10月後半、だんだん寒くなってきて、温かい食べ物が食べたくなってきた。
それと同時に梅雨時期に仕込んだ
豆板醤(トウバンジャン)の様子が気になった。
去年つくった自家製豆板醤のあのおいしさが忘れられず、今年も6月ごろに仕込んだのだ。
作り方は簡単で、よくつぶしたそら豆と塩と麹を混ぜて熟成させるだけ。
きっと鍋がおいしくなるころにでき上がるだろうな〜と完成をとても楽しみにしていた。
保存びんがたくさん並ぶ棚から豆板醤を取り出してみると……
数ヵ月ぶりに見た豆板醤。そこには……
なんと、黒いカビが……!
がーん。カビさせてしまった……
落ち込んでふたを開けてみる。やっぱり黒いカビが表面にブワッと広がっていた。
あーあ……せっかく時間をかけて熟成させたのになあ。
もったいないので対処法をネットで調べると、カビている部分を取って下までカビてなければ食べられると書いてあった。
ドキドキしながらスプーンで表面をすくってみる。
下まで……カビて……
なかった!!!よかった。表面だけだった。
カビはなかなかグロテスクだったが、その部分をしっかり取ってあげると朱色のきれいな豆板醤が出てきた。
スプーンでさわってみると、
ふかふかしていて発酵を感じた。
さっそく、味見してみる。少しスプーンにとって口に入れてみると、
甘い!
麹の甘さと、ふわっとした華やかな香り。甘さにつつまれたぴりっと感に食欲がめきめきとわいてくる。
作ってよかったと心から思った。
さて、この豆板醤をどうやっておいしく食べようか。
調味料って基本的に食べ物をおいしくするためにあるものだと思うが、私が発酵調味料を作るときは、この調味料をおいしく食べるためにどんな食べ物がいいか? を考える。
この豆板醤に何を合わせるのかを、じっくり考えてみる。
最近は寒くなってきたので、野菜をとりたくても冷たいサラダは少しつらくなってきた。
温かい野菜が食べたいと思っていたので、
キャベツとにんじん、そして麹をもみ込んだ鶏もも肉をせいろで蒸したものを豆板醤で食べることにした。
ホクホクの蒸し野菜とお肉を、ごま油・豆板醤で食べると……
もう、たまらなくおいしい。豆板醤のおいしさがシンプルな蒸し野菜に抜群に合う。
ぷりぷりしっとりなお肉と豆板醤。これで充分だ。
はあ、おいしかった。
熟成期間が長いから、今年はいいかな〜とも思っていたけど、あのときつくっておいてよかった。6月に仕込んだ自分をほめたい。
さらに熟成が進んでいく過程を今年の冬の楽しみに、日々の〈暮らし〉を楽しんでいきたいと思う。
PROFILE
井上咲楽(いのうえ・さくら)1999年、栃木県生まれ。2015年「第40回ホリプロタレントスカウトキャラバン」を経て芸能界入り。「おはスタ」「新婚さんいらっしゃい!」など、バラエティ番組で見せる明るいキャラクターで人気を博す。NHK大河ドラマ「光る君へ」に出演。2024年5月、『井上咲楽のおまもりごはん』を出版。「発酵食品ソムリエ」資格、「食品衛生責任者」の資格も持つ。