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馬田草織の塾前じゃないごはん
塾前じゃないごはん=お夕飯のこと。ポルトガル料理研究家で文筆家の母・馬田草織さんとJKこと女子高校生の娘さん。女2人で囲む気ままな食卓の風景をお届けします。さて今晩の「塾前じゃないごはん」は?

春キャベツとチーズあふれる『山盛り春キャベツのフライパンホットサンド』春休みランチにも

2023.03.28

春休みランチにも。かぶりつきたい「山盛り春キャベツのフライパンホットサンド」

[第2回]卒業式、思春期の始まり、そして、スマホどうするよ問題

3月も終盤になると、東京では桜が咲きはじめる。だから入学式の前に行われる卒業式は、桜の花の下で迎えることが多い。JC娘の小学校の卒業式は2年前のちょうどいまごろだったが、そのときも桜は気持ちよさそうに咲いていた。

自粛ムード一色だった、2年前の学校生活

少しだけ2年前を振り返ると、当時はまだ世の中が未知のウイルスに戦々恐々だった。当時JS娘だった彼女の場合、6年生になる直前の春休みからそのまま休校になり、自宅待機が続いた。結局その年は修学旅行も文化祭もなく、学校生活は自粛一色。私も娘も家で悶々と過ごした。いや、当時は世界中みんながそうだった。なにしろマスクが圧倒的に足りなくなって、転売騒ぎが起きたぐらいだ。

かなりたってから、各家庭にやたらと小さなマスクが届けられたが、あれは何の役にも立たなかった。家から出られないからあっという間に運動不足になり、なんかしないとまずいとAmazon経由で縄跳びを買った。そのぐらい切羽詰まっていた。いま縄跳びは玄関の物置の隅に置かれ、誰も使っていない。

いざ迎えた、卒業式。そして……

そんなダークな日々を経ての卒業式だったから、清々しく晴れたことがうれしかった。飛沫が飛ぶので歌はなし、と聞き、どんなに寂しい式になるのだろうと思っていた。
が、参列するとそんなことはなかった。だれだかわからない来賓の祝辞はカット。音楽の先生が奏でるピアノのうららかな音色に合わせ、卒業生に粛々と卒業証書が手渡されていく。参加者は、おだやかな拍手で祝福する。静かな会場で、めいめいがこれまでの出来事に思いをはせることができた。

とてもいいぞ、この式。大人が勝手にくっつけてきた余計な飾りが潔く取り払われ、本当の意味で、卒業する生徒が主役になった式だった。これから先、マスクをはずして歌を歌えるようになっても、それ以外はこのままがいい。そう思った。

やがて式が終わると、子どもたちは教室に戻った。当日の朝、教室には担任の先生の手で、黒板アートが描かれていたらしい。娘のクラスの子どもたちは、メッセージを目いっぱい書いたTシャツをないしょで用意し、先生に渡したらしい。そうやって先生とお別れの時間を過ごし、やがて校庭に出てきた。先生がたが作ってくれた花飾りのアーチをくぐり、そのあとは思うままに友達や先生と話をし、別れを惜しむ。親はその様子を遠巻きに見守っている。

6年前の入学式では、終わるやいなや親のもとへ走り寄り、片時も離れなかったちびっ子たち。ランドセルが重そうだったあの子たちはいったいどこへ。すっかり育った目の前の6年生たちはもうとっくに思春期に突入していて、なんなら青春めいたものが始まっていた。コロナ禍だったが、ちゃんと自分たちの世界がつくられていた。知らないのは、親ばかりだった。

と、ここまでは青春の1ページ的な話。私にとって忘れられないのは、このあとの出来事だ。

目の前に広がる、衝撃の光景

校庭に出た子どもたちは、やがて親からパスされたスマホを手に持ち、写真を撮りはじめた。ほぼ全員だ。スマホを持っていないのは、うちの娘と、あとだれかいるのだろうか。探したけどなかなか見つからない。

ここでついに、現実を知ることになった。それまで何度となく娘と話し合ってきたスマホ問題。現代の親なら、だれもが悩むスマホ問題。中学生になるまでは絶対にダメだと、かたくなに拒んできたスマホという存在。コロナ禍で、よその子どもを見ることがほとんどなかったから、なんとか持たせないことを貫けた。

