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【編集マツコの、週末には映画を。Vol.121】『ミッドナイト・トラベラー』

2021.09.24

こんにちは。ふだんは雑誌『オレンジページ』で料理ページを担当している編集マツコです。職業柄、ついついどんな映画を見るにも食事のシーンに目が行ってしまいます。いわゆる「ごはん映画」でなくとも、食べ物が印象に残る作品てありますよね。その筆頭と思うのがジブリ作品。「魔女の宅急便」でキキが届けるにしんのパイ、「千と千尋の神隠し」で千尋が泣きながらほおばる、真っ白なおむすびなど……。食べるという日常的な行為のおかげで、登場人物やストーリーと、見ているこちら側の距離がぐんと近くなるのだと思います。
今回紹介する作品は、「難民家族が自らスマホで撮影した、逃亡のドキュメンタリー」という重いテーマ。しかしながら、食事シーンを初めとした彼らの日常が描かれていることで、緊迫感だけでなく親しみを感じながら見ることができるのです。


中央アジア→中東→ヨーロッパ。日本はつくづく島国なんだなと、この家族の「旅程」を目の当たりにして感じます。この作品の監督である映像作家のハッサン・ファジリ氏は、母国アフガニスタンで制作したドキュメンタリー作品が政府の怒りを買う内容だったため、2015年に死刑宣告を受けることに。命を守るため、安住の地を求め、妻と娘2人を連れてヨーロッパを目指した旅を彼はスマートフォンで撮影し続けたのです。
撮影記録が入ったSDカードを各国の協力者に託し、アメリカにいる今作のプロデューサーに送っていたそう。タジキスタン、トルコ、ブルガリア、セルビア……2年以上にわたった旅の中で録画した映像は、実に300時間以上。87分に編集されたこの作品では、ニュースで報道される抽象的な「難民」という存在でなく、彼らの暮らしがきちんと描かれていました。


床に広げたクロスにところ狭しと並べられた料理の数々。棒が刺さったスイカ?しか判別できませんでしたが……イスラム教徒の方々はこうやって床に座って食事するんですよね。ファジリ氏の妻ファティマ・フサイニさんが、太いペットボトルみたいな容器でお米を洗っていたのも印象的。このシーン、ファジリ氏が難民キャンプ(だと思う)で別の女性に優しい声をかけたことで、ファティマさんが機嫌を損ねて夫に突っかかっているんですよ。「私はあなたが別の女性にああいう言葉をかけるのは嫌なのよ」的なことを言っていて、ちょっと笑ってしまいました。あとは、イスラム教徒の女性が髪を隠すために使う布について、長女が自分もするべきなのかどうか両親に尋ねる場面も興味深かったなあ。
もちろん、こういった微笑ましいシーンばかりではありません。ブローカーに騙されたり、ヨーロッパでは差別による暴力にあったり、難民と呼ばれる人たちが直面する事態をしっかりと伝えています。それでいて、見ているうちにこの家族にいつの間にか愛着を持ててしまうのは、やはり彼らの日常をきちんと切り取った87分の編集力に尽きると言えそうです。


「難民問題」こう言ってしまうと何か漠然としてしまいますが、この作品を見ると、「突然命を狙われ、家を追われた普通の人たち」ということがよく分かるのではないでしょうか。


『ミッドナイト・トラベラー』シアター・イメージフォーラムで公開中!全国順次ロードショー
配給:ユナイテッドピープル
©2019 OLD CHILLY PICTURES LLC.

【編集マツコの 週末には、映画を。】
年間150本以上を観賞する映画好きの料理編集者が、おすすめの映画を毎週1本紹介します。

文/編集部・小松正和

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