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調理室池田 店のテーブル 家のテーブル

「調理室池田」はここから始まった。2018年、フランスでの出来事【よもやま話拡大版】

2024.06.21

「調理室池田 店のテーブル家のテーブル」第12回です。まわりの人におだてられ、今回の連載は「撮影よもやま話」の拡大版となりました。
担当は調理室池田オーナーで、この連載では撮影とスタイリングをしている私池田講平、なのでレシピの紹介はありません。その代わり私たちの料理や店づくりの背景にあるような話をしたいと思います。といってもなかなか書き出しが思いつかず、タイプが進まないままとうとう締め切り間近。まずは一枚の写真を頼りに書き進めてみよう。
パリ市内の夕暮れ時、夜はこれからだ
パリ市内の夕暮れどき、夜はこれからだ
私たち夫婦にとって2018年はエポックメイキングな年となった。そう、その年の12月に「調理室池田」をスタートさせたのだ。動機や経緯は話しきれないほどある。そのなかのひとつであり、大切な出来事であるその年の夏に訪れたフランスの話をしようと思う。

調理室池田が店を構える北部市場は川崎市の中央卸売市場。卸売市場法に基づいて地方公共団体が農林水産大臣の認定を受け、その監督下で開設されたもので大家は川崎市である。すべては問答無用にきっちりとした公的な手続きにのっとって進められる。出店に関してはこうだ。募集、申請、審査(書類・面接)、許可といったぐあいである。
リフォーム前の「調理室池田」
施工前の「調理室池田」
空き物件の募集を見つけ、私たちはやっかいな必要書類をそろえて事業開始のための申請をした。7月の出来事だったと思う。個人で一般客向けの事業がしたいという私たちのむちゃなプランに川崎市も戸惑っていたが、卸売市場法の改正の後押しもあり、市場長との面接までこぎつけた。あとは待つしかなかった。許可の返事がもらえることを期待しながら「どうにでもなれ」と、店の備品や商品にするアンティークを買い付けにフランスへ出向いた。
PONPOKOの前で。Mami Chan(左)と妻の宏実(右)。
PONPOKOの前で。Mami Chan(左)と妻の宏実(右)
パリはうだるほど暑く、モンパルナスに借りたアパルトマンにはクーラーなどなかった。パリ郊外に在住する宏実の友人(画家)の紹介で、一人の女性に出会った。彼女の名前はMami Chan。ノルマンディに住みフランスで活動するミュージシャンだ。ピエール・バルーが主宰するサラヴァ傘下のポポ・クラシック・コレクションからアルバムをリリースしている。ミュージシャンとしての活動のかたわら、PONPOKOという小さな雑貨店を営んでいた。日本の駄菓子や雑貨をとりそろえていて、地元のマダムや子どもたちに人気だと聞いた。
パリでの買い付けを終えた私たちは大荷物を抱え、TGVで彼女の暮らすリジューに向かった。週末に大きなのみの市がいくつかあるという。今にも壊れそうな赤いフランス車を猛スピードで運転してもらったおかげで(ただし彼女はバックができない)、ノルマンディののみの市をたくさん回ることができた。

その夜招かれたMami Chanの自宅では彼女の友人夫婦も合流し、りんごの木がある庭で皆でブロシェットのバーベキューを楽しんだ。バーベキューのおかげで私たちはすぐに打ち解けた。みんな猫を飼っていて、自分の家の猫がどれだけかわいいか写真を見せ合って笑った。目線を少し遠くに移すとそこには牛たちがいた。リジューは酪農とりんごの産地なのだ。

「今度テレビに出演するの。そこでマイ・フェイバリット・シングスの替え歌を歌おうと思っているんだけど、おかしくないか聴いてくれる?」と彼女は歌いだした。菓子パンを題材にしたおかしな歌詞で素晴らしい歌声だった。
私たちはたくさんの荷物と思い出をスーツケースに詰め込んでシャルル・ド・ゴールに向かった。空港で配られた新聞でジョエル・ロブションの訃報が知らされた。羽田について携帯電話の電源を入れるととたんに電話が鳴り、事業開始の許可が下りたと川崎市の職員から知らされた。

日本の空港はすみずみまでいきとどいており、すべてが完璧だった。リムジンバスの窓の外に目をやると、そこにはアメリカの立派なホテルがたくさん並んでいてなぜか痛烈な違和感を感じた。おかげで自分たちのやりたいことの解像度が一段高まった。これが2018年の夏の出来事である。

今回のよもやま話はここまで。また不定期で「撮影よもやま話拡大版」をお届けできればと思います。
次回は7/5(金)更新。夏のフルーツをたっぷり使った「型なしで作れるタルト」をご紹介します。

調理室池田
調理室池田
2018年12月に川崎市にある中央卸売市場北部市場内に開店。アンティークショップ・アートギャラリーを兼ねた、市場には珍しいスタイルのカフェ。早朝から働く人がコーヒーを片手に手軽に食べられるようにと作った焼き菓子や、ツナメルト、フリットといった市場で仕入れる新鮮な魚介類を使ったランチが人気。
公式HP 公式インスタグラム 

神奈川県川崎市宮前区水沢1-1-1 川崎市中央卸売市場北部市場 関連棟 45 
営業日/月・火・木・金・土曜
営業時間/7:00~13:30
(ラストオーダーは13:00、土曜日のみ14:00)
ランチタイムは 11:45~ 休みは市場に準ずる(原則、水・日曜と祝日) 
※一般のかたの市場への入場は8時から。来店の際は必ず上記HPかインスタグラムを確認してください。

調理室池田 過去の連載はこちら

撮影・文/池田講平 編集/小林

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