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【編集マツコの、週末には映画を。Vol.115】『返校 言葉が消えた日』

2021.08.06


こんにちは。ふだんは雑誌『オレンジページ』で料理ページを担当している編集マツコです。前回に引き続き、台湾の映画をご紹介します。アジアで初めて同性婚が合法化されるなど、今やすっかり民主的なイメージのある台湾ですが、数十年前は日本よりもずっと言論の自由が制限されていたんですよね。台湾で大ヒットしたという今作は、人気ホラーゲームを映画化したもの。戒厳令下にあった1960年代の社会を、謎解き要素と人間ドラマを組み合わせて描いた作品です。世界では非民主的な方向へ向かう国が増え続ける今だからこそ、この映画の意味を感じます。


どの国にも暗い歴史があります。平和に見える台湾も、制度上は1987年まで戒厳令(非常時に、立法や司法の権利の一部を軍に委ねること)が敷かれていました。その期間は、実に1949年からの38年間。これは世界最長という、台湾にとって決して嬉しくない記録なのです。
時は1962年。中国国民党が政権を握る台湾では政治的弾圧が続き、自由を称える書物は発禁扱いとなり、違反者には処刑が課される危険さえありました。女子学生のファン(ワン・ジン)が、放課後の教室で目を覚ますところから映画はスタート。人気のない校舎で彼女が出会ったのは、校内で秘密裏に行われている禁書の読書会のメンバーである、後輩の男子学生ウェイ(ツォン・ジンファ)。2人で学校から抜け出そうとするも、彼女たちを待ち受けるのは恐ろしい光景の数々……。読書会に参加していた教師や生徒の迫害、その原因を作った密告者の存在などが、だんだんと明るみにされていくのです。


前述のとおり、ホラーゲームが原作であるこの映画。現実パートと幻想的なホラー映像が混在しながら進んでいくのが印象的です。多くの国民が投獄・処刑されたこの時代の弾圧(白色テロと呼ばれています)は、監督いわく「学生だった頃はあまり学ばなかった」「存在は知っているけれど、話す気にならなかったもの」だったそう。直接的に描くと敬遠されがちなテーマに、ホラーというキャッチーな手法を取り入れたことで、良い意味でエンタメ作品に仕上がっているのが今作の特徴です。ホラー好きやゲーム好きの層にとってハードルが低くなるし、逆に僕はホラーゲームが原作というところがどうかな?と思っていたけど、この要素があるから拷問や処刑の残酷さ、この時代の恐ろしさが伝わりやすいのかなと思いました。


読書会を主催する、若き美術教師のチャン(フー・モンボー)。彼と一緒に会を牽引するのは、リーダー気質を持った女性教師のイン(チョイ・シーワン)。彼らと、主人公であるファン、そしてウェイたちの間に何があったのでしょうか。政治的な思想や制度が大きなテーマですが、物語を動かすのは実は登場人物のとっても個人的な思いなんですね。「この時代の人々は」そんな風にひとくくりに語られてしまいがちですが、人間くさいストーリーは現代に生きる僕たちにとっても身近なものに感じられます。
台湾は日本にとって深いつながりがある国だからこそ、ぜひ見ておきたい作品です。

『返校 言葉が消えた日』TOHOシネマズ シャンテ他、全国ロードショー!
配給:ツイン
©1 PRODUCTION FILM CO. ALL RIGHTS RESERVED.
R-15

【編集マツコの 週末には、映画を。】
年間150本以上を観賞する映画好きの料理編集者が、おすすめの映画を毎週1本紹介します。

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