close

レシピ検索 レシピ検索
馬田草織の塾前じゃないごはん
塾前じゃないごはん=お夕飯のこと。ポルトガル料理研究家で文筆家の母・馬田草織さんとJCこと女子中学生の娘さん。女2人で囲む気ままな食卓の風景をお届けします。さて今晩の「塾前じゃないごはん」は?

ていねいな暮らしの代わりに親子旅を。皮も食べられる「クリスピーチーズそら豆」レシピに思う。

2023.04.25

皮ごと食べられる。子どもも喜ぶクリスピーそら豆

[第4回]気がつけば、塩対応です子どもらは。親子旅は、行けるうちにね

[第1回]思春期JC娘と母の小舟が行く! ホルモン大航海時代 
[第2回]卒業式、思春期の始まり、そして、スマホどうするよ問題
[第3回]新学期の始まりと、制服とかジャージとか前髪とか

春休みは、JC娘と久しぶりに旅に出た。今年は受験で旅行はむずかしそうだったので、なんとしてでも娘を旅に連れていきたかったのだ。
親子旅のよさって何だろう。娘には、おいしいものがあるらしいとか、すごい景色が見られるらしいと言って誘うのだが、私自身のいちばんの旅の喜びは、じつは別のところにある。親子旅に求めること。それは、いつもと違う環境で、いつもと違った時間をいっしょに過ごすということだ。その違う環境と時間が、自分に余裕をもたらしてくれるからだ。

旅=三食ごはんのありがたさよ

具体的にどう違うのか。なによりまず、自分が三食の準備をしなくていい。食事関連の管轄外でいられる。なんだそんなことかと思う人は、実際に三食用意する立場になったことがない人だろう。試しに1年休まずにやってみるといい。起きたら朝ごはんが、帰ってきたら夕ごはんが用意されているという状況は、それを常にやっている人がいるから成り立っているのだと気がつく(ごはん担当のみなさん、いつもほんとにお疲れさまです)。

旅に出ると、朝は宿、昼は外、夜は外か宿と、常に自分ではないだれかが食事を用意してくれる。その間は、メニュー決めも、買い出しも、準備や片づけもいっさいする必要がない。しかも、朝から晩まで食べたいものを食べっぱなし。夜なんて、食べたら片づけずに、そのまま寝てもいいんだってよ。しかもベッドはふかふか。ふとんもふっくら。朝は脱いだパジャマの洗濯もしなくていいなんて。まるで最高を絵に描いたような状況ですな。

そんな感じだから、旅の間は自分に余裕ができる。車窓からぼーっと流れる景色を眺めていられるのも、余裕があるからこそだ。知らない街の様子を散歩しながら味わったりできるのも、余裕があるからこそ。だから、いっしょに旅をしている子どもや家族、友人との会話も、いつもと違ってくる。ちょっとくだらないことを言ってみたり、ちょっと昔のことを思い出したり。そんな合理的じゃないことを、心から楽しむことができる。

旅は〈日常の枠をはずす〉体験

考えてみると、私たちはふだんの生活の中で、いつも無意識のうちにスケジュールをこなしているようなものなのだ。常に何かに間に合うように起きて、ごはんを作り、部屋を片づけ、仕事をして、出かけて、買い物をして、帰ってきて、ごはんを作り、お風呂を入れて、寝て、を繰り返している。合理的じゃない時間がほぼ持てないのだ。だから旅に出ると、やることなすことノーリミットの心地よさを、つかの間思い出すことができる。ああ、生きるって案外、自由だったんですね、と思ったりするのだ。

あるいは、旅先のいつもとまったく違った環境で、いろんな人が自分とは違うリズムで暮らしていることを目にしたりできる。そしてそれは、自分を客観視する機会にもなる。そんなふうに時間の使い方に余白が生まれると、あらためて子どもや家族の話をゆっくり聞いたり、子どもの遊んでいる様子をやさしく見守ったり、家族どうしの胸の内を交換したりして、新たな気持ちにもなれる。絶景やおいしいものを味わう楽しみももちろんあるが、旅の究極の目的は、そういった非日常で自分の生活の枠をはずし、考え方をラフな状態にすることにあると思う。

ああ、懐かしのポルトガル親子旅

私は自分が旅好きということもあり、娘がティーン未満のころは、チャンスがあれば国内外問わず旅に連れていっていた。9歳のときは、ポルトガルへの取材旅にも娘を連れていき、2週間近くいっしょにあちこちめぐった。その旅は、仕事としては決して効率のいい取材はできなかったけれど、私の人生においては、何にも代えがたい貴重な時間となった。すでにあの旅は、私が死ぬまでに何度も反芻するであろう、大切な思い出になっている。 そしていま、私は実感している。娘がティーンとなったいま、もうあんなふうに親主導で、あちこち旅することはできないのだということを。

