私の成長ストーリー

さまざまな分野の第一線で活躍している人たちにも、こども時代がありました。どうして今の職業を選んだのか、その夢をかなえるために何をしたのか――。現在につながるヒストリーを聞きました。

2024.09.13

絵本作家・柴田ケイコさん「小学時代に表彰されたのがうれしくて、絵を描くことに喜びを感じました」

絵本作家・柴田ケイコさん

しばた・けいこ/高知県生まれ、在住。小学校で読み聞かせのボランティア活動をしながら、フリーのイラストレーターとして活動。2016年に『めがねこ』(手紙社)で絵本作家デビュー。絵本 作品に「しろくま」(PHP 研究所)、「ぽめちゃん」(白泉社)、「パンどろぼう」(KADOKAWA)シリーズなどがある。最新作は『パンダのおさじと ふりかけパンダ』(ポプラ社)。
「パンダのおさじ」をはじめ、「パンどろぼう」「しろくま」など、たくさんの人気絵本シリーズを描いている柴田ケイコさん。「小さいころから絵を描くのが好きだった」といいますが、絵本作家に至るまで、どのような道程を歩んだのでしょう。

「パンダのおさじ」最新作インタビューはこちら

家にいるより、外遊びが好きだった

「こどものころは公園で遊んだり、裏山に秘密基地を作ったり。家にいるより、ずっと外で遊んでいるような活発な子でした」

当時から「絵を描くことも好きだった」そうですが、「人のまねっこが嫌いで、小学校の写生授業で工場の外観を描くときも、建物の一部をクローズアップしたり、周囲の海を描いたり」と独自性のある絵を描いていたといいます。

そんな柴田さんが、絵を描くことにとくに喜びを感じるようになったのは小学3年のころ。地元・高知県の「こども県展」に絵を出展し、表彰されたことがきっかけでした。

「夏休みに描いた花の絵が技術賞に選ばれました。表彰式もあって、だれかに認めてもらえたことがすごくうれしかったんです」

そこで「将来は画家になりたい」と作文に書いた柴田さんですが、その後、高校生のときに書店でグラフィックデザイナーの作品集を見て感銘を受けます。「グラフィックデザインの仕事ってかっこいいな」とあこがれを抱き、奈良芸術短期大学デザインコースに進学しました。

(左)幼稚園年長の運動会で。「かけっこでメダルをもらったときの記念写真ですが、もしかしたら全員がもらえたのかも?」と柴田さん。(右)5歳くらいのころ。外でも「はだしでよく遊んでいた」という活発な女の子でした。

自分が描いた絵を買ってもらえた!

卒業後は、印刷会社のデザイン部や、デザイン事務所に勤務。そして、20代後半で転機が訪れます。

「当時在籍していたデザイン事務所で、先輩がデザイン用のイラストを描かせてくれたんです。それで先輩が『デザインよりも、イラストが向いている』と評価してくれて。その事務所が解散することになってしまったとき、先輩が『イラストの道でやっていったほうがいい』と背中を押してくれました」

こうして柴田さんはフリーランスでイラストレーターの道を歩みはじめます。ただし、当初はイラストだけでは食べていけず、デザインの仕事も続けていたそう。そんなとき、知り合いから「展覧会をいっしょにしない?」と誘われます。

「2人で展覧会を開いたら、全然知らない人が私の絵を買ってくれたんです。すごい衝撃でした。だれかに私の絵が届いたことがうれしくて、感動して。人に認められてうれしくなるのは、こどものころと変わらなかったんですね」

そのうち、大手出版社などから次々と仕事が舞い込むようになり、イラストレーターとしての地位を確立していきます。そんな柴田さんが、絵本を描こうと思ったのは結婚してこどもが生まれてからのこと。長男の弱視がわかったことが動機となりました。

「小さな息子がメガネをかけることになり、ふと、『こどもがメガネをかけると、どうしてかわいそうと思ってしまうんだろう?』と。こどもにメガネを肯定的に伝える絵本があればいいのに……と思って、自分で描くことにしました。でも、どうしたら絵本を作れるかがわからない。そこで、私のイラストを雑貨にしてくれていた手紙社さんに相談すると、『うちで作りましょう』と言ってくれたんです」

そして2016年に、絵本作家デビュー作『めがねこ』が誕生しました。

好きなことや、楽しいことを大切に

その後、「しろくま」「ぽめちゃん」「パンどろぼう」などの人気シリーズを手がけ、今や柴田さんの絵本は、たくさんのこどもたちに愛されています。

また、昨年出版した『パンダのおさじとフライパンダ』も発行部数11万部を突破し、今年の4月にその第2弾となる『パンダのおさじとふりかけパンダ』を発売しました。

絵本作家としては、今年で9年目に突入。「私の中では『めがねこ』を作って終わりだと思っていたので、ここまで長く続けられるとは考えてもいませんでした。作業自体は孤独ですが、絵本を読んでくれるこどもたちからのお手紙に救われ、励ましてもらっています」。

絵を描くのが好きで、楽しくて、人からほめられ、喜んでもらえるのがうれしくて続けてきたことが、今の活躍につながっています。

「勉強することは後からでもできるので、まずは自分が何を楽しいと思うのか、何に興味があるのか、それに一生懸命取り組むことが大切。こどもがやりたいことを見つけたら、そこを掘り下げてあげるといいんじゃないかと思っています」

撮影/内海裕之 取材・文/𠮷川明子  ※2024年6月のインタビュー記事です。

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