
誰もが人生にドラマを持っている。自己肯定感を高めてくれる「自分史」作りが話題!

終活やミッドライフクライシスなどへの関心が高まるなか、各方面で注目される「自分史」。制作過程で“人生の悲喜こもごも”と向き合うことで、過去の失敗をプラスに転じられたり、忘れかけていた夢に気づけたりするのだそう。
そんな自分史の魅力や効能について、『月刊リクルート』編集長を経て独立後、幅広い世代の自分史づくりを支援してきた河野初江さんに教えていただきました。
自由な表現が楽しい「自分史」の世界
自分史とは生い立ちを本にするもの、と思っている方が多いかもしれません。もちろんそれもひとつですが、実は、つくり方も見せ方も、テーマも自由です。
1975年、歴史学者の色川大吉さんが、特別な人がつくる自伝や自叙伝とは違うものとして初めて「自分史」という言葉を使い、「歴史を歴史学者にだけ任せてはいけない。庶民こそ自分の歴史を書こう」と呼びかけたことに始まりました。
私は10年以上にわたって、自分史づくりのお手伝いをしながら、「平凡な思い出の中にこそ大事なことが隠れていますよ」「振り返ることで元気になりますよ」と言ってきました。

実際、自分史が完成したとき、皆さん、とてもいい顔になります。表紙をなでたり、書き出しを読んで照れたような顔をして閉じてみたり。また開いて読み進んで「そうそう、これはそういうことだった」と納得の表情を見せたり。
そんな姿を目にするにつけ、制作に携わった私たちも幸せで満ち足りた気持ちになり、同じように笑みをこぼしながらページをめくります。
自分史づくりがもたらす喜びと効能
では、自分史をつくった人たちは、どうしてそんなにも幸せな気持ちになるのでしょう? それは長年、自分が伝えたいと思っていたことが〝見えるカタチ〞になったからだと思います。
「あのことを伝えたい」「あのことだけは言っておきたい」とモヤモヤくすぶっていた思いが整理されて、すっきりとする心地良さ。それは散らかっていたり、大きな荷物でふさがっていたりした部屋が、片づいたような爽快さかもしれません。
その心地良さのおおもとには、自分史がもつ「記録」「自己分析」「自己PR」「コミュニケーション」という4つの機能があります。

さらに自分史づくりには、次のような効能があります。
*自己肯定感が高まる/自分のことがよくわかる
自分史がもたらす喜びのひとつは、自分の経験したことや達成できたことを思い起こすことで肯定感が高まり、自信が生まれることです。と同時に、自分を見つめ直す過程で、失敗や挫折にも意味があったと思えるようになるという効能もあります。
*これまでと違った目標が見つかる
今の自分が「やるべきこと」でいっぱいでは、新しい目標が入ってくる余地はありません。忙しい現代人の場合、まずは自分にとって何が大事かを整理することが必要です。そこで役立つのが、自分史づくり。過去を棚卸しすることで、急いで何をすべきであり、何をしなくてよいのかという優先順位が見えてきます。
*親子の絆を深めるきっかけとなる
親は働きざかりの頃、子供たちと話す時間がとれないものです。特に、単身赴任だったり長い間不在となる仕事をしている場合、ふと気がついたときには、子供たちが大人になっていた、ということも。そんなケースでは、親が退職後に書く自分史が、親子の絆を深めてくれます。
*頭の働きが活発化する
人生の出来事を回顧し、整理して表現しようとするとき、脳は思考や記憶、感情などの広い領域で稼働します。何かを思い出そうとしているときの脳は、アイデアを考えるときと非常に近いことをしているのだそうです。こうしたことから、自分史づくりは脳を活性化すると言われており、認知症予防にも利用されるようになっています。
*自分が得た知見や想いを次世代に伝えられる
個人の貴重な体験を記録した自分史は、その人にとって生きた証となります。「自分はそれほどの体験をしていない」という人がいます。けれども一人として同じ経験をしている人はいません。書いて残さなければ、その体験から得た知識や教訓もそのまま消えてしまいます。
映画『ALWAYS 三丁目の夕日』が描く昭和の時代を知っている人は、映画を見ることで懐かしい気持ちになり、自分も体験した〝テレビが登場した頃の感動〞を誰かと共有したくなるものです。
そのように平凡だと思う経験こそ貴重であり、多くの人に共通の経験として共感を呼ぶことになります。お子さんや、お孫さんがいる方であれば、それは家族共有の知識として次の世代に受け継がれる財産となることでしょう。
人は皆、さまざまなドラマの中に生きています。何か誇れるものがなければ立派な人生ではない、ということはありません。自分の足跡を丁寧に振り返ってみると、思いがけない「自分らしさ」と出会うはず。それは、いくつになっても〝これから〞を生きる糧となります。
教えてくれたのは……河野初江先生
一般社団法人自分史活用推進協議会理事。オフィス河野代表。株式会社リクルート『月刊リクルート』編集長を経て独立。広報誌や書籍を多く手がけ、リクルート創業者・江副浩正氏自伝『かもめが翔んだ日』(朝日新聞社刊)の編集を担当した。2015年に「自分史サロン」を立ち上げ、自叙伝のほか家族史、仕事史、子育て史、作品集、親の自分史など多様な自分史の制作に従事。「自分らしく」をコンセプトに現役からシニア世代まで、幅広い世代の自分史づくりを支援している。
(オレンジページ刊『ときめく自分史づくり』より抜粋・一部改変)

あわせて読みたい
原文/河野初江 イラストレーション/宮下和 文/編集部・嶋田