
こんにちは。ふだんは雑誌『オレンジページ』で料理ページを担当している編集マツコです。オリンピックやパラリンピックの開会式を見ていると、知らない国や地域がたくさんあって驚いたりしませんか。今回の作品を見ながら、同じようなことを感じていました。中国の内モンゴル自治区。美しい草原を舞台にした一組の夫婦の物語は、世界中で起こっている変化の象徴であり、モンゴル民族が直面している状況をまざまざと映し出しています。

映画の舞台になっているフルンボイル(呼倫貝爾)草原は、内モンゴル自治区の北部に位置する広大で美しい場所。青空と白い雲、そして草の色のコントラスト……。でも草原って、海と違って解放感だけでなく閉塞感も持ち合わせている気もするんですよね。
この土地で家畜を育てながら暮らすチョクト(ポリチハン・ジリムトゥ)が望んでいるのは、都会での暮らし。どのくらいの距離なのか分かりませんが、ちょくちょく妻のサロール(タナ)を家に残しては「街」へと繰り出すのです。チョクトとは違い、今の暮らしに満足し変化を嫌うサロール。街で暮らそうという夫の誘いには耳を貸しません。
そんな対照的な二人の心のすれ違いが、やがて大きな悲劇につながってしまいます。
妻に行き先も告げずに数日留守にしたり、車ほしさに勝手に家畜を売ってしまったり。挙句の果てには、街のカラオケ店で友人とケンカして警察の厄介になる始末。夫婦のすれ違いというよりは、ダメ夫とそれに振り回される妻という感じ……。ただし、映画を見ていると生活に急激な変化が起こっているこの土地特有の事情があることも分かります。
かつては自由移動ができていた草原は今や柵で仕切られ、ゲルと呼ばれるテントで暮らしながら季節ごとに場所を変えて暮らすことはなくなったそう。交通網が発達し、車やバイクという文明が生活に入ってくれば、遠くにあった都会の暮らしも身近なものに。華やいで見えるその景色に魅入られてしまうチョクトに、なんだか共感を覚えるのです。「俺はどうして出て行きたくて仕方ないんだろう」と彼自身、その思いの強さを持て余しているのです。余談ですが、カラオケのシーンでテーブルの上に並べてあるビール瓶の数が多すぎてビックリしました。モンゴル人は酒豪揃い?

チョクトが野生の馬を縄で捕獲する「馬追い」を披露するシーンがとっても素敵なんです。
外へ出ることばかり考えているのに、一方でモンゴル人の伝統をとても大切にしているんですよね。世代を超え長い時間をかけて培われてきた価値観というのは、スマホが生活に入ってきたくらいでは簡単に消えはしないような気もしています。
ラストで思わぬ行動に出たサロール。互いを思いやりながらもなかなか分かり合えない2人は、どこへ向かうのでしょうか。
『大地と白い雲』岩波ホール他全国順次公開!配給:ハーク
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