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散財のはじまりは街頭で【ダイエットマニア 一代記 第一回】

2020.01.25

ダイエットマニア 一代記16歳で初めてダイエットを経験。以来39年間、失敗したダイエットは75種。かかった経費は少なく見積もって2百万円! そんなダイエットマニアの文筆家・大平一枝さんの〈しくじりの記録〉を今週から週一回連載でご紹介します。

 

39年間変わらない女

 10年ほど前、親友がある企画を思いついた。

「ダイエットに何百万も投資して、やってもやっても失敗し続けているのに、まだ挑戦し続けている懲りない女がいるから、”ダイエットバカ一代“って企画どうですかって、雑誌の編集長に言ったの。そしたら、おもしろいからプレゼン会議に呼んでって頼まれちゃってさ、ちょっと来てくれない?

 そんなわけで渋々出向いたものの、そもそも痩せてオノレに勝利した女が言うならまだしも、ただ太りっぱなしの人間が失敗の歴史を語ってもなんの説得力もありゃしない。結局、採用されなかったのだが、その古い話を、知り合いの編集者にしたら「大平さん今もなんちゃらスープとか次々やってますよね」と、やたらにくいついてくる。

 翌日、私が送ったダイエット70種あまりのメモを見た彼女から、「連載でやりましょう」とメールが来た。

   思えば、はじめてダイエットに挑戦したのは16歳。以来39年間、ダイエットにトライし続けているのである。かかった費用をざっと計算したら2,227,600円になった。
 そこそこいい新車が買える金額である。忘れているダイエットもまだあるはずだ。

 ところで、本連載を始めるにあたり、記憶を掘り返して気づいた。私は16歳から今日まで、ダイエットに関して一貫した共通項がある。それは、〈体を動かさず楽して痩せる〉である。

 ここでは、反面教師にしていただくべく、シルクロードより長いしくじりの旅の中で、ときびり阿呆なやらかしエピソードを抽出する。

 

怪しい粉薬30万、契約事件

 忘れもしない。しくじり史の初期にして、我がダイエット人生インパクト最大の事件を。

 20歳になってまもなくのこと。当時住んでいた名古屋駅前を歩いていると、「お姉さん、AB型でしょ。僕、インスピレーションでわかっちゃうんだよね」といきなり、若い男性に声をかけられた。無視しつつも、少ない血液型を当てるなんてチャラく見えるけどじつは霊能者か?と、腹の奥でわずかに感心する。私の一瞬の驚きを見逃さず、その男は矢継ぎ早に言った。

「いま、二十歳を過ぎた女性に成人式の振袖の柄でどれがいいか聞いているんだけど、5分だけアンケートに協力してもらえないかな」

 執拗なつきまとい方、馴れ馴れしさ。世間知らずな私は、断る労力より、協力してさっさとまくほうがラクと思ったのが運の尽き。白いバンが止まっているビルの裏まで連れて行かれ、反物を3本適当に広げられ、一番好きな柄を選ぶと、「今、特別に安くするキャンペーンをしている」という。
 キャッチセールスの教科書に載りそうなベタな悪徳商法。「いえ、いいです」というと、「体型で悩みごとない?」。あるに決まってるよね、という表情がダダ漏れだった。
 今ならわかる。あいつはただのこぶとり狙いだった。

 冷静に考えれば、血液型は4分の1の確率で強い関心をひくため。着物は、クレジットローンを組める二十歳以上という条件を見極めるため。なのに私は、「毎日3食3年間、うちのサプリを飲むだけで、みるみる痩せるよ。運動も食事制限もなし。この間は20キロも痩せて着れる服がなくて困ったってお客さんに相談されたばかりなんだよ」という言葉に、磁石のように引き寄せられた。

 あげく、楽してみるみる痩せるという大好物フレーズにくらくらし、気づいたら、喫茶店で30万の痩せ薬の契約をしていた。

「現物は、在庫の都合で来月送ります」。

 これは、クーリングオフができないようにするためとあとでわかる。どう考えても悪徳商法全開なのに、AB型予言と、みるみる痩せるに魅せられ、私もぶかぶかのスカートをぐるんぐるんできるようになるんだなぁ……ひと月8千円のローンでと、頭の中はお花畑だった。

 

見覚えのある男が画面に

 翌月。どーんと届いた大きな段ボール箱には、見るからにしょぼい銀色の小袋がぎっしり。押入れの半分が埋まってしまった。

 なんのデザインも印字もされていない、ただの銀紙を開けるとピンクのざらついた粉が。
 契約時、痩せ薬の現物を見ていないのも、よくよく愚かなことである。なめると無味無臭。
 しかし、史上最強に舌ざわりが悪く、水で流し込むのにもいちいち喉につかえ、涙目で吐きそうになった。

 こんなのを毎食3年間なんて、無理無理無理。速攻で後悔が始まり、解約法を調べた。
 ところが、クーリングオフ期間は過ぎている。こうしている間にも毎月なけなしのお金がローンで落ちている。楽して毎月8千円で痩せられるなら安いものだと思った私に、お前正座なと言ってやりたい。
 恥を忍んで無料弁護士事務所に電話相談すると。
 「明らかに悪徳商法です。そもそもキャッチセールス自体が違法です。いますぐ口座を解約するか、残金を入れないでください。支払わなくて大丈夫です」。そう言われても、住所も知られているし、「AB型のネーチャン、ちゃんと支払えや」と怒鳴り込まれたら怖い。ああ、どうしよう……。
 親にも言えず悩んでいた数日後、テレビに見覚えのある顔が写った。ローカルニュース番組で、AB男が逮捕されていた。

「違法の痩せ薬と反物の販売で、逮捕された犯人グループのひとりです。ふくよかな女性に巧みに街頭で声をかけ、喫茶店などに連れ込んで契約を迫りました。商品の原材料は寒天と下剤で、消費者からの通報で明るみに出ました」

 寒天かよ。そりゃざらつくでしょうよ。飲み込めないでしょうよ。本来水で戻して料理に使うもんなんだから。
 ちなみに、反物は、袖しか入っていないらしい。どこまで社会をなめてるんだAB男。
 しかし、反物なら笑い話にできるが、痩せ薬は恥ずかしくて黒歴史として葬るしか無い。売った人が逮捕って。寒天って。ふくよかって。

 幸いにもローンは3回落ちただけだった。ところであの時のニュースは少し言葉が足りない。「犯人は、ふくよかで“楽して痩せたい”女性に声をかけ」、が正解である。

 次回もよろしくお付き合いの程を。

今回のお代24,000円
(粉薬ローン3回分)

 

現在も順調に増え続けているダイエットグッズ。道具編。

 

特設ページはこちら>>>

 

プロフィール

おおだいら・かずえ
文筆家。長野県生まれ。’94、編集プロダクションを経てライターとして独立。著書に『東京の台所』『男と女の台所』『もう、ビニール傘は買わない。』(平凡社)、『届かなかった手紙』(角川書店)、『あの人の宝物』『紙さまの話』(誠文堂新光社)、『新米母は各駅停車でだんだん本物の母になっていく』(大和書房)など。『そこに定食屋があるかぎり(ケイクス)』など連載多数。大学生長女と映画製作業の夫と3人暮らし。現在どうやら人生初のダイエット道アガリの噂あり。今後の展開にご注目を!

www.kurashi-no-gara.com
instagram : @oodaira1027
twitter : @kazueoodaira

イラスト/いいあい

 

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