
2020.02.22
楽して痩せるダイエットしかしないので、当然ながら、エステやマッサージの類は大好物だ。なにせ寝ているだけでいいのだから。
会員になって定期的に通ったのは次の4つだ。感想と代金を記す。
・有名エステティックサロン(ローン30万)ハンドの施術は30分程で、延長したい場合はオプション代金を払う。寝たきりの状態で、栄養食品をガンガンセールスされるのが軽く地獄だった。その後倒産。
・東洋マッサージ系エステティックサロン(20万)数回通ったところで妊娠。休会手続きをとったが、出産後はサロンどころではなく、金をどぶに捨てた形に。
・マダム系エステティックサロン(20万)都内一等地にあるセレブサロン。芸能関係の友人の紹介で10%引きにしてもらった。タレントさんたちは駐車場から直通で行ける通路があり、フロアも違った。ラップでぐるぐる巻きにされ、その場では汗が出るがそれだけ。水を飲んだらもとに戻った。
・パーソナルコンディショニング(1回1万5千円・月2回)筋肉やリンパにアプローチする夢のように気持ちいい施術。半年後、子どもが中学受験を志し、塾代にまわすことに。受験が終わったら通うのが面倒くさくなった。
何一つ、最後のチケットまで使い切った試しがない。こういう人間は、会員制ではなく、思いついたときに行ける単発のマッサージがいいと気づいたときには、独身時代のエステ初体験から20年余の時が流れていた。
それからは、アーユルヴェーダ、アロマ、気功、カッサ(カッサというプレートを使って血液やリンパの流れを促すマッサージ)、ロミロミなど、ネットで探したり、友だちの紹介で行ったり、単発ものをいろいろ試している。
単発で施術を受けられるサロンは、個人店が多い。自宅の一部を施術室に改装して1日に限られた人数を相手に丁寧に対応する。
個室に1対1で1時間あまりケアしてもらうので、個人的な話をすることも多い。距離感が近くなるため、だいたい自宅でエステサロンを開くような人はだれとでも話を合わせることができ、話題が豊富でほがらか。総じて温厚な人が多いように思う。
3年ほど前、「リーズナブルな価格でリンパマッサージを90分間みっちり、顔も体のむくみもスッキリとれる素敵なエステサロンをやっている人がいる」と、美容好きのご近所ママから情報を得て、早速予約した。
果たして彼女は、3人お子さんがいるとは思えない若々しくてチャーミングな人だった。
だいたいエステティシャンには、元気ハツラツさばさば系と、かわいくて穏やかなしとやか系の2タイプに分かれる(当社比)。
彼女は後者だった。控えめで、自分の美容哲学を一切ひけらかさず、職人のように黙々とハンドマッサージに集中する。聞き上手で、そっと話題を振っては、こちらに気持ちよく話をさせてくれる。
「わあ、インタビューなんてかっこいいなあ」「それでその方は?」と、あいづちや質問が絶妙で、こちらも紙パン一丁のあられもない格好を忘れ、仕事や肌の悩みなんぞをペラペラと話す。
その彼女が40分くらいして、お腹をマッサージし始めた頃、「あれ?ん?」と小さな独り言をつぶやいた。
「どうかしましたか?」
「あ、いいえ。大丈夫です。でもえーと、うーん」
オイルを付け、両手のひらを重ね合わせて私の恵比寿様のような腹をぐるぐるとマッサージしながら、首を傾げている。
「何か変?」
私が心配顔で再び尋ねる。穏やかな笑顔で、天使のようにやさしい彼女が、とてもいいにくそうに言う。
「腸がみつかりません……」 そんなことって。
ふつうは皮膚の上から腸に触れられるらしいが、脂肪の厚みがすごすぎて指が届かない。
なにごともポジティブで、愚痴や弱音を一切言わないエステティシャンを困らせてしまった、今も忘れられぬ苦い思い出である。
マッサージの後はスムーズに老廃物を排出するため、白湯を飲みます。
おおだいら・かずえ
文筆家。長野県生まれ。’94、編集プロダクションを経てライターとして独立。著書に『東京の台所』『男と女の台所』『もう、ビニール傘は買わない。』(平凡社)、『届かなかった手紙』(角川書店)、『あの人の宝物』『紙さまの話』(誠文堂新光社)、『新米母は各駅停車でだんだん本物の母になっていく』(大和書房)など。『そこに定食屋があるかぎり(ケイクス)』など連載多数。大学生長女と映画製作業の夫と3人暮らし。現在どうやら人生初のダイエット道アガリの噂あり。今後の展開にご注目を!
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instagram : @oodaira1027
twitter : @kazueoodaira
イラスト/いいあい
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