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【編集マツコの 週末には、映画を。Vol.11】「さよなら、退屈なレオニー」

2019.06.13

こんにちは。ふだんは雑誌『オレンジページ』で料理ページを担当している編集マツコです。
マツコは映画を見に行く際、座席選びに関しては妥協を許しません。東京にはたくさん映画館がありますが、それぞれに「ここがベスト」という席があって、出来る限りそこで見たいのです。
僕が好きな席は一般的には好まれない場所がほとんど。たまにその席に座っている人がいると、「あーあ先越された」と残念に思うと同時に、親近感が湧いて話しかけたくなります。話しかけませんが。

今回紹介する作品『さよなら、退屈なレオニー』の主人公も、マツコと同じく妥協できない17歳の女の子。
小さな町で自分のやりたいことを見つけられないティーンエイジャーの物語です。
青春時代の退屈さやまぶしさを懐かしむための映画かと思いきや、今を生きる大人たちへのメッセージを感じる作品でした。


カナダ東部・海辺の町。17歳のレオニー(カレル・トレンブレイ)は、高校卒業を前に将来の展望がない、家庭に居場所もない、退屈な町に辟易している女子高生。
入り江に面した町は美しく開放的に見えますが、彼女に言わせれば「ゾンビだらけの死んだ町」。
この退屈な環境から抜け出したい気持ちはあるけれど、具体的な計画はない。どこに住んでいたとしても、この年頃には多くの人が陥りやすい状況ですよね。

そうなんだけれど……冒頭の15分間この主人公にまったく共感できません。
大人たちに「将来はどうするの?」と聞かれれば、「多国籍企業の広報として働けば旅行できるかも」と茶化し、授業で先生に指されれば、反抗的な態度を取るばかり。
高3にもなって中2病かあ~と、真面目な学生だったマツコはつい思ってしまうのです。


ところで、レオニーには2人父親がいます。離婚して今は遠く北の方で働いている、実の父親シルヴァン(写真左・リュック・ピカール)と、母親の再婚相手のポール(フランソワ・パピノー)。
シルヴァンは以前町の工場で働いており、ストライキの際に組合の代表として闘い、結果「北部送り」となってしまったよう。対してポールはラジオDJとして活躍しており、彼の保守的な発言は経済的に傾いたこの町で大変人気を呼んでいる。でも、ポールはもちろん、彼を再婚相手に選んだ母親や、彼の発言を支持する大人たちを含めたすべてが、レオニーには気に食わないのです。

このポールと言う人物ですが、発言内容も顔もなんとなくトランプ大統領っぽい。
大衆受けする一方で、どこか功利主義的な臭いが混じっている。
一方、理想を掲げるシルヴァンのような人物は、今の時代は片隅に追いやられてしまう。
レオニーが唯一心を開いているのはシルヴァンで、他人のために闘い犠牲になった父親を敬い、信頼しているんですね。彼女はその抗議を含め、反抗しているのかもしれません。
冒頭15分の印象が覆り、急に彼女に肩入れしたくなってきました(笑)。


そんなレオニーに変化を持たらす出会いが。
町のダイナーで偶然出会ったスティーヴ(ピエール=リュック・ブリラント)にギターを習うことになったのです。
彼は実家で母親の世話をしながら、ギターを教える生活を送っている。
彼もまたどこか孤独を感じさせるところがあり、レオニーが今まで会ったことのないタイプの大人です。
スティーヴにギターを習う時間が、だんだん彼女にとって大切なものになっていきます。

一見するとただの垢抜けない青年のスティーヴですが、他の大人と何が違うのでしょう。
この人は強い野望はないんだけど、人を否定しない。他の人から見ればややさえないと思われる自分の人生も、卑下しない。
物事を斜めから見ることをせず、いつでもフラットです。
彼の美徳は、「すべてを受け入れる」というその態度が、すでに行動となって表れているところにあります。
僕もレオニー同様、冷めた目で世の中を見てしまう部分があり、こういう人物にとてもひかれます。
彼のように生きることはとても難しいと知っているので。ある意味、スティーヴは以前紹介した『幸福なラザロ』のラザロに少し近いかもしれません。
一見すると相容れなさそうな2人が深い部分でつながり合うのですが、恋愛関係にならないのがいいなと思いました。恋愛になっちゃうと、気持ちが通じ合ってるのかどうか分からなくなる気がするので。


この映画のタイトルはとても日本的だなと思い原題を調べてみたところ、『La disparition des lucioles』=「蛍はいなくなった」。
そういえば義父ポールが、蛍のことをラジオで話題にしているシーンがありました。環境破壊が進み、この地域から蛍はいなくなったのだと。それと、蛍の光は他に大きな光があると見えないそう。
蛍というモチーフが何を意味するのか、そんなことを考えながら見るのもおすすめです。

音楽が優れている映画はたくさんありますが、この作品にも音楽は欠かせません。というのも、登場人物がしゃべらず、音楽だけが物語を進める場面がたくさんあるんです。
冒頭とラストシーンもそう。どこか現実味のないメロディーに、なんだか魔法をかけられたような気分になります。
冷めた目で世の中を見ていたのが、スティーヴの存在によって少しずつ変わっていくレオニー。
将来に悩むティーンエイジャーはもちろん、大人になった僕たちにこそ感じるものが多い映画ではないでしょうか。


タイムリーにいただいた、カナダのメープルシロップ。青春もこんなに甘ければいいけれど。



「さよなら、退屈なレオニー」 6月15日(土) 新宿武蔵野館ほか全国順次公開
配給:ブロードメディア・スタジオ
©  CORPORATION ACPAV INC. 2018


【編集マツコの 週末には、映画を。】
年間150本以上を観賞する映画好きの料理編集者が、おすすめの映画を毎週1本紹介します。
文・撮影(メープルシロップのみ)/編集部・小松正和

次回6/21(金)は「アマンダと僕」です。お楽しみに!

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