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【編集マツコの、週末には映画を。Vol.102】『サンドラの小さな家』

2021.04.02


こんにちは。ふだんは雑誌『オレンジページ』で料理ページを担当している編集マツコです。最近は型にはまらない料理人の方が本当に多いと感じます。学校や店での修業を経ずして独学で成功する人は珍しくないし、お菓子屋さんのジャンルもバラエティ豊か。既存のシステムでは抱えきれないほど、料理が多様化しているんですよね。
一方、『サンドラの小さな家』が示すのは、旧態依然の社会システム。シングルマザーになった途端、あっという間に住む場所を失う女性のストーリーは、弱い者いじめをする社会への怒りに溢れています。同時に、型破りな解決法を考えつく主人公へのエールと、現状を変えねばならないという強い決意を感じる作品です。


「私は苦しんでいるのではありません。もがいているんです」。以前見た映画で、病と闘う主人公が放ったセリフを思い出しました。手を差し伸べられるのを待つばかりでないその姿勢は、今作の主人公サンドラ(クレア・ダン)と重なります。
夫ガリー(イアン・ロイド・アンダーソン)のDVから逃れるため、娘2人を連れて家を出たサンドラは、ホテルでの仮住まいを余儀なくされることに。公営住宅の順番待ちが3桁台(しかも100とか200ではなく)という描写がありましたが、アイルランドの住宅システムへの批判であると同時に、東京をはじめ世界中の大都市で見られる現象を指摘しているのかもしれません。
シングルマザーが困窮に陥る展開は珍しくはないですが、彼女が思いついたアイディアは斬新そのもの。「格安で家を建てる方法」を公開している建築家のサイトをネットで見つけ、自らの手で娘たちと暮らす家を建てようと決心するのです。


ここでいう家は、あくまで物質。homeではなくhouseとしての家であって、それ自体にあまり価値はないと思います。実際、掃除係としてサンドラを雇うペギー(ハリエット・ウォルター)が、自分の庭の一角を提供してくれるというラッキーな展開はそうあるものではないし、映画ならではのファンタジーに支えられている部分も。
それよりも、既存のシステムにおもねることをやめ、新たな突破口を見出したことが重要ではないでしょうか。原題の「HERSELF」という言葉通り、現状を嘆いて助けを待つのではなく、自ら行動する。それも、一人で全てを背負うのではなく、職場の同僚やママ友に家づくりの手伝いを頼むなど、「きちんと頼る」ところに映画のメッセージを感じました。アイルランドには「皆が集まって助け合い、結果自分も助けられる」という「メハル」と呼ばれる概念が存在するそう。これって、形は違えどどこの国にも宗教にもあると思うんですよね。


イギリスの巨匠ケン・ローチ監督と比較されそうな今作。ケン・ローチ監督の作品が、弱者を見放す社会に対する怒りで出来ているとすれば、この映画に見られるのは激しい怒りと、底抜けのポジティブさ。現状は必ず変わる、変えられるという強い気持ちを感じます。
サンドラを助ける仲間たちは、年齢も性別もバラバラの、どこか社会からはみ出したような面々。「DV被害に遭ったシングルマザーのお話」という見方はあまりに短絡的で、様々な人に向けて開かれた映画なのだと思います。

「サンドラの小さな家」 4月2日(金)、新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国公開
©Element Pictures, Herself Film Productions, Fís Eireann/Screen Ireland, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute 2020

【編集マツコの 週末には、映画を。】
年間150本以上を観賞する映画好きの料理編集者が、おすすめの映画を毎週1本紹介します。

文/編集部・小松正和

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