元宝塚歌劇団 宙組組長・寿つかささん「いちばん好きな寿司ネタは、父が作った漬けまぐろです」【食のトビラ】

34年在籍した宝塚歌劇団を卒業。「自分が受け取ったものを次世代に受け継ぎたくて」
今回ご登場いただくのは、宙組(そらぐみ)発足時から在籍し、宙組の組長を15年も務め上げた寿つかさ(ことぶき・つかさ)さん。寿さんが退団を発表されたときは、「えっ、すっしぃさん(寿さんの愛称)が!?」と驚かれたファンのかたは少なくないはず。
まず宝塚歌劇団を、ご自身の誕生日である6月11日に退団したばかりの寿さんに、退団を決めた心境をうかがいました。
「よく『鐘が鳴った』とおっしゃるかたもいますが私はそういうことはなく、長い時間をかけて考えました。タカラヅカは卒業というものがある劇団ですが、私は組長という管理職でしたので、自分の中でなんとなく“卒業”を横に置きながら少しずつ少しずつ心を傾けていった感じです。
宝塚歌劇の“受け継いでいく”という伝統はとても素敵なことだと思っていて、長く在団していろいろ経験させていただいたことを、みんなに受け継ぐ時期なのかなというタイミングがあのときだったんです。コロナ禍で公演が止まってしまった期間を経て考えがまとまってきましたし、私がしてきた多くの素晴らしい経験を宙組のメンバーにも味わってほしいという思いがあり、充実した気持ちと感謝の念と……とても前向きな気持ちを胸に『カジノ・ロワイヤル ~我が名はボンド~』で卒業を決めました」
寿さんは、ご実家がお寿司屋さんを営んでいたことから、「寿つかさ」という芸名にしたという話はファンの間でも有名です。そんな寿さんに、お寿司のことも交えながら「食」のこだわりをうかがいました。
年齢を重ねたからこそわかる経験をもとに、野菜を中心にしたバランスのいい食事を重視
――大きな質問なのですが、寿さんにとって「食べること」とは何を意味しますか?
美と健康の源です。自分の体の状態によって、そのときに食べたいと欲するものや体にしみわたるほどおいしく感じるものが違いますよね。こんな時期にあれを食べて体調が悪くなったから避けようとか、ものすごく汗をかいて食べることすらしんどいようなときに口にしたほたるいかの沖漬けの塩分が涙が出るほどおいしかったとか(笑)。長く生きてきての経験から知ることが多いです。
――今日、いっしょに撮らせていただいたのはサラダです。野菜、とくにクレソンとパクチーがお好きとうかがいましたが、エピソードがあれば教えてください。
実家は寿司屋なのですが、姉妹※そろって野菜が好きでした。父は家族にもおいしい魚を食べさせたいと思って用意しているのに、先に野菜サラダばっかり食べておなかがいっぱいになり、魚までたどりつけないとか(笑)。子どもは「野菜を食べなさい」と言われることが多いと思うのですが、うちは「野菜ばっかり食べて……」とよくあきれられていましたね。
※妹は元宝塚歌劇団花組男役の達つかささん。
小さいころから苦みのある野菜が好きだったんです。クレソン、ピーマンなど。小学生のときは、学校から帰ってきてピーマンを洗ってそのままかじるという。そのときは気づかなかったけれど、もしかしたらピーマンの何かの成分を体が欲していたのかもしれません。ところが食べすぎて、たぶん一生分の摂取量を超えてしまい、じつは今はあまり食べていないんです(笑)。
クレソンは変わらずずっと好きです。私の中ではメインの食材。だから何束も買ってたくさん食べています。タカラヅカに入ってから知り合いのかたに連れていっていただいたお店で、クレソンとパクチーとブラウンマッシュルームのサラダをいただいたことがあり、「これはデトックスサラダだよ」とうかがったんですね。「自分がただ好きで食べていた食材にそんな効果があったのか」と、情報を知って食べるとさらに興味が増しますよね。心も体も喜んで。



――たしかに体がさわやかになる感じがしますね。クレソンやパクチーのサラダはどんな味つけが好きですか?
