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猫沢エミことマダム・サルディンヌの「おいしい処方箋」

後輩の指導が嫌。この気持ちどう収めたらいい?【猫沢エミの悩み相談とレシピ・桃のクラフトソーダジュレ】

2023.08.12

悩みとは生きている証拠。だれもが大なり小なり抱えているお悩みに、マダム・サルディンヌこと猫沢エミさんが真摯に、時に愉快にお答えします。

今月の迷えるお悩み

後輩の指導が嫌。新卒でメーカー研究員になり早10年。一人前になり研究の仕事を進めていくのが好きな一方で、今後の収入やキャリアを考えると、一般社員的な立場から後輩を育ててマネジメントしていく立場に移っていかなくてはいけないのを感じています。が、後輩の指導が嫌で困っています。私が入社したころはまだ背中を見て学べというような空気感が強かったので、自力で苦しみながらスキルを身につけて一人前になったという自負があり、どうして後輩に簡単に渡さなきゃいけないの? と感じてしまいます。まだ完全にマネジメントの立場に移っていないこともあり、自分のスキルは自分の価値だとも思っています。私に対しては何も教えてくれなかった上司たちが手のひらを返したように指導をしろと言ってくるのも納得いきません。この感情をどう収めたらいいか、毎日悩んでいます。
チワワ(30~39 歳女性・フルタイム・メーカー勤務・埼玉県)


年齢による、キャリアのとらえ方の違い

猫沢エミさんこんにちは。あなたのお悩みの友、マダム・サルディンヌです。

なるほど。チワワさんのようなお立場とお悩みを抱えていらっしゃるかたは、意外と多そうですね。

まず、〝後輩に自分が苦労して培ってきた知識や英知を渡したくない〟と思われる背景には、チワワさんのご年齢が深くかかわっています。30代というのは、20代で始めた仕事のキャリアがようやく形になってのってくるころだと思うのです。最前線で働く、そして働きたい真っ盛りの年齢では、まだまだ〝他者を含めた自分と仕事のあり方〟というところまで発想が及ばないのは当然のことかもしれません。


異なる世代と働くことで得る気づき

私の仕事史を例に挙げてみることにします。ある意味、自分のことしか考えない職業に見える代表格のミュージシャン(本当は違いますけど。笑)という職歴から私のキャリアは始まりました。その後、30歳で個人事務所を設立、37歳で『ボンズール・ジャポン』というフランス文化に特化したフリーペーパーの編集長を務めることになり、さまざまな若手のスタッフを従えての大きなプロジェクトをまかされるようになっていきました。そのなかで学んだ数々の経験が、今の私をつくってくれていると思います。たとえば若い世代のスタッフには、私たちの世代(1970年生まれ)にはない、仕事への合理性があり、人にたずねるか百科事典をひもとくしかすべがなかった私たち世代の知識の集め方についても、インターネット世代の彼らは、まず自分で調べようという独立性を強く感じました。

情や人とのつながりを仕事以上に大切にする私世代の人間には、とてもフレッシュな感覚でしたし、若手のスタッフの働きぶりにハッと気づかされることも多かったのです。

反対に若手のスタッフは、私たち世代といっしょに仕事をすることで、仕事への粘り強さや、経験値を肌で感じて、学んだところが多かったのではないかと思います。つまり経験値の高い、知識豊富な先輩側だけが、いつも後輩にそれらを手渡しているわけではなく、違う世代どうしがともに仕事をすることで、相互の利点を教え合っているのです。

手放した分だけ、入ってくるものがある

私の話が続いて申し訳ありませんが、あともうひとつさせてください。

44歳のとき、今度はフランス語の教室を開くことにしました。理由は、フランス語分野での言葉の研究をしてみたかったという学術的な理由もありましたが、もっと人間的なところでは、子どもをつくらなかった私は、持っている知識を新しい世代に伝えたいという年齢からくる本能的な欲求があったのだと思います。そして、できないこと、知らないことを、できるように、わかるようになっていく生徒たちの姿を見て、〝人の成長を眺める、しかもそのすこやかな成長は、自分の知識が促しているものだ〟という満足感を知りました。もしかしたら、これが子を育てる親の喜びなのかな? と、思いつつ、子どもをたとえ持たなくとも、こうして知識のDNAは伝えていくことができると知ることができて、本当によかったなと思いました。

そして先生業というのは、心底自分が理解していないと生徒に説明できない立場ゆえ、だれよりも最前線で学びつづけなくてはいけない立場でもあります。つまり、どこまでキャリアを積んでも、最前線で働きつづけるには学びが必要で、それには世代を超えた知識の交換に抵抗がない自分を若いころからつくっておくことが必要なのです。

それに知識というものは料理のレシピに似ていて、たとえレシピどおりに作っても作る人が違えば味も変わります。つまりあなたがこれまでに、そしてこれから得る知識は、どんなに人に手渡しても減るどころか、手渡した分だけ新しい知識が入ってきて、ますますリフレッシュされるというわけです。

どうぞご安心を。今はご自分のキャリアを精いっぱい追いかけて。そして、来たるべくリーダー世代には、今日のこの答えを、頭の隅っこで覚えておいていただけたら。

最後にもうひとつ。私は知識にせよ、愛情にせよ、形のない財産は、ケチらず自分がからっぽになるまで他者に与えることをモットーとしています。すると、からっぽになった自分の中にある泉が、ふつふつとまた新しく湧き上がるのを感じるのです。形のない財産は、与える人が豊かになる素晴らしい人生の贈り物ですね。ゴッド・ブレス・ユー♡


