[第3回]新学期の始まりと、制服とかジャージとか前髪とか 学年が1つ上がり、新学期がスタートする始業式の朝。わが家のJC娘が珍しく制服姿で食卓に登場した。おお、久しぶりの制服フルセット着用ですね(ジャンスカ+長そでブラウス+リボン+ボレロ)。しかしあれですな、なかなかな金額で購入したわりに、着ることないよね、制服って。と心の中でつぶやいた。というのもウイルス問題が長引いたこの数年、着替えのときに生徒どうしが密になるという理由で、めったに制服を着ていくことがなくなっていたのだった。制服を着ないのならC学生は何を着ていたのかというと、スクールジャージ。ジャージで行って、ジャージで帰ってくる日々だったのだ。ジャージはいい。あれはいい。すぐ洗える、すぐ乾く、すぐ着られてすぐ脱げる。男女差なし。生徒、親、社会通念の三方よし。いっそのこと、制服をやめてスクールジャージだけにしてもいいのではと思うぐらい。 制服って、ほんとにいる? 制服の是非については、かねてから私には疑問があった。もはやすっかり大人のわれわれ世代にとって、制服はノスタルジックな存在。ひと昔前の卒業ソングでは〈制服〉はパワーワードでもあったわけで、つい甘酸っぱくほろ苦いメモリーを重ねがちでもある。しかし、それもいまは昔。そもそもいま、制服って必要があるのだろうか。義務教育機関としての公立学校で、まあまあな額の服を全員必須で購入させるのってどうなのか。ジェンダー的にも、いまどきスカートとパンツの規定はどうなのか(最近では一部配慮もされはじめたけれど、あくまで一部)。着る機会があまりないものなら、いっそ入学式や卒業式のときだけの貸与でいいのでは。それも希望者のみで。そもそも制服にさほどの思い入れもない私には、私服で何が問題なんだろう、小学校は私服だったよね、と思う。衣服や頭髪の乱れは心の乱れ、といった前時代的呪文を唱える人もいるけれど、そもそも乱れの基準ってだれの何なのか。それって見当違いなんじゃないのか。広い世界を見渡せば、むしろ制服があることのほうがレアだ。世界の学校の大半は髪も服も自由だし、注力すべきはそこじゃない。教育問題の根っこは、もっと別のところにあるわけで。もういいかげん、髪型や靴下や靴の色がどうのといったナンセンスなルール、なんとかならんもんかと思う。昭和の価値観のままのC学校の校則を読んでいると、いったいいつの時代のことかとくらくらしてくる。令和のルールは、令和を生きる人に作らせるべきでは。 制服について、JC娘にきいてみた 何事も、いちばん大事なのは当事者の意見だ。それならば、いままさに制服を着ているC学生本人はどう思っているのだろう。朝ごはんを食べながら娘にきいてみた。すると、当事者ならではの生きたご意見がありました。「制服ははっきりいって必要ないと思う。でもジャージはあってもいい。ラクで動きやすいから。基本私服でいいと思うけど、でも、毎日私服を選ぶのがめんどくさいって人もいるんだよね」 あ、それはわかる気がする。みんながみんな、おしゃれに興味があるとか服が好きとかじゃないし、大人だって服選びが苦手な人もいるからね(含む私)。「でもそれならさ、ピカソやスティーブ・ジョブズ方式で、ボーダーオンリーとか、黒のみとか、着るものを自分で定番化すればいいんじゃないかね」と言ってみる。「あー、なるほどね」ちょっとポジティブな反応をする娘。「あるいはさ、推しのTシャツやトレーナーしか着ない、とかね」と面白がってつけくわえる。すると「それ最高!」と目が輝く。そして、娘なりに社会的な問題解決についても考えていた様子。こんなことを言った。「それにさ、制服を買わないことで浮くお金をもっと別のためになることに使えたら、家計も助かるよね」。おお、おぬし、考えているではないか。そういう問題意識を持つことはよいことじゃ。 前髪>服のおしゃれ事情 話し終えると娘は目の前のみそ汁を飲み干し、ごちそうさまーと部屋に戻って身支度を整え、足早に洗面スペースの鏡の前へ。ヘアアイロンを片手に入念な前髪づくりにとりかかる。扉を隔ててもなお感じる、ものすごい集中力。さらに玄関の鏡の前でもう一度前髪を入念にチェック。「大丈夫かな?」ときいてくる。そう、昨今のティーンのおしゃれのポイントは、制服とかなんとかよりも、まずは前髪なのでした。大人も子どもも、できるだけ選択肢の多い自由な世界で、思い思いの生活を楽しめたらいいのにと思う春。そんな私の家での制服は、ラクなトップスとラクなボトム。これって大人のジャージみたいなものじゃん、と気がつきはっとする。だからたまに人に会うときは、何着たらいいかなと悩みがちなのでした(求む、服の最適化マシン!)。 今回の塾前じゃないごはん そら豆とベーコンのワイン蒸しご飯 そら豆の季節。ご紹介するのはポルトガル式そら豆料理「そら豆とベーコンのワイン蒸し」をご飯ものにアレンジした、おつまみにもメインにもなる料理です。そら豆を皮ごと料理するのは、ポルトガルで知った食べ方。皮ごと炊き込むから皮は柔らかく、中身ほっくり。豆の風味も段違いなのです。味のベースは炒めた香味野菜とベーコンのうまみ。押し麦を加えることでぱらっと軽い仕上がりになります。ワインが止まらなくなる、けしからん米料理です。ベーコンは短冊に、玉ねぎ1/2個とにんにくはみじん切りにする。フライパンにオリーブオイルとベーコン、玉ねぎ、にんにくを入れ、弱めの中火にかけてふたをし、しんなり透き通るまで蒸し炒めに。全体をかるく混ぜたら、さやから出した皮ごとのそら豆と白ワインを少し入れ、塩少々を加えてざっと炒め、そら豆の表面がしっとりしてきたら米1/2合と押し麦1/2合を加え、かるく炒め合わせてから水1.2カップ(240ml)を加える。ふたをして沸くまで数分強火にかけ、沸いたらごく弱火に落として8~10分炊く。火を止めて一度全体をかるく混ぜ、蒸気が米に落ちないように布をかませ、ふたをしてそのまま5分ぐらい蒸らす。米がかたいようなら蒸らし時間をのばして。最後にかるく混ぜて完成。器に盛り、粗びき黒こしょうをガリっと。でき上がりは2人分のイメージですが、多めに作って小分け冷凍しておくと、疲れた夜の救世主にもなってくれます。ワインは酸のある白か軽やかな赤、辛口のロゼも合いますよ。 馬田草織文筆家・編集者・ポルトガル料理研究家。思春期真っ盛りの女子中学生と2人暮らし。最新刊「ムイトボン! ポルトガルを食べる旅」(産業編集センター)。料理とワインを気軽に楽しむ会「ポルトガル食堂」を主宰。開催日などはホームページ(http://badasaori.blogspot.jp)からどうぞ。インスタグラム @badasaori