悩みとは生きている証拠。だれもが大なり小なり抱えているお悩みに、マダム・サルディンヌこと
猫沢エミさんが真摯に、時に愉快にお答えします。
今月の迷えるお悩み
現在育休中。夫は家事育児をできるかぎりやってくれるのでありがたいのですが、休日は暇を見つけては趣味に没頭し部屋にこもります。その間私が子どもと遊んだり寝かしつけをしたり、結局私ばかり子どもと過ごす時間が多いのです。今日夫は友達と昼ごはんを食べに出かけました。「いい?」ときかれ「行っといで~」と答えたのは私ですし、今日も家事育児をいっしょにやってくれたのに、いざ出かけていくとまた私ばっかりと不満に。子どもは好きなのに、そんなことが不満に思えてくる自分がいやでつらいです。不満をためないようにするにはどうすればよいですか?
ゆずチップ(30~39歳・育休中・岡山県)
こんにちは。あなたのお悩みの友、マダム・サルディンヌです。
だれしも不満はたまるもの
夫への不満だけにとどまらず、人間はなにかと不満がたまる生き物ですよね。かく言う私も、つい自分の仕事が忙しいときなど、フランス人のパートナーのほうが自由で気楽に見えてしまい、ゆずチップさん(以下・ゆずさんと省略)と同じように、ちいさな不満を胸のうちにためる……なんてことがよくあります。
そしてこれまた同じく、自分から「行っといで〜」と言っておきながら、後から「なぜ私ばっかり家に……」と、モヤモヤした気持ちを抱えることも。
なぜか? 私はこう分析します。もしもこれが、〝ただ自分が出かけたい〟という単純な理由だったなら、相手に対してもストレートに「いついつ私は出かけるから、その日はよろしくね」と、素直に頼めるような気がするのです。ところが、ゆずさんの場合はお子さんという責任の所在があり、私には仕事という責任の所在があって、出かけたくとも出かけられないというジレンマがある。このジレンマの中身をさらに分析してみると、
① パートナーとは関係なく、自分の範疇内でうまくいっていない不満もパートナーにぶつけている可能性。
② 自分も出かけたいが、もちろんパートナーの自由時間も尊重したいという思いやりゆえ、つい自分の気持ちを後回しにしがちになる(その結果、アンビバレントな2つの感情の間でモヤモヤが渦を巻く)。
③ どちらが出かけるというよりは、本当は二人の時間をもっとつくりたい。
の3つでは? と思いました。
一人でストレスをため込んでいませんか?
まず、①。現在、育児休暇中で家にいることの多いゆずさんのお立場を想像してみると、一人でストレスをため込みがちな環境ではないかと思います。人はだれしも、話し相手のいない一人きりの状態でいると、ありもしないネガティヴなことを想像してしまうものなので、不満が自発的なものなのか? それとも本当に旦那さまの振る舞いによるものなのか? を混ぜこぜにしないよういま一度整理して考えてみて、やはり旦那さまだとなれば、ため込まずにきちんと言葉で伝える必要があるでしょう。
②は、私も非常に身に覚えのあることなのですが、これはむしろパートナーに対する気づかいや愛情からくるものなので、これもあまりネガティヴにとらえず、相手への気づかいを一度横に置いて、ご自分がどうしたいのかを考えてみてください。
私が以前、この場面に遭遇したとき、正直に「あなたも平日忙しくて気分転換が必要だと思うから、出かけるのは賛成なんだけど、私も同じだから、次は私が出かけてもいい?」と、提案しました。
じつはこんなとき、相手は意外なほど〝言われるまで気づかない〟ことが多いんです。〝薄々は感じていたけれど、できれば見て見ぬふりをしたかった〟という心理の裏返しで起こる、すれ違いの原因になりがちなポイント。旦那さまが休日、暇を見つけては趣味に没頭して部屋にこもるという行動も、子育て期間中なのにどうして? と首をかしげるところかもしれませんが、じつはこの心理状態が拍車をかけているように思います。
お互い、ただの人間で、疲れもすれば現実から逃げたい気持ちも当然ある、という弱い部分をきちんと認め合ったうえで、遠慮せずに自分の希望をしっかり伝えることをおすすめします。
二人で生きている、という自覚を持ってみる
最後に③、これは今回のゆずさんのお悩みだけにとどまらず、日本のカップルに向けての問題提起でもあります。フランスは、子どものいる・いないに関係なく、カップルがいっしょに過ごす時間が日本と比べてとても長いと感じます。そもそも、愛し合っていっしょになった者どうしなのだから、おのずといっしょにいる時間は長くなる ……という至極自然な出発点を、フランスのカップルは忘れていないと感じるのです。
