2023.08.18

ウクライナの国民的人気バンド・KAZKAに聞くウクライナの今

「こどもオレンジページ」の誌面では、世界の難民について取り上げています。また、昨年はウクライナからの避難民のかたに料理を教わる親子イベントも開催しました。そんなご縁もあり、今回はウクライナで国民的人気を誇るバンド・KAZKAのメンバーにインタビューをすることに!

ロシア侵攻により、不安な日々を余儀なくされているウクライナですが、KAZKAはキーウに今もとどまり、積極的に音楽を発信しつづけています。7月には、一般社団法人全国心理業連合会(全心連)が運営するウクライナ「心のケア」交流センターが招へいし、メンバーのうち、オレクサンドラ・ザリツカさんドミトロ・マズリャクさんの2人が、日本に避難しているウクライナのかたがたを激励するためボランティアで来日。全国各地を回りながらライブを行い、イベントなどを通じて日本の人々とも交流を深めました。
多忙なスケジュールの合間を縫って行われた今回の取材では、ウクライナの今、現地のこどもたちの様子などをうかがいました。

ウクライナのこどもたちの食事事情


KAZKAのボーカル、オレクサンドラ・ザリツカ(サーシャ)さん

――「こどもオレンジページ」は、楽しい食を通じてこどもの「生きるチカラ」をはぐくむ情報を発信している媒体なのですが、ウクライナのこどもたちは、充分な食事をとれているのでしょうか?

ドミトロ・マズリャクさん(以下、デイマ) ロシアの侵攻が始まった当時は、食べ物が充分になく、買い物へ行くこともできずに大変でした。でも、今は世界中のかたがたから食料が届いたり、それぞれが都市から離れた地域に住む親戚から送ってもらったりして、だいぶ落ち着いてきましたね。

オレクサンドラ・ザリツカさん(以下、サーシャ) 学校では、国が準備した食料がこどもたちに与えられていて。メニューも栄養バランスやカロリーを考えて作られているので、こどもたちの食環境はだんだんよくなっていると思います。

 
――少し安心しました。今、こどもたちの多くは、どんな生活をしていますか?

サーシャ 私の友人たちの話でいうと、両親はウクライナにとどまって働きながら、こどもをヨーロッパや日本に避難させている、という人もたくさんいます。国外に出られない場合は、ウクライナの中でも比較的安全な田舎で、親戚などと住んでいる子もいますね。大人たちはみんな、未来のあるこどもたちを守りたいと願っているので。

デイマ ウクライナに残っているこどもたちは、学校へ行くときもスナックや水などが入った、日本の防災バッグのようなものを毎日持ち歩いていて。勉強中に緊急のサイレンが鳴ると、それを持ってシェルターに避難しています。また、人が集まると危険なので、こどもたちは大勢で遊ばないようにしていますね。

サーシャ こどもたちが学べるように、避難に関しての知識を知らせるアニメや音楽もたくさんあります。たとえば、ミサイル攻撃があって警報が鳴ったとき、両親が家にいなかったらどう行動すればいいかとか、シェルターに避難したらどんなことに気をつけるべきかという内容がアニメや音楽になっていて。こどもたちが学びやすいように、遊びを通して伝えるようなスタイルになっています。ロシア侵攻から1年半たって、こどもたちの多くは命を守る大事な知識を身につけているんじゃないかな、と。

学校がミサイルで破壊されて学ぶ場所がない


ソピルカ奏者のドミトロ・マズリャク(デイマ)さん

――現実的に、日常で大変だと感じるのはどんなことでしょうか?

サーシャ 私たちが住むキーウはロシアから少し距離があるので、ミサイルが到達するまでに大事なものを持って、シェルターに駆け込む準備の時間が多少あります。でも、ロシアに近い地域は警報が鳴ってミサイルが到達するまでに、わずか1~2分。だから、日ごろから準備をしっかりして、すぐに動かなくてはなりません。今はそういった危険なエリアにこどもたちはほとんどいませんが、残っている人たちは日々恐怖と戦っています。

デイマ 危険な地域からは逃れていても、学校に行けていないこどもはとても多いです。800校以上の学校がロシアのミサイル攻撃で破壊されてしまったため、通う学校自体がないこどもがたくさんいて。それは、ウクライナにとって、とても大きな問題ですね。

――学校に行けないこどもたちは、勉強ができない状況なのでしょうか?

