銭湯コミュニティは味わい深い
休日は、銭湯を拠点に知らない街へ遊びに行く。
日常的に近所の銭湯ばかり行ってしまうので、せっかく時間ができた日は遠くまで行きたいし、散歩好きとしても自分の日常と接点のない街を歩きたい。
Googleマップにメモしている銭湯リスト(サウナあり)を大ざっぱに見て、今日は右上に人さし指1本分離れてるところに行ってみようとか、あらゆる方法で雑に決めている。雑なほうが予定調和にならなくておもしろい。
東京銭湯スタンプラリー(日付だけ消してます)
それにわたしは、「東京銭湯」のスタンプラリーをやっているから、なるべく行ったことのない銭湯に行きたいのだ (同じ銭湯は押せない)。
銭湯には、地域に根づいた銭湯コミュニティが存在する。もちろんわたしが足しげく通う地元の銭湯にだってそれはあって、わたしもその一員だ。
「今日は何してたの?」「昨日、テレビにあそこのそば屋が出てたよ。」「ゾウが名前を呼び合ってるって『日経新聞』の一面になってたのよ。ゴシップよりも未来ある話が好きよわたし」そんなたわいもない話で盛り上がるサウナ室。たわいもなさすぎて、ラブすぎる。

知らない街の銭湯で日常会話に溶け込むのも楽しい。聞いたことのないスーパーやごはん屋さんの話、芸能ニュースなんかはどこのサウナでも共通するトークテーマで、それもまたおもしろい。
ちなみに、サウナでおしゃべりに交じりたいときのわたしの流儀はこうだ。みんなの会話に相づちを打ち、みんなが笑ったら笑ってみる。無理に交じるような強引なことは絶対せず、あくまでナチュラルに溶け込むことを意識する。
銭湯コミュニティは味わい深い。
(ホーム銭湯、駒の湯にて)
「あなたがいつ来てもいいように、貸しロッカーに結婚祝い入れて待ってたのよ」。
引っ越してからあまり行く会がなくなってしまったホーム銭湯に、19時に来るおばちゃんが結婚祝いをスタンバイしてずっと待ってくれていた。
「ジュースが入ってる冷蔵庫に、作ってきたキムチ入れておいたから持って帰りなさい」。その冷蔵庫は間違いなく、番台にある販売用のものだけど、奥のほうに窮屈そうに隠されていたキムチは、当時一人暮らしのわたしにはでかすぎたけど、すごくうれしかった。

「あなた、この本好きそうだからあげる。老眼だから読むのつらくなっちゃって」。
初めての銭湯で突然手渡されたのは、『三島由紀夫レター教室』で、わたしは三島由紀夫の『夏子の冒険』がいちばん好きな小説だった。
サウナに入るために来ていたはずが、サウナで出会う常連さんに会いたくて来るようになる目的の意味変容。
銭湯という場所は、ご近所どうしで密閉容器に残りものを入れておすそわけするような近さと、じつは名前も知らなかったりする遠さが共存する「つながり」がある。そんなことって一般的には相いれない。
変わりつづける世の中で、時を刻んでも変わらないこの確かなつながりをわたしはいとおしく思う。
よしあしという基準では測れない情緒が詰まった銭湯が、いつまでもこの世界にありつづけますように。せつなる願いをこめて、できるかぎり多くの銭湯に足を運びたいと思っている。

そういえば先日、広の湯に行き、元気よく東京銭湯のスタンプラリーを出したら「ここ、埼玉よ」と言われて真っ赤になったんだった。県境ってだれも教えてくれないよね (住所で気づくべき)。
しかしながらわたしはスタンプをためられなくたって、銭湯があるかぎり、全国津々浦々、どこまでも駆けつける所存である。
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PROFILE
清水みさと(しみず・みさと)
1992年、奈良県生まれ。タレント、女優。サウナ好きとして知られ、サウナ・スパプロフェッショナル、サウナ・スパ健康アドバイザーの資格を持つ。日本最大のサウナ検索サイト「サウナイキタイ」のモデル、フィンランドサウナアンバサダー、ラジオ「清水みさとの、サウナいこ?」(JFN21局/Spotify)のパーソナリティとしても活躍中。
Instagram
@misatoshimizu35