超高齢社会を迎え、「人生100年時代」といわれる現代。だからこそ、考えだしたら不安でたまらない、家族や自分の老後の生活。各分野のスペシャリストが、そんなあなたの不安にそっと寄り添います。 今回のお悩み/健康 最近、もの忘れが多すぎて落ち込んでいます。 54歳の会社員です。この年齢になると、体力の衰えだけでなく、記憶力の低下をひしひしと感じるようになりました。会話に「あれ、それ」が増えたのはもちろん、しょっちゅうスマホやメガネを探していたり、やろうと思っていたことをすぐ忘れてしまったり、聞いたはずの話が記憶に残っていなかったり(子どもによく指摘されます)。先日も、電子レンジで料理を温めている間に別件ですっかり忘れ、翌日に発見。自分のやったことにも記憶があいまいで、「玄関の鍵、かけたっけ?」と不安になることも。この年齢から記憶力を高める方法というのはあるのでしょうか?(54歳・女性) 山田悠史さんの回答 もの忘れ=年のせいと思い込まず、別の原因がないかどうか探ってみることも大切です。 お悩み回答者 山田悠史さん 年齢を重ねるにつれ、もの忘れが増えていく傾向にありますが、日常生活に支障がないのであれば、心配する必要はありません。脳というのはうまくできていて、その衰えた部分を「経験値」で補っているんですね。しかも、脳機能のすべてが加齢によって衰えるわけではなく、 言語能力などは20代よりも50代のほうが能力値が高い※1という結果もあるんです。30代ももの忘れはあったのに、50代になるとそれが気になってしまって、「もの忘れが多いのは年齢のせいだ」と、さらに落ち込んでしまうケースも多いので気をつけたいですね。うつ症状があると、記憶力の低下をまねくことがわかっていますから、「落ち込む」という行為自体も、もの忘れを助長せてしまうリスクがあります。また、もの忘れ=すべて加齢のせいというのは間違いで、まずは冷静にその原因を特定することが大切です。たとえば「目」と「耳」は、脳へ情報をインプットする重要な器官ですので、そのアンテナが鈍ってくれば、当然脳への信号が伝わりにくくなります。実際、視力・聴力の治療後に、認知機能が大幅に改善した例もたくさんあります。ほかにも甲状腺ホルモン※2の機能低下や、かたよった食生活によって特定のビタミンが欠乏していたりすると、もの忘れが起こりやすくなります。その場合、治療によってもの忘れを改善することが可能ですので、気になる点があれば一度医療機関に相談してみてはいかがでしょうか。 ※1 加齢による認知機能の推移 アメリカ・ワシントン州で行われた「シアトル縦断研究」によると、計算能力などは20代から一貫して低下してしまうものの、空間認識や言語能力、言語記憶などは20代のときよりも40~50代のほうが能力値の平均が高いことが観察されている。 ※2 甲状腺ホルモン 甲状腺ホルモンは、体内での新陳代謝を活発化させるとともに、細胞や組織の発育・成長にかかわる重大な働きをしている。甲状腺の働きが低下して、血液中の甲状腺ホルモンが不足すると、記憶障害や思考力低下、無気力などの症状が出ることがある。 山田悠史さん 米国老年医学・内科専門医。慶應義塾大学医学部卒。現在は、ニューヨークのマウントサイナイ医科大学老年医学科で高齢者診療に従事。著書に『最高の老後「死ぬまで元気」を実現する5つのM』(講談社)など。ポッドキャスト番組「医者のいらないラジオ」も配信中。 松本明子さんの回答を見る「老後の4K」のお悩みをすべて見る(『オレンジページ』2023年9月17日号より)