サーシャ インターネットが使えるときはオンラインで授業を、ネットがつながらないときは親といっしょに宿題をするということが多いと思います。

デイマ ただ、戦争でいろんなものが破壊されて、電気製品が不足しているので、こどもたちの勉強に欠かせないパソコンも充分にはなくて。ほかにも、冷蔵庫や電子レンジなんかがなく、困っている人が少なくありません。

サーシャ 住むところと食事については、少しずつ整ってきましたけど、戦争前には日常に当たり前にあったものがなくなっているんですよね。たとえば、こどもたちのノートやボールペンといった文房具も足りていませんし、ミサイル攻撃を受けた学校や幼稚園は本や遊具、おもちゃなどもなくなってしまいました。

――なるほど。このお話は、支援のヒントにもなりますね。また、日本のこどもたちが、ウクライナについて、少しでも学ぶことも大切。KAZKAの楽曲「I AM NOT OK」は、ウクライナの方々の心の奥底にあるものを表現した楽曲で、私たちが親子で話すテーマにもできる気がします。もし、ほかにウクライナの現状や文化を感じられる、おすすめの本や映画があれば、教えてください。

デイマ この1年くらいの間に、ウクライナの戦争にまつわる映画やドキュメンタリーがたくさん作られています。今はYouTubeやNetflixなどでも、いろんな作品が見られるので、ぜひ探してみてほしいです。ひとつ作品を挙げるなら、7月から日本各地の映画館でも公開されている「キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩」という映画。ウクライナ出身の監督が手がけた作品で、ウクライナ民謡がもとになったクリスマスソングをモチーフにしています。

サーシャ 戦争のことだけじゃなく、ウクライナの文化や伝統的な物語を知りたいという人は、私たちKAZKAが制作した絵本やマンガもあります。アニメーションにもなっていて、私たちのYouTubeチャンネルにもアップしているので、ぜひ見てみてください。

 

ウクライナの大切な文化や言葉を守りたい


――最後に、2週間ほどの日本滞在の中で、印象深い思い出があれば教えてください。

サーシャ とにかく、食べ物がすごくおいしいですね。私は日本の食べ物が大好きなので、滞在中に気になるものを全部食べたくて。気づけば、ずっと食べている気がします(笑)。レストランの食事もおいしいですが、私はとくにストリートフードが大好き。メロンパンやお餅にくるまれたアイスクリームがお気に入りです。それから、日本はハイテクと自分たちらしい文化や歴史をうまくコラボレーションさせているのが、とても素晴らしい。地下鉄や新幹線も便利で、すごく住みやすい場所だろうなと思います。

デイマ サーシャと、同じ意見です(笑)。日本文化でいえば、僕はきものも好きですね。

サーシャ きものは素敵! 以前、来日したときにリメイクしたきものを買ったのですが、今回の来日では沖縄で甚平を買いました!

デイマ そういう古くからあるものと、現代のものとが共存していて、自分たちの文化を大切に守っているのがとてもいいなと思います。文化を守りたい気持ちは、僕たちも同じ。自分たちの命だけじゃなく、ウクライナの人々が大切にしてきた文化や言葉もロシアから守りたい。だから、私たちは戦っているんです。


KAZKAのライブに潜入!


取材後、KAZKAは六本木の「R3 Club Lounge」で、東京に避難しているウクライナの人々を招待してライブを開催しました。ライブでは、彼らのヒット曲やウクライナの伝統的な楽曲などを披露。やさしさと強さが共存する歌声と演奏に観客は心揺さぶられ、思わず踊りだす人たちも。また、MCではウクライナの同士たちにやさしく語りかけ、日本人にも通訳を通じて感謝を伝えました。後半には会場じゅうの人が手をつないで踊ったり、ウクライナ国家をみんなで斉唱したり、と祖国を離れている人々と心を通い合わせる場面も。とても温かく、思いにあふれた時間になりました。


KAZKA

ボーカリストのサーシャ(右)、ソピルカ(ウクライナの伝統的な民族楽器)奏者のデイマ(左)、マルチ楽器奏者のニキータで構成された、国民的人気を誇るウクライナのバンド。エレクトロフォークの要素を取り入れたポップミュージックが特徴で、2021年「YUNA音楽賞」ではウクライナの「ザ・バンド・オブ・ザ・イヤー」を、「M1ミュージックアワード」では「ザ・バンド・オブ・ザ・イヤー」を受賞。楽曲「Plakala」(英語タイトル「Cry」)は、地球上で最も人気のある曲のトップ100に。ウクライナのバンドとしては初めて GLOBAL SHAZAM チャートにランクインし、YouTube では5億回以上の再生と10億回以上のストリームを記録した。

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撮影/山田大輔 取材・文/宮浦彰子

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