「ちかごろのわかい娘と」のお話が生まれた瞬間
和田 「ちかごろのわかい娘と」シリーズを描きはじめたきっかけを教えてください。
西 わが家の方針でSNSに子どもの写真は載せないと決めていたので写真は使えない。それで最初は一コマだけのイラストを描いてX(当時Twitter)に上げていました。そのイラストをTシャツにして販売もしたけど、全然売れなくて親戚に配りましたね(笑)。

和田 まさに今日着られているTシャツですね! その一コマからどうやって漫画になったのですか?
西 ある漫画家さんの「イラストを描ける人なら、イラストで残したほうが記憶への定着度が強い」というようなコメントを見かけて、なるほどなと。おれ、イラスト描けるし、と。連載が一本終わったタイミングでもあったので、なにかしら描こうかなという気持ちが芽生えました。
和田 連載しているような今の漫画がそこからすぐに生まれたのでしょうか?
西 じつは最初から今のような漫画を描けたかというとそうでもなく……。まずは四コマ漫画に取り組んでみたら、オチをつけるのに時間がかかって続けるのがむずかしかった。で、四コマがむずかしいなら、一コマずつのイラストの間を文章でつなげて日記風にしてみようとか、もう試行錯誤。それでも形にしようと粘れたのは、娘の漫画を先々描いていきたいという気持ちがあったからですね。とりあえず娘というキャラクターや造形の定着をねらいつつ、肩の力を抜いてこだわらずに漫画にしてみよう! とネーム(※)に毛の生えた感じで描いたものをnoteにアップしたら、それなら続けられた。
※構図やせりふ、キャラクターなどを大まかに描いた漫画の下書き的なもの。
和田 娘さんの成長をイラストで描いて残せるのは本当にうらやましいです。それで、当初のねらいだった「記憶への定着」は強まりましたか?
西 それがあんまり(笑)。漫画を描くためにメモをとるので、それを見返すと「ああ、こういうことあったな」と思い出したりしますけどね。漫画に残すことで見返すたびに記憶が上書きされている感じはあります。
和田 連載をスタートするきっかけになったのが「note創作大賞2023オレンジページ編集部賞」受賞でした。受賞した作品は、noteにアップしていた当時の漫画よりさらに今の連載スタイルに近づいていますよね。
西 そうですね。noteに上げていたものは短めのものだったので、リライトして今の形にしました。受賞作はその時点で描いていたものから選んだのですが、のちに連載をやるうえで伝えたい考えや、やりたいことを漫画に載せられたと思います。ちなみに「こどもオレンジページnet」連載も、過去に描いたものをリライトしたりもしています。リライト前はネームっぽいものだったりするんですよ。

和田 連載を始めていかがですか? 周囲からの反響が大きかった回はありますか?
西 好評だったのは「藤子不二雄ミュージアムへお出かけ」の回です。半分以上藤子不二雄先生のおかげなんだけど(笑)。僕もこれは気に入っています。お出かけスポットを紹介するルポ的要素も入れられて、自分の感情もうまく乗った回です。親になったからこそ追体験できた不思議な感覚をうまく表現できたと思います。ほんとにタイムマシンに乗った感覚になったな〜(笑)。

西 テレビで「ドラえもん」の映画を見ていて、少し前はシリアスなシーンはちょっと怖くて見られなかった娘が、最近は全部見られるようになって、なんなら感動して泣いていて。「映画みると泣いちゃうんだよね〜」と言ったりすることにこれまた成長を感じさせられます。ちなみに僕が最初に映画館で見た映画が「ドラえもん」シリーズ。娘も今度公開される「ドラえもん」を初めて映画館で見たいと言っているので、またひとつ自分と娘をつなぐ「ドラえもん」エピソードが増えそうです。
大変なことも多いから、あえて「ポジティブ子育て」キャンペーン

西 家にいる時間が長いといっても、仕事の締め切りはあるわけで。締め切り前の数日など、自分が仕事で忙しくて娘の相手ができないとき、かまってあげられないことに罪悪感を感じて落ち込むことはありますね。締め切り自体も苦しいけれど、かまってほしい娘をほうっておいていることが苦しい。
和田 娘さんの視点を大事にしている、西さんらしい落ち込みポイント! それだけいつもつきあっているってことですもんね。
西 その代わりといってはなんだけど、締め切り明けには休みを取って娘と1日出かけるような日をつくったりもします。子どもの視点を大事にしているつもりだけど、自分自身が時間やスケジュール通りに動くのがじつはすごい苦手。だから、予定があって時間どおりに動かないといけないときに、あせっちゃってダメですね。そうでないときは、娘が納得するまで待つように心がけています。
和田 子育てしていると、ついせかしたり、怒り口調になったりしてしまうもの。口癖が「早くして!」になりがち(笑)。待てるというのはすごいです。
西 相手は子どもだから、もちろん何もかも僕より全然できない。でもそれは現時点で身につけているスキルが自分のほうが上なだけで、彼女はまだ人生を始めて数年だから。そして、娘のほうが未来の人なので自分より進化していて、新しい素質を持ち、有能という意識でいます。だから現時点で娘ができないことがあっても、自分のほうがすぐれているとはまったく思わないんですよねえ。娘が生まれたのは僕が42歳のとき。すっごく年が離れているからこそ、世代的文化が違うので変に口を出せないと思っているんです。
和田 娘さんと、一人の人間として向き合っている。そのスタンスは漫画にも表れていますね。父と娘の絶妙な距離感。

西 何でも楽しんでほしいと思います。自分自身を幸せと思った人が幸せ。そういうマインドを持ってほしいですね。子育てだってむずかしいことも多いかもしれないけれど、漫画では子育てのネガティブな面を描かないと決めています。「子育てはいいぞ!」って楽しむようにしているし、実際に楽しい。だから自分はいいと思ったことをそのままストレートに描きたいなと思っているんです。
和田 まさにそれは西さんの子育てであり、「ちかごろのわかい娘と」そのものですね。
西 そうだったらいいですね。なんでも初めてづくしで大変といわれる新生児期も、やることなすこと初めてのことばかりだからこそ新鮮で僕は楽しかったし、それが今もずっと続いている感覚です。大変そうだけど、こうしたら楽しいんじゃない? と、娘にも違う視点を提示できるようにしています。何事も「楽しい」に変換できれば、ある程度大変なことがあっても乗り越えていけるかなと思っている。何でもおもしろがってほしいですね。
何気ない日常を漫画に描くことで「子育てはいいぞ!」キャンペーン絶賛実施中の西アズナブルさん。読むとほっこりしたり、ジーンとしたり。父と娘のいとおしい日々とともに「ちかごろのわかい娘と」の連載は続きます。これからもお楽しみに!
作/西アズナブル
漫画家・イラストレーター。福井県出身。6 歳児子育て中。わが娘がかわいすぎるあまりSNSに娘のイラスト投稿を365日毎日続け、その勢いで漫画「ちかごろのわかい娘と」をスタート。note創作大賞2023オレンジページ編集部賞受賞。書籍『マンガ 生涯投資家』(原作:村上世彰/文藝春秋)、『刑務所なう。』(著:堀江貴文/文春e-book)などのマンガを担当。