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バレエ教室で強烈体験【ダイエットマニア 一代記 第十回】

2020.03.28

ダイエットマニア 一代記10代で初めてダイエットを経験。以来39年間、失敗したダイエットは75種。かかった経費は少なく見積もって2百万円! そんなダイエットマニアの文筆家・大平一枝さんの〈しくじりの記録〉を週一回連載でご紹介します。

 

は、鼻がまがりそう……

 ダイエット散財記は、昔流行ったよね回顧録でもあり、なんだか古い話ばかりしているおばあさんみたいで恐縮であるがご容赦いただきたい。
 で、神田うのさんである。
 彼女がバレエの動きをもとにしたエクササイズでスリムボディをキープしていると話題になり、早速私と、ダイエットが趣味のライターの先輩と、バレエ教室に通おうということになった。まずは体験だよねと、はりきって行ったのを昨日のことのように覚えている。

 バレエ、ダイエット、大人、体が硬い。そんなキーワードで探し当てた大人向けバレエ教室は雑居ビルの3階にあった。
 このスタジオが、激しく狭い。
 勝手に、テレビで見るような10人くらいがバーに並んでレッスンを受ける、広々としたスタジオを想像していた私と先輩は、顔を見合わせた。小さな会議室程度のものだったからだ。
「と、とりあえず着替えようか」
「そうしましょう」

 更衣室はさらに激狭だった。縦長のロッカーがふたつあるだけで、受講生は自分の持ってきた大きな布袋に荷物をひとまとめに入れ、隅に置いていた。風呂敷に包んでいる人もいた。レオタードを風呂敷に……。なにしろ、二人立って着替えると腕がぶつかるくらいの狭さだ。
 元はなんの部屋だったのだろう。置き畳が申し訳程度に敷かれた、臨時の更衣室のようだ。
 そして、なにが驚いたって異常に汗臭いのだ。鼻が曲がりそうで、一刻でも早く脱出したいと私たちは先を競うようにして、〈ジャニーズの早着替え〉状態で着替えをした。
 優雅なバレエと、野球部の部室みたいなあの臭いがどうしても結びつかず、私達はしばし放心状態だった。かえすがえすも、前のレッスンを終えた人たちの残り香は強烈であった。

 体験レッスン者はバレエシューズをレンタル、服装は動きやすければなんでもいいということで、私はTシャツにジャージである。
「はじめまして。かずえちゃん、よろしくね」と、現れたのは中年の背の低い小太りのおじさんだった。先輩から男性とは聞いていたものの、アラフィフのおっさんとは……。

 

踊るおじさんから「ちゃん」よばわり

 先生の短い足は、パツパツのタイツに覆われていた。トップスは白Tに、髪はごま塩頭。なんだかもう、いろんなことが意外すぎて、神田うのさん助けて!と思った。

「私はものすごく体が硬いんですが」
 傍らで先輩が、早々に自首している。ごま塩先生はにっこり。
「だーいじょうぶ。みんな最初はそうだったから。さ、楽しんでね」
 ストレッチや基礎的なステップを習ったような気がするが、何しろ私と先輩だけジャージという、最強にもっさい姿で浮きまくっていた。
 他の生徒はレオタードにレギンスとニットのスカートが多い。年齢は20~40代で、文字通り〈大人〉の教室だ。

 ストレッチをしていると先生が大きな声で「かずえちゃん、はいもうちょっとがんばって。そう!うん、いい調子」と、ことあるごとに「かずえちゃん」を連発する。おじさんにかずえちゃんと呼ばれると、それだけでいたたまれなくなった。もうそんな年齢じゃないのに、なんだかすみませんと。
 全員でポーズを取るが、私と先輩だけすべてのテンポがずれている。
『世界の果てまでイッテQ!』で森三中がロシアバレエ団の練習に混ぜてもらうロケがあったが、あれは、自分を思い出すようで心が痛くて見ていられなかった。慣れたしなやかな人たちに混じって「ひーっ」とか「ぎゃー」と声を上げる(ストレッチするたび)中年女ふたり。

 レッスンが終わるなり、私達二人は更衣室に飛び込み、マッハの速さで着替えて外に出た。
 帰り道、先輩に言った。
「私、からだ硬いし無理っすバレエ」
「だよね。てかさ、先生のちゃんづけ、落ち着かなくない?」
「それ、一番思いました。おじさんがおばさんを、ちゃんづけで呼ぶってちょっとキモいっていうか……あの先生のタイツ姿も」
「おおだいら。それ以上は言うなて」

 三日坊主ならぬ一日坊主で私達のバレエ人生は終わった。一生懸命バレエに打ち込んでいる人には恐縮ですが、バレエ着って汗を吸うと臭いんですね。勉強になりました。

今回のお代1,500円
(バレエ教室体験レッスン費)

 

体を柔らかくすることより骨粗鬆症予防のほうが気になってきた昨今。毎朝、自家製ヨーグルトにアガベシロップをかけて食べています。飲み物は「月曜断食」で推奨されている白湯。

 

特設ページはこちら>>>

 

プロフィール

おおだいら・かずえ
文筆家。長野県生まれ。’94、編集プロダクションを経てライターとして独立。著書に『東京の台所』『男と女の台所』『もう、ビニール傘は買わない。』(平凡社)、『届かなかった手紙』(角川書店)、『あの人の宝物』『紙さまの話』(誠文堂新光社)、『新米母は各駅停車でだんだん本物の母になっていく』(大和書房)など。『そこに定食屋があるかぎり(ケイクス)』など連載多数。大学生長女と映画製作業の夫と3人暮らし。現在どうやら人生初のダイエット道アガリの噂あり。今後の展開にご注目を!

www.kurashi-no-gara.com
instagram : @oodaira1027
twitter : @kazueoodaira

イラスト/いいあい

 

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