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もっとも憤慨しただまし討ち商法【ダイエットマニア 一代記 第十二回】

2020.04.18

ダイエットマニア 一代記10代で初めてダイエットを経験。以来39年間、失敗したダイエットは75種。かかった経費は少なく見積もって2百万円! そんなダイエットマニアの文筆家・大平一枝さんの〈しくじりの記録〉を週一回連載でご紹介します。

 

 忘れもしない。20代の頃、とある鍼灸医院に3か月通った。仕事仲間が、耳の置鍼(おきばり)で数キロ痩せたというので、飛びついたのだ。
 女性誌の編集プロダクションに勤めていた私は、耳に、食欲を抑えるつぼがあることは、取材などから知っていた。情報という「点」と、知人が痩せたという「点」が、〈鍼だけで痩せる〉という欲望で、1本の「線」になる。知人が痩せたと知った翌日には、近所で耳つぼダイエットをしている鍼灸院に予約をしていた。

 当院の患者さん平均10キロ減。
 痩せなかったら全額返金します。

 この2行につられて、なけなしの給料をはたいた。今思うと、虚偽誇大表示も甚だしい。法令的にアウトだ。
 耳に置鍼をして週1回交換に行く。12回11万円。「当日お申し込みいただいた方は10万円」。
 怪しすぎる価格設定。

 鍼灸院に行って鍼を交換するだけで11万円という施術料もいかがなものかと思うが、鍼を交換するだけで平均10キロ痩せるなんてすごい、という方向に思考が逆回転した。楽して痩せたい熱量が誰にも負けない人間ならではの、短絡的思考回路である。

 

「寝るだけ」の恐怖

 1回目は問診票に書き込んで、施術台で院長に置鍼をしてもらい、20分ほど横になる。
現在の耳鍼や耳つぼジュエリーの多くは、椅子に座って数分で終わると思う(どちらもこの5年以内に経験済み)。
 ところがそこは、なぜか寝かされる。やることもなく、ただじーっと横になっている。

 終わると、「高い効果を得るにはこの上質なプロテインがおすすめです」と健康食品を勧められた。鍼で食欲を抑え、1日2食を健康食品に置き換える。1食は野菜中心の低カロリーの和食を、と言われた。

 そのプロテインがひと缶1万5千円くらいするのである。10万円で精一杯なのに、そんなものを買う余裕があるはずもない。

 2回目から地獄であった。
 行ったら鍼を交換し、横になる。その間じゅう、耳元で毎回、健康食品をセットで勧められるのである。

 やがて私は思った。これ、軟禁?
 行きたくないが、料金は前払いしているので12回、3か月間は通わなくてはと、毎週意地で通った。アメリカのNASAがどうしたこうしたという健康食品のセールスを断り続けながら横たわるのは苦行で、仕事の帰りに寄るのに、仕事の数倍、どっと疲れた。

 結果、1gも減らなかった。
 最初の週は食欲が弱まった気がしたが、最後の週など、帰りにメロンパンを買って歩きながら食べる始末。会社帰りなので、お腹が空くのだ。私の耳には、飢点(きてん。満腹中枢が刺激されると言われているツボ)がないのか?  

 6回目くらいから、院長にものすごく冷たく当たられ、心なしか鍼の置き方もぞんざいに。8回目くらいから院長ではなく、鍼灸師なりたてのような若者に担当が代わっていた。

 最終日、痩せなかったので全額返金をと、切り出したら
「お痩せにならないのは当院で推奨する健康食品をお飲みになっていないからです」。
 いや、だってこのチラシに全額返金と書いてあるしと抗議した。院長は、顔色ひとつ変えず、この手の回答に慣れまくった口調で返答した。
「最初にお渡しした契約書の注意書きに、当院推奨の健康食品摂取と並行して施術を受けた方の場合に限ると書いてあります」  今なら大暴れできるが、当時は右も左も分からないひよっこの社会人である。
 帰り際、院を出てから3軒隣まで聞こそうな大声で「ちっくっしょおおおおお。ばっきゃろーーーい」と叫んで、短距離選手のごとく全力疾走で逃げた。

 10万円払って、チクショーでおしまい。
 ことわっておくが、現在正しい耳鍼を施術しているすべての鍼灸院に恨みはない。
 私が通っていたところは、言ってみれば耳鍼付きの健康食品会社であっただけだ。今、どんなにググっても出てこないのがまた恨めしい。
 だからコウメ太夫の芸を見るたび、あの軟禁鍼灸院への怒りが蘇ってしかたがないのである。

今回のお代110,000円
(耳つぼダイエット代)

 

ツボ押しやマッサージは大好きです。また、ボディクリームやジェルにも目がありません(スリミングの効果はなくても、ボディケアをしていると体にいいことをしている気持ちになります)。

 

特設ページはこちら>>>

 

プロフィール

おおだいら・かずえ
文筆家。長野県生まれ。’94、編集プロダクションを経てライターとして独立。著書に『東京の台所』『男と女の台所』『もう、ビニール傘は買わない。』(平凡社)、『届かなかった手紙』(角川書店)、『あの人の宝物』『紙さまの話』(誠文堂新光社)、『新米母は各駅停車でだんだん本物の母になっていく』(大和書房)など。『そこに定食屋があるかぎり(ケイクス)』など連載多数。大学生長女と映画製作業の夫と3人暮らし。現在どうやら人生初のダイエット道アガリの噂あり。今後の展開にご注目を!

www.kurashi-no-gara.com
instagram : @oodaira1027
twitter : @kazueoodaira

イラスト/いいあい

 

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