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【編集マツコの、週末には映画を。Vol.110】『逃げた女』

2021.06.18


こんにちは。ふだんは雑誌『オレンジページ』で料理ページを担当している編集マツコです。昨年の『はちどり』『82年生まれ、キム・ジヨン』、今年初めの『夏時間』と、このところ立て続けに韓国映画に魅了されています。
考えてみると、どれも女性が主人公。今回の『逃げた女』も、タイトル通り女性のお話です。穏やかならぬタイトルながら、一見淡々とした展開。それでいて、見ているうちに妙な違和感を覚えて……。旧友を訪ね歩く女性のストーリーは、生々しく、何気ない会話がどこか不穏。見終わった後もずっと気になってしまう、不思議な魅力にあふれています。


人が久々に知人と会うとき、そこにはどんな理由があるのでしょう。ガミ(キム・ミニ)が先輩のヨンスン(ソ・ヨンファ)を珍しく訪ねた理由はよく分かりません。先輩が離婚して家を買ったことを話したり、ガミが一緒に食べようと牛肉を持ってきたことから牛の話題に移ったり。こうやってたわいもない会話劇が続いていくのかなあと思っていると、急に「私たちは心と体がバラバラ」なんて、ドキッとする発言が出てきてハッとさせられるのです。その後も、別の先輩、そして旧友と、昔馴染みの知人を訪ね歩くガミ。さばさばと屈託のない彼女の印象が、ストーリーが進むうちにきっと少しずつ変わっていくはずです。


「私たちは本当に気が合う」「5年間一度も離れたことがない」自分と夫(パートナー?)との関係を、こんな風に話すガミ。これだけ聞くと幸せな夫婦をイメージしますが、それぞれ違う相手に同じ内容を語る様子は、見てはいけないものを見てしまった気分にさせられます。それを聞いている相手も、肯定的な反応をしながらもどこか微妙な表情。気のおけない間柄の会話に見せかけて、どこか薄い膜がかかったような雰囲気が、この映画に流れる不穏さの正体かもしれません。
各パートの合間に登場し、女性たちの生活をかき乱す男性陣。彼らとのやり取りがまたちぐはぐで、ただし明らかな対立関係なので分かりやすい。やっぱり、平和なおしゃべりのようで実はいろいろな含みを感じる、女性どうしの会話にゾクッとしてしまいますね。


そういえば、意味があるのかないのか、同じモチーフが使われる場面がいくつかありました。中でも印象的だったのが、2人の女性がガミのためにりんごの皮をむいてくれるシーン。何か深い意味が込められているのか、それとも特に意味はないのか? 皮好きの自分としては、なんともざわつくシーンでした。


『逃げた女』ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
配給:ミモザフィルムズ
©2019 Jeonwonsa Film Co. All Rights Reserved

【編集マツコの 週末には、映画を。】
年間150本以上を観賞する映画好きの料理編集者が、おすすめの映画を毎週1本紹介します。

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