そんなあなたへのマダムの処方箋
とろりとほぐれる
「白桃のクラフトソーダジュレ」のレシピ


材料(4人分)
白桃……1個(300g前後/厳密でなくてOK)
お好みのクラフトソーダ……1と1/2カップ
さとうきび糖……50g(使うソーダの甘さを見て調節する)
レモン汁……小さじ2
板ゼラチン……5g(5枚)
お湯(50℃程度)……1/4カップ
お好みでハーブ(バジル、ミント)の葉……1〜2枚

(下準備)板ゼラチンが入る大きさの密閉容器にたっぷり水を入れ、冷蔵庫で冷やしておく。

【板ゼラチン・粉ゼラチン どちらを選べばいいの?】
ゼラチンには、板状のものと、粉状のものがあり、扱いの手軽さから粉ゼラチンがよく使われている印象ですが、粉ゼラチンは弾力のある仕上がりで、板ゼラチンは粉よりも固まる硬度が低く、透明度の高いクリアな仕上がりに。ジュレには板ゼラチンをおすすめします。

【板ゼラチンの扱い方とふやかし方】

冷蔵庫で冷やしておいた水入りの密閉容器を出して、板ゼラチンを1枚ずつ水に沈めます。このとき、必ず1枚ずつ完全に沈めること。冷蔵庫で10℃以下に冷やされた水に板ゼラチンを沈めれば、それぞれがくっつくことなくふやかせます。5枚沈め終わったら、再び密閉容器を冷蔵庫に入れて、5分おけば板ゼラチンのふやかしが完了です。そして板ゼラチンは、必ず乾いた手で扱いましょう!

作り方
(1)桃は皮をむき、種のまわりに一周、ナイフの刃を入れ、半分をひねりながら、種から身を切り離す。種はスプーンでくり抜く。切った身は食べやすい半月に切り分けてボウルに入れ、レモン汁をかけて両手でやさしく混ぜておく。
(2)湯とさとうきび糖を小さめのボールに入れて完全に混ぜ溶かしたら、冷蔵庫からゼラチンを取り出して、1枚ずつぎゅっと水を絞ってからボールに入れて、完全に溶かす(一瞬で溶けます)。

(3)大きめのボールにルにクラフトソーダを入れて、ゼラチン入りの砂糖液を混ぜる。このとき泡立て器を使ったり、激しく混ぜたりせず、木べらなどでなるべく泡立たないようにやさしく混ぜるのがポイント。ソーダの泡はジュレになっても残るので、できるだけ泡を消したくないのと、混ぜることで立つ余計な泡を作らないため。切った桃を混ぜ、器に入れて冷蔵庫で4〜6時間冷やせば、作りたてのときにしか味わえない、ごく淡い口溶けのジュレに。一晩おけば、もう少しゼリー感のある仕上がりになります。
ソーダの発泡感をほのかに感じる、夏におすすめのデザート。わが家ではミントやバジルの葉を添えて出して、その葉っぱを小さくちぎってジュレといっしょに、さわやかなハーブの風味と効能を楽しんでいます。

【クラフトソーダ選びのコツ】

近ごろ日本では、おいしいクラフトソーダが各地で作られていますよね。フランスでは、さまざまな果物のソーダが昔ながらの製法で作られていて、マルシェなどで買うことができますが、今回私が使ったのは、市販のものでイギリスのTHE LONDON ESSENCE Co.「White peach & Jasmine Crafted Soda-白桃とジャスミンのクラフトソーダ」です。ソーダの美しいローズ色と、ジャスミンのほのかな香りが白桃にぴったりでした。暖色(桃やすいかやかんきつ類など)の果物なら、ソーダも暖色を。寒色(メロン、りんご、マスカットなど)には寒色系を合わせると、仕上がりの色みがきれいです。

効能:桃は効能というよりも、食べるとホッとする、やさしい女の人みたいな果物
だと私は思うんですよね。その理由は、うぶ毛に包まれたピンクの柔らかな実の感触と、あのたまらない甘い香りのせいでしょう。じつは桃の香りには、ラクトンという20〜30代の女性の体臭と同じ成分が含まれています。それゆえ、私たちが若い女性とすれ違うとき、桃のような甘くやさしい香りをキャッチするのですね。そんな桃は、ペクチンをはじめ、腸内環境を整える栄養素を多く含み、甘みとは反対に低カロリーでダイエット中のかたでも安心してめしあがれます。ジュレのとろけるような食感と桃の甘い香りに包まれて、凝り固まった思考をとろりとほどきましょう


桃の基礎知識について(E・レシピより)
板ゼラチンと粉ゼラチンの違い(富澤商店より)
猫沢さんが使ったクラフトソーダ WHITE PEACH & JASMINE CRAFTED SODA 

猫沢エミさん

猫沢エミ(ねこざわ・えみ)

2002年渡仏。2007年より10年間、フランス文化に特化したフリーペーパー《BONZOUR JAPON》の編集長を務める。超実践型フランス語教室《にゃんフラ》主宰。著書に「ねこしき」(TAC出版)、他多数。最新刊・愛猫イオとの物語「イオビエ〜イオがくれた幸せへの切符」(TAC出版)が昨年12月に発売されたばかり。インスタグラム@necozawaemi


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猫沢エミさんへのメッセージ、質問、悩み相談は随時受付中。小さなものから大きなものまで、ジャンルは問いません。今気になっていることを、お気軽にどうぞ♡



文・料理写真/猫沢エミ イラスト/イナキ ヨシコ プロフィール写真/馬場わかな 関めぐみ

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