ドレッシングで味変を楽しみます。アンチョビ風味のバーニャカウダーソースや、チョレギドレッシングぽいもの、オリーブオイルと塩など、そのときの気分で。食べたときに「おいしーーー!」と喜びに満ちあふれるというか、幸福感が押し寄せてきます。ここ何年かハマっているサラダです。
――お話をうかがうと食べたくてたまらなくなります(笑)。ほかの野菜もお好きなんですか?
だいたい好きなんですけど、デトックスサラダのように何かエピソードがあるとより興味を持ちますね。たとえば「のどには玉ねぎの繊維がいいよ」という話を聞いたら、ちょっとのどが疲れているときに玉ねぎを大量に食べてしまうとか(笑)。野菜もそれぞれ持っている栄養素が違うので、1週間の中でいろいろな野菜を組み合わせてバランスをとる食べ方をしています。「この前はこれを食べたから今度は別のにしておこう」とか「これ食べていないから今日はこれを取り入れよう」とか。鍋にするとバランスよく食べられていいですね。
じつは音楽学校の予科生(1年目)のころ、クッキーが大好きで「クッキーモンスター」と呼ばれていたくらい恐ろしいほどの量を食べていたんですよ。中学生のときはバレーボールをしていてよく体を動かしていたから食べても太らなかったんですけど、予科生のときは、年齢的なものと、食べる量と消費エネルギーの計算ができていなかったんでしょうね。入学してから10kgも体重が増えてしまって。これはまずいということで、初舞台を踏む前にプロのかたに食事方法を相談したんです。そこで教わったのは、一食で9品目をとるということ。野菜、卵、豆類、肉、魚、貝、油、海草、乳製品。その食べ合わせで体の中を循環させ、代謝を上げるという方法だったのですが、それによって体重がみるみる落ちていき肌の調子もよくなったんです。その教えが今でも生きていて、とにかく食事はかたよらないことを心がけています。
――今でも実践されているのがすごいですね。
私が初舞台生だったころは今のように情報量が多くもなければ、すぐに情報が手に入る時代ではなかったんです。この食事方法に出会ったタイミングもあり、試してみたら効果が出ることが実感できたので、続けています。ほかにもいろいろ試したことはあるんですけどね。――ふだんの食事はご自身で作られるんですか?
手のこんだ料理をするというより、簡単にそろえられてすぐに食べられるようなものを用意します。体を整えたいときはきちんと作ることもあります。外食が多かったのですが、コロナ禍のステイホームで自炊をする機会が増えまして。料理を楽しむというか、料理に没頭してほかのことを考えない時間はまた気持ちのいいもので、その後のでき上がった達成感と、食べたときの喜び。時間があったからこそできたことですが、食の大切さのほかに、全国の主婦(主夫)のみなさまへの尊敬の念が深まりました(笑)。
――たしかにそうですよね! 自炊するときは野菜をメインにした料理が多いのですか?
