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【編集マツコの 週末には、映画を。Vol.54】「在りし日の歌」

2020.04.02


こんにちは。ふだんは雑誌『オレンジページ』で料理ページを担当している編集マツコです。
『オレンジページ』にはよく麻婆豆腐のレシピが載っています。餃子もよく載ります。日本人は和食と同じくらい中華料理が好きなのです。
反面、日本でなかなか公開されないのが中国映画。ここ数年は邦画が圧倒的に人気なんですよね。あとはハリウッド系やヨーロッパの作品か……。
アジア勢だと韓国映画やインド映画に押されているような気がします。

そんな中、ぜひ見ていただきたい中国映画が『在りし日の歌』。
時代に翻弄された1組の夫婦の30年を描いたストーリーは、今年のベルリン国際映画祭で上映され、最優秀男優賞と最優秀女優賞をダブル受賞しました。
人口統制のために、かの有名な一人っ子政策が実施された中国で、2人目の子どもをあきらめ、最愛の一人息子を事故で失った夫婦の「それまで」と「それから」。中国が経験した激動の時代とともに描いています。
国というマクロな視点と、片隅で生きる市井の人々のリアルが交錯した、パワフルで、繊細で、とても温かい作品です。


1980年代から2010年代まで、色々な時代の場面が入り混じるので、最初少し混乱するかもしれません。親子3人の温かい食事シーン、少年たちが川遊びをしていて誰かが溺れてしまったような描写、少し時代が進んで、思春期の少年と父親が言い争う場面……。時代の行ったり来たりを繰り返して、それぞれの出来事の裏にあった事情や人間関係がだんだん分かってくるのです。

中国の国有企業の工場に勤め、一人息子のシンとともに幸せに暮らしているヤオジュン(ワン・ジンチュン)とリーユン(ヨン・メイ)。同じ工場で働くインミン(シュー・チョン)とハイイエン(アイ・リーヤー)夫婦にはシンと全く同じ日に生まれたハオという男の子がいて、義兄弟の契りを交わすという家族同然の関係でした。
中国で人口爆発を抑えるために、いわゆる一人っ子政策が施行されたのが1979年。リーユンは2人目を妊娠するのですが、なんとか隠れて出産できないかとヤオジュンが画策するも、結局は妊娠中絶手術を受けさせられてしまうのです。



夫婦にさらなる悲劇が起こるのは90年代。最愛の息子シンが、川遊びの最中に溺れ死んでしまうのです。2人は自分たちを誰も知らない土地へと移り、養子をもうけて亡き息子と同じ名前を与えるも、身代わりになりたくない彼とはなかなか折り合えず……。
考えてみると、ヤオジュンとリーユン夫妻は国策による中絶で第2子を失い、最愛の息子を失い、それまでの人間関係を切ったことでシンの義兄弟であるハオとの関係も絶たれて、3人の子どもをなくしてるんですよね。
事故自体は誰のせいではないにしろ、一人っ子政策の陰でこの夫婦のような悲しい思いをした人たちがたくさんいたのかもしれませんね。


シンが事故で命を落とす90年代は中国が急速に発展した時代。この時期、急速に企業の民営化が推し進められ、国営企業は外資系企業との競争で苦戦し、映画の中にもありますがたくさんの人がリストラされているそうです。
それとともに、ヤオジュン夫婦とインミン夫婦のような濃厚な人間関係はだんだんと少なくなっていったとか。
国有企業で働く夫婦が直面した急激な時代の変化。息子の死は、2人の人生を一気に変えてしまったという意味でそのメタファーにも感じました。
そして、養子のシンと事あるごとにぶつかってしまうヤオジュンの姿は、一人っ子政策以後の80年代、90年代生まれの世代とその親の世代間のギャップも表しているのかなと……。

劇中、何回も流れるのが「蛍の光」。なぜ卒業ソングが?と思いましたが、この曲、もともとは友情を歌った曲らしく、「古き友は忘れ難し かつての輝かしい歳月」とヤオジュン夫妻、インミン夫妻、そして他の工場の仲間たちと歌うシーンがハッとするほど美しいのです。
シンの事故で一度は断たれてしまう2組の夫婦の友情が、再びその輝きを取り戻す2010年代。社会のシステムや在り方が変わっても、大切な仲間との友情は変わらない、それがこの映画のメッセージなのかなと思いました。


「卵を5つ焼いたよ」「マントウ(蒸しパン)は?」「落花生を食べろ」
冒頭、そんな親子の食事風景で始まる本作は、時代ごとの庶民の食生活を垣間見られる場面がちらほら。
工場時代の年越しシーンで差し入れられるウイキョウ入りの餃子、客人にすすめる白湯、色々な場面で出てくる、お茶を飲むための大きなホーローのマグカップ……。同じものを食べたり使ったりしたことがないのになぜか懐かしさを感じるのは、人々の素朴なやり取りゆえでしょうか? 2010年代の場面では近代的なキッチンが登場していましたが、それでも人々が囲むのは昔も今も円卓。大皿料理を分け合うのも一緒。
日本と同じく、きっと食べるものもだいぶ変化があったと思いますが、家族で食卓を囲む幸せを考えたら、何を食べるかなんて大した問題ではないように思います。

国の政策に翻弄されながらも、懸命に生きた普通の人々の物語。ラストは、ほかほかのマントウのような温かい気持ちにさせてくれますよ。

「在りし日の歌」  4月3日(金)より角川シネマ有楽町、Bunkamura ル・シネマ 他、全国ロードショー!
©Dongchun Films Production


【編集マツコの 週末には、映画を。】
年間150本以上を観賞する映画好きの料理編集者が、おすすめの映画を毎週1本紹介します。
文/編集部・小松正和 

次回4/10(金)は「カセットテープ・ダイアリーズ」です。お楽しみに!

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