川津幸子さんのおうちごはんのヒント
台所仕事room
ぬくぬくのいなりずし
新米編集者だったころ、京都に取材に行き、「蒸しずし」という料理があることを知りました。すしは冷たいものと思っていたのですが、それはたっぷりの錦糸卵をのせた温かい散らしずし。底冷えがするといわれる京都ならではの知恵で、食べ終わるころにはおなかもぬくぬくになって幸せ。ただ、自分ではついぞ作ったことがない記憶の中の味でした。それが先日、友人と出かけた東京の京料理のお店で、最後に出てきたのが、いなりの蒸しずしでした。口に含むと、温かな油揚げの中でこれまた温かな酢めしがほろりとくずれ、なんとやさしい味になることか。そうか、蒸しずしはいなりでも楽しめるのね。いなりずしが好きでときどき作るものの、翌日のひんやりしたいなりは愛想がないなあと思っていたので、早速試してみたくなりました。
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