
こんにちは。ふだんは雑誌『オレンジページ』で料理ページを担当している編集マツコです。
家の近くにイスラエル料理屋さんがあって、そこのピタパンサンドが高いけど絶品で。シェフはちょっとムスッとした感じの方で話しかけづらいのですが、家では子煩悩なパパだったりするのかな……。
今回は、イスラエルの映画。イスラエルというと、政治的なテーマの作品も多いですが、今回はストレートな家族の物語。自閉症の息子とその父の姿を通して、人生のどうしようもない切なさを描いた、とびきりハートフルな作品です。

「僕はママが好き?」「僕は星形パスタが好き?」自分が好きなものをそのつど父親のアハロン(シャイ・アヴィヴィ)に確認するウリ(ノアム・インベル)は、チャップリンの映画が大好きな、自閉症スペクトラム症を抱える青年。日常の小さなトラブルはあるものの、息子との日々に満足していたアハロンですが、別居中の妻タマラ(スマダル・ヴォルフマン)が望むのはウリの自立。全寮制の施設への入所手続きが進められ、さらに定収入のないアハロンは、裁判所からもウリを施設へ入れるべきと判断されてしまうのです。これまでそうしてきたように、
これからも息子は自分が守り抜くと決心したアハロンとウリの、無謀としか言えない逃避行が始まります。ウリがいつも見ているのが、チャップリンの『キッド』(1921)という作品。浮浪者が捨てられた男の子を育てる物語は、厳しい現実に強い絆で立ち向かう、アハロンとウリの姿そのものなのかも?しれません。

障害がある息子のために自分の人生を捧げる、献身的な父親。映画の前半、そんな風に感じるアハロンの印象が、旅を続けるうちにだんだんと変わってくるんですね。デザイナーとしてのキャリアを積み上げていた彼が一線から退いたのは、どうやら息子だけが原因ではなかったよう。久々に再会した弟に「うまくいかないとすぐ投げ出す」と指摘される場面もありました。
ウリを思う気持ちに嘘はないけど、ある意味逃げ道としても利用している。そんなアハロンの人間臭さに、とっても親しみを覚えるのです。いつの間にか築き上げていた砂の城。旅の道中、実は息子がいつの間にか成長していたことに気づきたくない、その心理は誰にでもあるものではないでしょうか。

親としてアハロンに共感する人もいれば、若い人は子どもの立場で2人の関係を見つめるかもしれません。ただ、
この映画で描かれる人の弱さや優しさは、誰の心にも訴えかけるものがあるはず。何かが終わるのは悲しいけど、終わらせないと始まらないものがあるのも事実。2人の新しい関係のスタートを感じさせる、すがすがしいラストシーンが印象的でした。
早いもので、この連載も今回で100回目。これも、いつも読んでくださっている皆さんのおかげです。200回を目指して映画を見続けますので、これからもよろしくお願いします!
「旅立つ息子へ」 3月26日(金) TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
配給:ロングライド
©2020 Spiro Films LTD.
【編集マツコの 週末には、映画を。】
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