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【編集マツコの、週末には映画を。Vol.103】『ブータン 山の教室』

2021.04.09


こんにちは。ふだんは雑誌『オレンジページ』で料理ページを担当している編集マツコです。
タイ料理、韓国料理、四川料理……辛い料理で思い浮かぶ国はいろいろありますが、今まで食べた中で一番辛かったのは断然ブータン料理! 香辛料としてだけではなく、野菜みたいにドバドバ唐辛子が入っていた記憶が(笑)。
ブータンと言えば、「国民総幸福量」の概念が有名な国。いろいろな指標を基に国民の幸福を尊重し、実際97%の人が「幸せ」と回答しているそう。今作は、そんなブータンの今を切り取った、フィクションとノンフィクションの中間のような映画です。


冒頭のシーン、「Gross National Happiness(=国民総幸福量)」のTシャツを着たウゲン(シェラップ・ドルジ)は、教師をしながらも、オーストラリアで歌手になりたいと夢見ている現代的な若者。ある日、秘境感のあるブータンの中でも秘境という村への赴任を命じられ、そこで過ごすうちに昔ながらの信仰や自分の国の伝統を見直していく、そんな物語です。
ウゲンが赴くルナナ村は、は文字通りの秘境。人口はわずか56人、行くのに8日かかり、子どもたちが英語の授業で「車」という単語を知らない、そんな描写もありました。手つかずの自然は美しく、そして学びに対して貪欲な子どもたちの姿に、心を動かさずにはいられません。


グローバル化で自国の文化を忘れた若者が、その価値に再び気が付く成長物語。そう言ってしまうのは簡単ですが、映画が提示しているテーマはそこまでシンプルではないと感じます。
ウゲンをはじめ、都会からこの地に来る教師が留まるのは、春から冬が来るまでの期間。学ぶことが楽しくて仕方がない子どもたちのキラキラした眼差しは、雪に閉ざされた時期は教育が受けられないという事実と隣り合わせなのです。また、学級委員を務める女の子の父親はアルコール依存症という設定も。設定というか、登場人物のほとんどは本物の村人で、だからこのお父さんは実際にアルコール依存症ということです。「この国は世界で一番幸せな国と言われているそうです」という村長さんの言葉が印象に残りました。


インターネットやスマホといった文明は、独自性を保ってきたブータンの文化にも影響を及ぼしているそう。「経済的な発展と精神的な豊かさ、どっちを選ぶ?」ということではなく、これからのブータンを一緒に考えましょうというメッセージなのかもしれません。この映画に欠かせないのが、高地にのみ生息するヤクという牛の仲間。ヒンドゥーやイスラムと同じく、宗教と動物の聖なる関係が本当に美しい。ヤクと触れ合うウゲンの姿を見ていると、衣装や食べ物だけではない、どうしようもなく人々の心に根付いているものを感じます。スマホが入ってきたくらいでは負けないくらい、伝統って意外にしぶといと思うんですよね。

「ブータン 山の教室」 岩波ホールにて上映中 ほか全国順次公開
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【編集マツコの 週末には、映画を。】
年間150本以上を観賞する映画好きの料理編集者が、おすすめの映画を毎週1本紹介します。

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