かたや日本のカップルは、いつの間にか〝相手と私〟という二者に分かれて、その違いにばかり視点がいく。私が、あなたが、ではなく、二人で話し合い、二人で子どもと遊び、ときにはカップルとして二人だけで出かける時間を設けてみるなど、
二人で生きている自覚と感覚を、もう一度取り戻してみることをおすすめしたいです。それにはやはり、言葉による対話が大切。〝思いを言葉にし慣れる〟ということも、日ごろから自分の希望を上手に伝えられるようになる秘訣です。ゴッド・ブレス・ユー♡
そんなあなたへのマダムの処方箋
不満・イライラを解消する
「さつまいものシナモン煮」
材料(作りやすい量:2~3人分)さつまいも……1本(約 300g)
【煮汁】
水……1カップ
白ワイン……1/4カップ
さとうきび糖……小さじ2
和風だしの素(あご・顆粒)……小さじ1
塩……小さじ1/4
シナモンパウダー……小さじ1/4
レモン汁……小さじ1
しょうゆ……小さじ4
はちみつ……小さじ1
シナモンパウダー……適宜
作り方(1)さつまいもはよく洗い、皮つきのまま小さめの一口大の乱切りにする。
(2)煮汁の材料を鍋に入れて中火にかけ、ひと煮立ちしたらさつまいもを入れて、落としぶたをし、弱火で20分ほど煮る。
(3)煮汁がほとんどなくなってきたら、落としぶたを取り、鍋を回すように揺すって残っている煮汁をからめれば、でき上がり。仕上げにシナモンパウダーをパラリとふれば、香りUP。
効能:不満・イライラに効果的なのは、ビタミンB群を含む食品たち。ビタミンB群とはビタミンB1をはじめとする8種類で構成される水溶性のビタミンで、一度にたくさん摂取しても尿で排出されてしまうため、毎日こまめにとるのが理想的です。特にアミノ酸の再合成を助けるビタミンB6は動物性たんぱく質といっしょにとると、すこやかな体づくりにひと役買ってくれるのです。このビタミンB6が豊富に含まれているのがさつまいも。ご存じのように便秘予防の繊維質ほか、安眠効果のあるトリプトファンやカリウムも含まれていますので、食べない手はない、と。
このレシピは東京時代によく作っていたものの再現ですが、フランスへ引っ越してからは、さつまいもの種類が日本とは違っていることもあり、遠のいていました。ふと思い出して作ってみたところ、煮上がりがねっとりと、どちらかといえば、かぼちゃに近い食感にはなりましたが、フランスのパタドゥース(さつまいも)で作ってもおいしくできました。
白ワインで煮るというアイディアは、じつはパリ滞在中に日本酒がなくて白ワインで代用したことがきっかけでしたが、香りよく、シナモンと絶妙な調和が生まれるので、今ではどこに暮らしても白ワインで煮るようになりました。
そういえば、東京暮らしのときには、週末にさつまいものシナモン煮をたくさんこしらえて、お弁当や副菜ほか、小腹がすいたときのおやつとしてもよく食べていたことを思い出します。私は無意識のうちに、ストレス軽減メニューを備えていたのかもしれません。
というわけで、しばしみなさまのお悩みにお答えしてまいりましたこのコーナー、次回で最終回となります。ご愛読いただきましてありがとうございました。最終回のお悩み、お待ちしています!
ビタミンB群について( 【森永製菓】プロテイン ビタミンB群の働き、多く含まれる食品を紹介より)
イライラを軽減する食品について(サントリーウエルネス Online 健康情報コラムより)
さつまいもの効能について(MEN'S HEALTH・サツマイモを食べるべき8つのメリット|期待できるダイエット効果より)
猫沢エミ(ねこざわ・えみ)
2002年渡仏。2007年より10年間、フランス文化に特化したフリーペーパー《BONZOUR JAPON》の編集長を務める。超実践型フランス語教室《にゃんフラ》主宰。著書に「ねこしき」(TAC出版)、「猫沢組・POSTCARDBOOK〜あなたがいてくれるなら、私は世界一幸せ」(TAC出版)など多数。10月26日、規格外で笑いに満ちたブラックファミリーヒストリー『猫沢家の一族』(集英社)が発売。12月下旬、1960年代のフランスで大ヒットした名料理本の日本語版が待望の出版、『料理は子どもの遊びです』ミシェル・オリヴェ 著/猫沢エミ 訳(河出書房新社)が発売。インスタグラム
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