野菜は、炒めたり鍋にしたりサラダにしたり、なにかしら取り入れていました。メインは肉や魚を簡単に焼いたものなど。オリーブオイルと塩と、ちょっとレモンとかバターとかを加えて。最初のころは楽しくてちょっと凝ったりもしたのですが、だんだんシンプルなものになりましたね。
タカラヅカを卒業して時間ができたかと思いきや、今はまだ片づけなど日々のあれこれに追われて料理ができていないんですよね。在団中はコロナ禍でだれかと食事をすることができなかったので、今は家族など大勢で食事ができるという時間に幸せを感じています。でもそろそろ作ろうかな、パクチーとマッシュルームのサラダとか。
今朝、父ともその話をしたんです。父が以前からよく言うのが、「お寿司といわれるものが全部苦手という人はなかなかいない。だから人々に広く、それこそ海外のかたにも愛されるんじゃないか」ということ。握り寿司はネタの種類が豊富ですし、たとえば生ものがダメだったら生ものではない巻きものがあります。自分が好きなものを選べる楽しさと、食べる量も自分で決められる自由さが魅力のひとつなのかもしれません。にぎり寿司は1かんから頼めるので、少しずついろいろなネタが食べられますもんね。
私は小さいころからお寿司を食べていたから、タカラヅカに入るまでそのありがたみがわかっていなかったですね。「ただいまー」と家に帰ったら、父が何でも出してくれたので。習い事に行く前にすぐに食べられるようにイクラのおにぎりを持たせてもらったりとか。常に身近にあったものだったんですよね。タカラヅカに入ってお寿司を食べない期間が長くなり、ありがたさを知りました。
――なんと! ごちそうの代表格みたいなものなのに……(笑)。
本当にそうですよね。今はたいへん感謝しています。
――お寿司のネタはなにがお好きですか?
先ほどの話と重なるのですが、おいしくいただくものがそのときどきで変わってきますね。小さいころは、イクラや中とろやうになど少し甘さを感じるものが好きでした。年齢を重ねて、お酢でしめたものや光りものなどを好むようになってきましたね。ハマるとまた大量に食べちゃうので(笑)。今のいちおしは、父が漬けてくれるまぐろのづけ。父のお寿司が大好物です。



――素敵なお話! お寿司はやはりお父さまの味というイメージですか?
そうですね。いろいろなお寿司屋さんでいただいてみると、酢めしの味、ネタとのバランスなど、それぞれ違うんですよね。やっぱり父のお寿司をいちばん長く食べてきてその味が身にしみついているから、落ち着きます。父の味がベースにあるからこそ、ほかのお店の味もいろいろと楽しむことができるのだと思います。
――ご実家にいらっしゃったころは、どんな料理が食卓に上がっていましたか?
父も母もお店に出てしまうため、平日は祖母が料理を作ってくれていました。それが和洋折衷のいろいろなもので、とってもバランスがよかったんですよね。おばあちゃんらしい煮もののほか、子どもが好きなハンバーグや餃子、カレーライスなど。
祖母は鹿児島の人だったので、南ならではの食材も多く、ゴーヤを使った料理や、沖縄料理にもあるジーマミー豆腐、さつまいもやあずきを使った手作りのお菓子もたくさん作ってくれました。
お店が休みの日曜日は、さすがに父がだれかに作ってもらった料理が食べたいということで必ず外食をしていました。外での食事が好きだったのもありますし、父の仕事の研究という意味もあったと思います、いつも2〜3軒をはしごするんです。だいたいお寿司屋さん以外でしたが、たまーにお寿司屋さんにも行ったり。外で食べると気分が変わってうれしくなっちゃって、すごい食べちゃうんですよ。「ふだん、食べさせてないみたいで恥ずかしい」と両親に言われたこともあります(笑)。
――それは食通になりますね。そんな寿さんにとって、「頑張った後にはここに行こう」とか「これを食べよう」というごほうび食は何ですか?
お稽古や公演期間になると限られた時間の中で忙しい毎日が続くので、時間を気にせずゆっくりと料理を味わうのがごほうびですね。お客としてお店に座り、父のお寿司をお通しからしっかり、おまかせで1かんずつゆっくりいただくのが、タカラヅカに入ってからの楽しみのひとつになりました。その時間がごほうびですね。今はもう父はお店を卒業してしまったのですが。それでも河岸に行くのは楽しみのひとつのようで、足を運んで魚を買ってきては家族にふるまってくれます。
料理って芸術作品だと思うんです。栄養が考えられていて味がおいしく、見て美しく、香りや音で楽しませてくれる。お皿の上の飾りつけだったり、お店のインテリアや食器、ちょっと置かれているお花など、トータルで完成されているもの。どこかに食べに行くと、味だけでなく総合的なあれこれにいつも感動します。でも一方で家庭の味にもそのよさがありますよね。食べる家族のことを考えて愛情をこめて作ってくれた料理。それぞれによさがあると思います。
退団後初出演&初主演となる、舞台「THE MONEY -薪巻満奇のソウサク-」についての話も披露!
