎなくて大変よかった。

おもてなしに緊張しない、来る人も緊張しない。ゆえにまったく疲れず、だいたい元気でいられる。連載当時、私はカツ代さんのように強くなりたいと書いたが、おそらくカツ代さんの強さの正体とは、自分も周りもリラックスしているため、息切れせずスタミナが持続するということなのではないか。
そんなことを考えながら、アイドル動画を約10時間楽しんだ。

ただ、10分肉じゃがだけはもうちょっと練習したいと思う。

今回の小林カツ代さんレシピ

※「小林カツ代の伝説のレシピ「うまい!」は時代を超える」(2021年・家の光協会)より一部引用
※『ちくわのチーズフライ』は「KATSUYOレシピ~小林カツ代の家庭料理~」より引用

カツ代の永久定番、早くてうまい肉じゃが。牛肉を甘辛味にコテッと煮て、じゃがいもの表面だけに味をしみ込ませます。この煮方で、おいもさんがグンとおいしくなります。

『10分肉じゃが』のレシピ 

材料[4人分]
牛薄切り肉(または切り落とし肉)……200g
じゃがいも(男爵)……4~5個(600~700g)
玉ねぎ……1個
サラダ油(または牛脂)……大さじ1

A
砂糖……大さじ1
みりん……大さじ1
しょうゆ……大さじ2と1/2

水……1と1/2カップ

作り方
(1)玉ねぎは縦半分に切って、縦1cm幅に切る。じゃがいもは大きめの一口大に切る。牛肉は5~6cm長さに切る。
(2)鍋にサラダ油を入れて熱し、玉ねぎを強めの中火で炒める。全体がアツアツになったら、玉ねぎを寄せて中央をあけ、肉を置く。肉めがけてA(砂糖・みりん・しょうゆの順)の調味料を加える。肉をほぐしながら味をからめる。
・肉をめがけてAの調味料を砂糖から加える。火をいったん止めて入れると、焦がす失敗がない。肉にしっかりと味をつけるのが大事。
(3)肉がおいしそうな色になったらじゃがいもを加えて分量の水を注ぎ、表面を平らにする。
・じゃがいもを平らにならし、味のしみ込みと火の通りが均一になるようにする。
(4)強めの火加減で10分煮る。途中、5~6分たったところで一度上下を返すように混ぜる。もう一度、表面をざっくり平らにして煮る。じゃがいもに竹串を刺して、スーッと通り、やわらかくなったらふたをして火を止め、2~3分蒸らす。

カツ代ロジック
肉じゃがのいもは断然、男爵がうまい。皮をむいたら丸ごと水につけます。一口大に切ってからはつけません。ホクッと煮上げるために、でんぷん質の抜けすぎを防ぐためです。すぐに調理するときは、水につけなくてもOK。鍋に入れるのは肉にしっかり味がついてから。このときの肉がおいしそうな色合いが重要。仕上がりの良し悪しは、ここで決まります。

マヨネーズが入っているのに、らしからぬ味がする……、このソースの配合が秘伝です。このソースでえびを炒めるだけ。

『えびマヨチリ』のレシピ 

材料[4人分]
えび……中20尾(400g)

下味
酒……大さじ1 
かたくり粉……大さじ山盛り2
細ねぎ……1/2束

秘伝のソース
長ねぎ(みじん切り)……20cm分
にんにく(すりおろす)……少々
しょうが(すりおろす)……少々
豆板醤……小さじ1
砂糖……小さじ2
しょうゆ……小さじ2
マヨネーズ……大さじ山盛り2
トマトケチャップ……大さじ2
酒……大さじ1
ごま油……大さじ1
水……1/2カップ

作り方
(1)えびは殻をむき、背ワタがあれば除く。水けをふき、下味の酒をからめて、かたくり粉をまぶす。細ねぎは3~4cm長さに切る。
(2)中華鍋かフライパンに秘伝のソースの材料を材料表の順番に入れて混ぜ、強めの中火にかける。フツフツしてきたら1のえびを並べ入れる。2~3分煮たら裏返す。えびの色が変わったら、細ねぎを散らして、火を止める。大きいスプーンなどですくって器に盛りつける。
・いじらないのがおいしく作るコツ。えびが重ならないように鍋に並べて火を通し、細ねぎを入れたら火を止める。盛りつけるまで混ぜたり炒めたりしないこと。

