
こんにちは。ふだんは雑誌『オレンジページ』で料理ページを担当している編集マツコです。今日紹介する作品は死がテーマ。死を描いた作品はたくさんありますが、例えば重い病気はやっぱり辛く見えるし、残された家族はどうしたって悲しい。この映画、やがて旅立つ主人公を中心にストーリーが厳かに進んでいきますが、
ただシリアスなだけではなく、また「感動」のひと言で片づけられる内容でもありません。それは、「家族」というコミュニティが持つ気まずさとか面倒くさい気持ちとか、こっけいな部分もきちんと見せているからかもしれません。

次第に体が動かなくなる病に侵され、安楽死を決意したリリー(スーザン・サランドン)。
家族を集め、そこで最後の週末を穏やかに過ごした後、この世から旅立つ心づもりです。法的には安楽死が認められていないにも関わらず。病気の詳細や、そこに至るまでのリリーの葛藤はほぼ描かれていないので、安楽死の是非を問う映画ではないということです。
リリーの決断に対する反応は、家族のメンバーによってまちまち。彼女を側で支え続けてきた、医師で夫のポール(サム・二―ル)、この事態を受け入れつつもやはり落ち着かない長女のジェニファー(ケイト・ウィンスレット)とその家族、長らく音信不通だった次女のアナ(ミア・ワシコウスカ)、そしてリリーの親友リズ(リンゼイ・ダンカン)。既に死を受け入れてどこかひょうひょうとしたリリーに対し、残される者たちの間には緊張感が漂います。

「あなたの子育ては失敗だったの(的な内容)」次女のアナがリリーに対してこう言い放った場面、キターーーーーーと思いました。美しくこの世を去りたいリリーの気持ちは想像がつきつつも、見ているとなんかモヤモヤする気持ちもあって。「あなたの尊厳はもちろん大事だけど、残された人たちの尊厳は?」←こういうモヤモヤをアナが代弁してくれたような気がして。生活に問題を抱えているアナとしては、「娘たちを立派に育て上げた!」という母親の勘違いが許せないのでしょう。
人間の意地悪な気持ちって、死の前でも発揮されるんだなあとある意味感動しました。長女は長女で真面目さゆえに空気が読めない言動を繰り返し、リリーの親友リズも思わぬ形でこの家族に関与していて、「わた鬼」的なハチャメチャ感が面白いのです。
この作品は、デンマークの映画のリメイク。国によって死生観や家族観は違うから、雰囲気変わりそうですね。死を迎える母親を家族が支える感動のストーリー、だけではないところがこの作品の魅力だと思います。
『ブラックバード 家族が家族であるうちに』6/11(金)TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー
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【編集マツコの 週末には、映画を。】
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