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【編集マツコの 週末には、映画を。Vol.77】「82年生まれ、キム・ジヨン」

2020.10.01


こんにちは。ふだんは雑誌『オレンジページ』で料理ページを担当している編集マツコです。
今年は韓国映画が熱いですね~。アカデミー賞作品賞を受賞した『パラサイト 半地下の家族』は言うまでもなく、このコーナーでも紹介した『はちどり』も、みずみずしく良い作品でした(ちなみにロングランで今も公開中)。そして今回の『82年生まれ、キム・ジヨン』。現代の韓国を生きる30代女性の生きづらさを、様々な角度から丁寧に、優しい目線で描いています。この間、とあるワイドショーでこの作品が取り上げられていて、そのときの出演者たちの発言や会話が後にネット上で話題になっていました。「あるある」シチュエーションがとにかく多く、役者を変えたらそのまま日本映画にできそう。そこには、まさに日本も抱えている問題が提起されています。


前述の『はちどり』の舞台は、1994年の韓国。懸命に羽根をはばたかせるはちどりの様に、ひたむきに生きる14歳の少女のストーリーでした。まだまだ男性優位の社会で苦しんでいた彼女は、1980年生まれ。今作の主人公キム・ジヨン(チョン・ユミ)も同世代に当たります。
例えば手首が痛くて病院にかかったとき、「家電に家事を任せているのに、手首が痛むわけがない」と医者に言われたり。例えば夫の実家で義母に気を遣いながら料理をし、気づけばお手伝いさんのような気分になったり。女性であるがゆえの苦労を伝える場面が積み重ねられていき、とても苦しくなります。なぜ苦しいかというと、彼女が受ける苦労に彼女の非はなく、「女性だから」という理由で負っているものだから。あとビックリしたのが、会社員時代に慕っていた女性の先輩が、男性の上司から子育てしていないことを揶揄される場面。日本ではさすがにこんな事ないぞと言いたいですが、韓国の方が少しダイレクトなだけで、日本にもこういう人はいるかもしれませんね。
精神が不安定になったジヨンは、ときおり他人が乗り移って話し出すという奇行に走るように。本人には全く記憶がなく、心配する夫のデヒョン(コン・ユ)は妻を精神科に行くよう仕向けるのですが……。


僕は作家の角田光代さんの小説が好きなのですが、直木賞を受賞した『対岸の彼女』のインタビューの中で印象に残った言葉があります。それは、「女性を区別するのは女性」というもの。この映画にも同様のことを感じる部分がありました。
例えば、ジヨンが娘を連れてママ友たちと集う場面。「数学の問題を解くと落ち着く」というママがいて、日本では東大にあたるソウル大を出ているとか。そんな風に、学生時代の努力が何も役に立っていないことを、笑いのネタにしながら皆で共有しているのです。また、コーヒーショップで鉢合わせした会社員女性が、子連れのジヨンに対して冷たい態度を取る場面もあって。そんな風にカテゴリーの中で生きるのって、身を守るためなのかなって思いました。女性という弱い立場に置かれた人たちの、精いっぱい身を守る手段。変わるべきは男性優位な社会なのに、女性同士で争わなければならない哀しさ。


韓国では120万部、日本でも20万部近い売り上げを達成した、この映画の原作小説。読んだ方も多いかもしれません。映画に比べて淡々とジヨンのこれまでの人生が語られる原作は、映像がないぶんさらに胸に迫るものが。ちなみにキム(金)は韓国で一番多い苗字、加えてジヨンは82年生まれの女性の中で一番多い名前だそう。個性を持った人間でなく、記号として扱われてしまうジヨンの人生を象徴しているんですね。
この本が世に出たとき、韓国では男女間でものすごい議論が巻き起こったそう。韓国は男性だけ兵役義務があったり、日本とは事情が違うのですが、日本でもこの映画をたくさんの人が見て、たくさんの議論が生まれますように。


「82年生まれ、キム・ジヨン」 10月9日(金)より 新宿ピカデリー他 全国ロードショー
配給:クロックワークス
©2020 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.


【編集マツコの 週末には、映画を。】
年間150本以上を観賞する映画好きの料理編集者が、おすすめの映画を毎週1本紹介します。
文/編集部・小松正和 


次回10/9(金)は「異端の鳥」です。お楽しみに!

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