小さなお子さんを子育て中のあなたに、伝えたいこと

ここで、まだティーン未満の小さなお子さんを育てているお忙しいみなさんには、ぜひお伝えしておきたい。子どもが無条件に親といることを喜んでくれる奇跡のような時期は、じつは期間限定であり、ある日突然終わりを迎えます。いまは24時間ひっつき虫のように離れないあなたのお子さんも、です。 そうですよね、信じられないですよね。でも、事実です。そして、想像もしなかったような親拒否モードが、突如発動します。いつから発動するかは子どもの個性によりますが、わが家の場合は小6の春ぐらいからだったような気がする。ああ、無情。

わが家の場合は、まず週末のお出かけに興味を持たなくなり、どこかへ誘うと「お母さん行ってくれば、私はいい」と、決まったフレーズでチャットAIばりに即答するようになった。最初は何が起きたのかわからず、それが思春期の顕著な行動パターンだとピンとくるのに、しばし時間がかかった。つまりは自我の目覚めであり、自分の世界の構築が始まったということだから、本来は喜ぶべき成長過程の寿案件だ。だが、それまでどこにでもくっついてきていた子どもがいきなり離れるものだから、しばらくはショックだった。

なかなかあきらめがつかず、しばらくは、まるでくっつかなくなった付箋を何度もノートに貼りつけようとするみたいに、買い物やお出かけ前に声をかけては、娘を誘っていた。そのうちわが家の付箋娘はどんどん自分のスケジュールを組むようになり、すっかり自分の世界を作り、いまや一枚の独立したメモとして、完全に母親のノートを飛び出している

不意打ちをくらう、スマホの画像おすすめ機能

そうか、子育てって案外せつないものなんだ。女性ホルモン大航海時代の復路まっただ中の私は、娘を育てながら、ときおりそんなことをかみしめている。そんなとき、昔の旅の思い出に慰めてもらうこともしばしばだ。とくに危険なのが、スマホが昔の写真を不意に出してくるあの機能。1年前とか10年前とかの写真が出てくるやつだ。あれはほんとに厄介だ。毎回不意打ちされてまんまとからめとられ、気がつくと30分ぐらい、思い出にふけっている自分がいる。

ということで、大事なことなので繰り返します

親子旅は、行けるうちにぜひ積極的に行っちゃってください。旅がむずかしいなら、近所の公園でも、図書館でも、買い物でもいい。そして、将来子どもの塩対応にしびれるようになるであろう自分のために、よき思い出をたっぷりつくっておいてください。繰り返しますが、子どもはいずれ、旅はおろか近所の買い物すら、一緒になんて行かなくなります。

子どもが親を慕ってくれる奇跡の時期は限られているので、その間は仕事も家事も暮らせる程度に適当にして、ていねいな暮らしなんてしなくていいので、なにより親子の時間を堪能することを優先させてください。この奇跡のシーズンは、暗黒の0歳児育児をくぐり抜けた人に与えられる、期間限定のごほうび特典。だからみんな堂々と有休を取りまくって、おまけの季節を味わい尽くすべし。以上(自戒をこめて、そして涙)。

今回の塾前じゃないごはん


クリスピーすぎるチーズそら豆

そら豆シーズン到来中。前回に続き、そら豆は皮ごと料理できるよ、というレシピその2です。今回は皮ごと焼きます。そら豆は皮ごと半分に切ると皮の水分も抜けやすく、火の入りも早くなる。チーズを加えてカリッと焼けたクリスピーな皮は、おかずにもおやつにもつまみにもなります。私のつまみのつもりで作ったら、JC娘がワインを注ぐ間にあっという間に瞬殺し、もう1回作ったということもありました。じつは子どものほうが喜ぶ味なのかも。

そら豆はさやから出し、皮をつけたまま厚みを半分に切る。フライパンにオリーブオイルを温め、そら豆を皮を下にしてすき間なく並べ、かるく塩をふって弱火でゆっくりこんがり焼く。皮の香ばしさが漂ってきたら豆を皮ごとひっくり返す。目安は3分ぐらい。 シュレッドチーズを全体にまぶし、さらに弱火で焼く。溶け出したチーズの縁がカリッとしたらでき上がり。

焼き過ぎかな、ぐらいでいい。器にのせ、粗びき黒こしょうを好きなだけふって完成。 写真ではごく小さな14㎝のフライパンを使い、丸いせんべいのように仕上げていますが、通常サイズのフライパンなら、2~3粒ずつまとめて小さなせんべいのように焼いても食べやすい。使わずに余らせているクミンシードなどのスパイスがあれば、ちょっと加えてアレンジしても。

一度この食べ方を知ると、あなたもきっと、そら豆の皮のおいしさに目覚めると思います。

馬田草織
馬田草織
文筆家・編集者・ポルトガル料理研究家。思春期真っ盛りの女子中学生と2人暮らし。最新刊「ムイトボン! ポルトガルを食べる旅」(産業編集センター)。料理とワインを気軽に楽しむ会「ポルトガル食堂」を主宰。開催日などはホームページ(http://badasaori.blogspot.jp)からどうぞ。
インスタグラム @badasaori

『馬田草織の塾前じゃないごはん』 毎月第2・第4火曜更新・過去の連載はこちら>>>

SHARE

ARCHIVESこのカテゴリの他の記事

TOPICSあなたにオススメの記事

記事検索

SPECIAL TOPICS


RECIPE RANKING 人気のレシピ

Check!