カツ代ロジック
この秘伝のソースは、辛いのが好きな人は豆板醤を多めに。豆板醤にけっこう塩けがあるので、その分しょうゆは減らして。紹興酒が家にあるなら、日本酒の代わりに使うと、本格中華になりますよ。えびの代わりにいかで作ってもおいしい。

暑い日に食べたいさっぱりした酢の物。オクラのネバネバは夏バテ防止にも効果大。

『わかめとオクラの酢の物』のレシピ 

材料[4人分]
わかめ(もどしたもの)……1カップ
オクラ……1パック(8~10本)

合わせ酢
薄口しょうゆ……大さじ1 
米酢……大さじ1
砂糖……小さじ1
ごま油……小さじ1

作り方
(1)もどしたわかめはよく水洗いし、2~3cm長さに切る。オクラは水洗いし、熱湯でサッとゆでてざるにとる。粗熱が取れたらヘタを切り落とし、小口切りにする。
(2)ボウルに合わせ酢の調味料を入れて、ひと混ぜする。
(3)器にわかめとオクラを盛り合わせ、合わせ酢をかける。

カツ代ロジック
オクラってよくネットに入って売られてますよね。あれも活用できます。洗う時に、ネットごと水洗いすると汚れがきれいに落ちるんです。ゆでるのは本当にサッとでOK。ゆですぎてグタグタにしないようにご用心。

春雨、きゅうり、ハムとオーソドックスな組み合わせなれど、昭和の時代から相も変わらずみんなが大好きな味。

『春雨ときゅうりの中華あえ』のレシピ 

材料[4人分]
春雨……50g
きゅうり……2本
ハム……4枚

ドレッシング
砂糖……小さじ1 
しょうゆ……大さじ1
米酢……大さじ1
ごま油……小さじ2

作り方
(1)春雨は袋の表示通りにもどし、水洗いして水けをきり、食べやすい長さに切る。
(2)きゅうりは斜め薄切りにしてから細切りにする。ハムは半分に切ってからせん切りにする。
(3)ボウルにドレッシングの材料を混ぜ合わせ、春雨、きゅうり、ハムを入れて菜箸であえる。

カツ代ロジック
カツ代流ドレッシングの作り方は、材料をひと混ぜするだけ。しつこく攪拌して混ぜると、どろどろしてくどい味になります。ササッと混ぜると、あっさりした味に仕上がり、白いご飯の献立にもマッチします。不思議ですよね……。

懐かしい昭和メニューのひとつ。一度食べると、また食べたくなる!

『ちくわのチーズフライ』のレシピ

材料[4人分]
ちくわ……1袋(4~5本)
プロセスチーズ1cm厚さ……4~5枚
揚げ油……適量

【フライ衣】
小麦粉……適量
溶き卵……1個分
パン粉……適量

作り方
(1)チーズはちくわの穴に入る太さに切り、ちくわの穴に詰める。
(2)小麦粉、溶き卵、パン粉の順にしっかり【フライ衣】をつける。
(3)
中温(170~180度)の揚げ油で、全体がこんがりと色づくまで揚げる。

カツ代ロジック
ちくわは太ちくわではなく、1袋に4~5本入った細いちくわを使います。

次回は8/24(土)更新! お楽しみに。
柚木麻子(ゆずき あさこ)
2008年「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞し、10年に同作を含む『終点のあの子』でデビュー。15年『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞を受賞。著書に『私にふさわしいホテル』『ランチのアッコちゃん』『伊藤くん A to E』『マジカルグランマ』『BUTTER』『らんたん』『とりあえずお湯わかせ』など多数。 毎月第4土曜日更新・過去の連載はこちら

文・写真/柚木麻子 イラスト/澁谷玲子 プロフィール写真/イナガキジュンヤ  取材協力/(株)小林カツ代キッチンスタジオ、本田明子

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