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【編集マツコの、週末には映画を。Vol.88】『声優夫婦の甘くない生活』

2020.12.18

こんにちは。ふだんは雑誌『オレンジページ』で料理ページを担当している編集マツコです。12月ってなんだかんだ忙しいですねえ。僕もこの原稿をギリギリに書いているほどには忙しくて、映画館に行く時間もなかなかないんですけど、そういうときこそ見るとほっとできる作品です。ソ連崩壊や湾岸戦争といった90年代初頭の激動を描きつつ、そこに夫婦関係という身近な要素を盛り込んだストーリーは、全編を通して心地よいゆるさがあります。声優夫婦という設定から生み出されるドタバタ劇が笑いを誘い、暗いニュースに慣れてしまった心にささやかな灯りをともしてくれるはず。往年の名作へのオマージュにも溢れていて、映画の良さも改めて感じさせてくれる作品です。

人によって「こういう設定の映画は無条件に好き」というポイントがあると思います。僕もいろいろありますが、その一つが「登場人物が見知らぬ土地で頑張る」というもの。苦労しつつも新しい知り合いが出来たり、言葉を覚えたり、そういう展開が好きなんですよね。特に今作は60代の夫婦が主人公なので、新しい環境に慣れるのが大変なぶん、心打たれる部分が大きいのです。
1990年にソ連が崩壊し、大量のユダヤ人がイスラエルに移住したそう。ヴィクトル(ウラジミール・フリードマ)とラヤ(マリア・ベルキン)の夫婦もその波に乗り、ソ連での声優としてのキャリアを新天地でも生かそうとするも、ロシア語の需要はなく現実は厳しい。声を武器にしてきた2人が言語の壁にぶつかり、ヘブライ語の教室に通うシーンとかはちょっと切ないんです。女性の方が現実的なのは万国共通なのか、先にとっとと仕事を見つけたのは妻のラヤ。これがまた、声優としてのキャリアを生かしたすごい仕事なのですが。対して夫のヴィクトルはいつまでもキャリアに拘泥し……。

新たに見つけた仕事で輝きを取り戻し、夫以外の相手に心を奪われそうになるラヤ。妻だけが安定した職に就いたことが面白くなく、違法レンタルビデオ店でロシア語吹き替えの海賊版を作る仕事を見つけ、盗撮のため映画館へ足を運ぶヴィクトル。90年代初頭のイスラエルという激動の土地を舞台にしながらも、2人の生活は些末な出来事の連続です。どんなにシリアスな状況でも、人はどうでもいいことで笑ったり怒ったりできる、そんなメッセージを感じます。
『ホーム・アローン』『クレイマー、クレイマー』などの名作や、イタリアのフェデリコ・フェリーニ監督のエピソードが登場するのも、今作の見どころ。日本でもよく知られている作品が、遠い国でも同じように愛されていたんだなあと、なんだかジーンときてしまうのです。

監督自身もインタビューで答えていますが、独特のクラシカルな色彩とすっとぼけた登場人物たちがあいまって、フィンランドのアキ・カウリスマキ監督を連想させます。カウリスマキの作品って、寒い時期に見たくなるんですよねえ……なりませんか。長年連れ添った夫婦が改めてお互いの存在の大切さに気付く展開は、家族と過ごす時間が増えている今、身に染みる人が多いかもしれません。

「声優夫婦の甘くない生活」 12月18日(金)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開

【編集マツコの 週末には、映画を。】
年間150本以上を観賞する映画好きの料理編集者が、おすすめの映画を毎週1本紹介します。

文/編集部・小松正和

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