――退団後の初舞台が、元宝塚歌劇団 七海ひろきさんプロデュースの小劇場のシチュエーションコメディということに驚きました。しかも主演で、「そうきたか!」と。
――出演者は宙組時代に苦楽をともにしてきたメンバーですよね。どんなことを楽しみにしていますか?
出演者を聞いたときに、喜びと驚きの歓声を上げました(笑)。舞台上でもオフでも、濃く楽しい時間を過ごしてきた仲間だったのでうれしかったですね。これは楽しい作品になるという思いと確信があります。この出演者なら絶対におもしろいものが作れるという期待に胸をふくらませています。私も頑張らなきゃ。
――出演者5人、それぞれみんなキャラ立ちしていそうですね。どんなストーリーなのですか?
私は、夫が突然いなくなってしまったミツキという主婦です。夫を探しているうちにある洋館にたどりつき、七海ひろきさん演じるアオイという謎の女性と出会います。そこで5000万円を突き出され、「これはあなたの夫が犯罪行為により手に入れた5000万円だ」と。その犯罪が3日後の正午に時効になるから山分けしないか……という話の流れは、何も起こらないわけはない! この洋館のマリという主人が緒月遠麻さん、5000万円の事件を調べているサエという刑事が伶美うららさん、マリがいつも頼んでいるフードの配達人が澄風なぎさん。この関係性もおもしろく、怪しさ満載です(笑)。
今までうかがうことのなかった寿さんの食事情は、とっても新鮮! ふだんの食事ではバランスを大事にしながらも、やっぱり好物はお父さまのお寿司というお話になんだかほっこりしました。出演作も新鮮! ライブ配信もあるので、ぜひチェックしてみて。
次回は寿さんの「美」についてお話をうかがいます。お楽しみに!
ことぶき・つかさ/元宝塚歌劇団宙組組長。
1990年に76期生として宝塚歌劇団に入団。花組大劇場公演「ベルサイユのばら」で初舞台を踏み、組まわりを経て翌年雪組に配属。98年、宙組発足にともない宙組へ組替え。2005年に宙組副組長、08年には宙組組長に就任。23年「カジノ・ロワイヤル ~我が名はボンド~」にて宝塚歌劇団を退団。8月23日より初主演となる舞台「THE MONEY -薪巻満奇のソウサク-」が開幕。
七海ひろき初プロデュース演劇企画
舞台「THE MONEY -薪巻満奇のソウサク-」

【出演者】
寿つかさ
緒月遠麻 伶美うらら 澄風なぎ
七海ひろき
【脚本・演出】
保木本真也
【企画】
QQカンパニー
【日程・会場】
〈東京公演〉
2023年8月23日(水)〜27日(日)
CBGKシブゲキ!!
〈大阪公演〉
2023年8月30日(水)〜9月3日(日)
心斎橋PARCO 14F SPACE14
【ライブ配信】
配信プラットフォーム:Rakuten TV
〈東京公演〉
8月27日(日)13:00公演 全景視点(定点)
8月27日(日)17:00公演 物語視点(スイッチング)
〈大阪公演〉
9月3日(日)12:00公演 全景視点(定点)
9月3日(日)16:00公演 物語視点(スイッチング)
【配信詳細】
https://live.tv.rakuten.co.jp/content/455529/
【公式WEBサイト】
https://stage-the-money.com/

撮影/天日恵美子 編集部 本人提供 文/淡路裕子