そして卒業式。目の前で晴れやかにはしゃぐ子どもたちのほとんどが、手にスマホを持っているという事実。まるで、みんな靴をはいているのに、自分の娘だけ草履だった、いや、はだしだったみたいな。そのぐらいインパクトのある光景だった。
 
みんなが持っているから、という思考にはひっぱられたくなかった。けれど、たとえばそのとき撮り合った写真のデータを、娘はどうやって受け取るのか。
そう考えると、スマホは必要になってくる。というか、みんな卒業後のやりとりはLINEだってよ。まじですか。いや、そりゃそうか。そこまで知ってしまったら、さすがにダメとは言えなくなってしまった。娘の懇願には、それなりの事情があったのだ。

恐るべきかな、スマホパワー

卒業式の帰り道、明日スマホを買いに行こうか、と話した。その瞬間に見せた、娘の弾けるようにうれしそうな顔。なんか、ちょっとすまなかったね。途中、家の近くの満開の桜の下で親子で撮った写真には、珍しく心から笑っている娘がいた。明らかに、スマホの力だった。

翌日、さっそくショップに行って子ども携帯を解約し、スマホを契約した。娘はいつもよりずっと素直だ。なんならちょっと距離が縮まったような気もする。カウンターで店員と契約の手続きを進めながら、さっそく利用制限のルールをどう作るか悩む。そして間もなく中学校生活が始まると、子どもたちのスマホでのやり取りがますます盛んになった。
というか、スマホしか勝たん、だ。そして、親がせっかくかけたはずのさまざまな利用制限を、いとも簡単にくぐり抜けるJC娘。そういうところの学びのスピードは超音速レベルだ。

この2年で学んだ、スマホ教訓

あれから2年たち、得た教訓がある。それは、スマホのスクリーンタイムのパスコードは、絶対に子どもにわからないようにするということ。そして、利用時間の制限も絶対だ。ティーンの電子機器に対する理解の速さは、老化街道まっしぐらの親のはるか上を行く。

今年も桜咲く卒業式のあと、私のようにスマホの実情に衝撃を受ける親はいるのだろうか。スマホ問題で悩む全世界の親子に、幸あれ(含むわが家)!

今回の塾前じゃないごはん


山盛り春キャベツのフライパンホットサンド

春休み、家でのお昼ごはんにもおすすめの、春キャベツをもりもりはさんだフライパンホットサンドです。専用のプレス器具がなくても大丈夫。フライパンでできます。
小さなまな板と鍋のふたで重しをして焼くだけ。こんがり焼けたパンの食感と加熱されたしっとり野菜の組み合わせは、小さな発見に似て楽しいもの。

好みのパン2枚は片側にマヨネーズと酸味強めの粒マスタードをたっぷり塗ります。フライパンにオリーブオイルを温め、せん切りキャベツを入れて塩をふり、ふたをして蒸し焼きに。キャベツがしっとりしたら取り出します。
パンの1枚の上に山盛りに広げ、黒こしょうをひき、シュレッドチーズをのせてもう1枚のパンではさんだら、あとは焼くだけ。

フライパンを拭いてバターを落とし、サンドしたパンを静かに置いて、上に小さなまな板と重たいふた(わが家はル・クルーゼ)をのせます。重いふたの代わりに皿を数枚重ねても。弱火でじっくり3分ほど焼いたらそっと返し、同じようにして両面こんがり焼きます。中のチーズがいい感じに溶けたら完成。

包丁でスパッと半分に切り、両手でつかんでかぶりつきます。キャベツは多ければ多いほど食べごたえのあるサンドになるので、思い切ってたっぷり炒めてほしい。あふれてはみ出したら、それはそれでかっこいいサンドだと思います。

馬田草織
馬田草織
文筆家・編集者・ポルトガル料理研究家。出版社で雑誌編集を経て独立。ポルトガルの食や文化に魅了され、家庭料理からレストラン、ワイナリーなど幅広く取材している。ポルトガル料理とワインを楽しむ教室「ポルトガル食堂」を主宰。著書に『ムイト・ボン!ポルトガルを食べる旅』(産業編集センター)、『ホルモン大航海時代』(TAC出版)などがある。一児の母。
インスタグラム @badasaori

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