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【編集マツコの 週末には、映画を。Vol.64】「カセットテープ・ダイアリーズ」

2020.07.02


こんにちは。ふだんは雑誌『オレンジページ』で料理ページを担当している編集マツコです。
先日、グルテンフリーのガトーショコラなるものをお店で見かけました。もともとそんなに小麦粉入ってないでしょと心の中で突っ込んだのですが……数年前からグルテンフリーが流行っていますよね。
そのときどきでトレンドがあるのは映画も一緒。最近多いのは移民や民族問題を扱ったものでしょうか。
自国主義を掲げる国が増えて、自分たちと違う存在に対して厳しい風潮があるので……。

こういう問題を扱う映画は、どうしても重い雰囲気になりがち。自分はいいなと思う作品でも、人に勧めにくいときもあります。
「そういうシリアスな作品はちょっと」という人も多いので。でも例えば、シリアスなテーマとともに素晴らしい音楽があったら……?
『カセットテープ・ダイアリーズ』は、イギリスに住むパキスタン移民の少年が、アメリカのシンガーソングライター、ブルース・スプリングスティーンの音楽に出会って人生を切り開いていく、実話をベースにした物語です。

音楽が優れている映画は数多あるものの、ここまでストーリーとの一体感がある作品はなかなかないような。
ブルース・スプリングスティーンを知らなかった人も(僕です)、彼の音楽を聴くだけでも価値のある映画です。


「イギリス」「パキスタン移民」。このキーワードを聞いて、思い出す映画があります。『マイ・ビューティフル・ランドレット』という80年代の作品なのですが、まさにイギリスに住むパキスタン系の青年が主人公。
白人に負けまいと息巻く主人公オマールと、かつて民族排斥運動に参加していた幼なじみのジョニーとの、友達以上の関係を描いた作品です。
男同士、そして白人と移民。サッチャー政権下で世の中が不安定だったこの時期、2人の愛の間に立ちはだかる壁はとっても高いのですが、タイトルにある「ランドレット=コインランドリー」をともに経営することに。洗濯というイメージが2人の過去や民族の壁といったものを洗い流すメタファーになっていて(多分)、とってもピュアで温かいストーリーなのです。機会があったらぜひ見てみてください。

『マイ・ビューティフル・ランドレット』はロンドンでしたが、今回紹介する『カセットテープ・ダイアリーズ』は、ロンドンから北に50kmほどのところにあるルートンという町が舞台。時代はやはり80年代です。
パキスタン系移民の一家に育った高校生のジャベド(ヴィヴェイク・カレラ)は、閉鎖的な街で日々受ける人種差別にうんざりし、保守的で新しい価値観を認めない父親との関係もストレスとなっています。
移民1世として苦労を経験したお父さんは「(移民としてうまく溶け込んでいる)ユダヤ人を真似ろ」が口癖のような人。ちなみにパキスタンの人がイギリスに多いのは、1950~60年代に労働力確保のためにイギリスが移民を大量に受け入れたからだそう。
ジャベドが愛するのは、音楽と、詩を書くこと。幼なじみのマット(ディーン=チャールズ・チャップマン)という少年が出てくるのですが、この2人はとても仲が良いんですね。
マットは白人。オマールにジョニーがいたように、ジャベドにはマットという存在がいて、そう考えるだけでちょっと胸アツでした。


ジェットコースターがゆっくり上まで登ってから一気に下るような……最初にブルース・スプリングスティーンの曲が流れる場面はそんな心地よさがあります。
それは、ジャベド自身の解放感そのもの。日々、不安定な社会状況に対する思いを大好きな詩にするも、何か物足りない。さらには大学に行って町を出たいという夢は、不況による父親の失職で叶う見込みはほぼ無くなり……。
いよいよ八方ふさがり、そんなタイミングで同じムスリム系のクラスメイトがブルースのカセットを貸してくれたのです。

音楽を表現する言葉をあまり持ち合わせていないのが悔しいのですが、ジャベドを力強く鼓舞するような歌詞と力強いサウンドがすっと耳と心に入ってきて、初めて聞いたのに前から知っていたような、そんな感覚に。
歌詞が建物や空、道路など風景に映し出される、ちょっとミュージカル風の演出も素敵。
カフェで差別的な扱いを受けて反撃したり、気になっている女の子にアプローチしたり、勇気が必要な場面でブルースの歌がジャベドの背中を押してくれるのです。


僕は宇多田ヒカルさんが好きなのですが、彼女の音楽って音自体も素晴らしいけど、音と言葉がものすごく合っているフレーズが多いと思うんですね。「ありがとう」とか「全然涙こぼれない」とか、このメロディにはこのワードしかありえないって思うような絶妙な組み合わせだなーと。
この映画でブルース・スプリングスティーンの曲を聴いて、似たようなことを感じたのです。

なんでこんなにジャベドの状況に合った曲が出てくるのだろう? と思いながら見ていたのですが、シンプルだけど圧倒的に力強い歌詞は、国や世代、性別などいろいろなジャンルを超えて響くんだなあと納得しました。
音楽の力で自信を持ち、徐々に自分自身の「言葉」を紡ぎ始めるジャベド。こじらせてしまったお父さんとの関係は修復できるのか……。

今年の1月にEUを離脱したイギリス。ジャベドが生きる時代から30年以上たった今、自国主義の風潮が強まり、再び移民(および移民系)にとって厳しい時代になっています。
この映画とは違い、現実は音楽だけで救われるわけではないし、差別や偏見も根強い。
それでも、こういう前向きな映画を見ると、状況は必ず変わると信じたくなるのです。


「カセットテープ・ダイアリーズ」  7月3日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ他、全国ロードショー
配給:ポニーキャニオン
©BIF Bruce Limited 2019


【編集マツコの 週末には、映画を。】
年間150本以上を観賞する映画好きの料理編集者が、おすすめの映画を毎週1本紹介します。
文/編集部・小松正和 

次回7/10(金)は「WAVES/ウェイブス」です。お楽しみに!

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