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編集マツコの 週末には、映画を。Vol.43】「私の知らないわたしの素顔」

2020.01.16


こんにちは。ふだんは雑誌『オレンジページ』で料理ページを担当している編集マツコです。
映画もですが、テレビドラマも好きでよく見ます。あえてだと思うのですが、ドラマに出ている女優さんがいきなりCMに出てくること、ありますよね。
悲しみに暮れている役なのに、笑顔でリップ塗らないで!と思う(笑)。同時にドラマ2本に出ている俳優さんもいたりして、ちょっと混乱してしまうのです。

映画だと、最近ジュリエット・ビノシュが立て続けに出ていますね。先日紹介した『冬時間のパリ』、是枝裕和監督でカトリーヌ・ドヌーヴとの共演が話題になっている『真実』、そして今回紹介する『私の知らないわたしの素顔』。
それぞれ全く違う役なのにどれもピタッとハマっていて、こういう人はたくさんの作品に出ていても気にならないですね。
説明不要のフランスを代表する大女優ですが、今回の作品はちょっと新鮮でした。年齢を重ねてなお美しい、そんな表現がぴったりのビノシュさんが演じるのは、SNSの世界の闇に足を取られてしまう中年女性。
誰もが直面する「老い」を現代的な切り口で描いた、男女問わず見てほしい作品です。


ネットでの男女の出会いについて、世間のイメージはだいぶ変わった気がします。
ネットで出会って交際に発展するケースは多く、そのことを公言しやすくもなりましたよね。

この作品の主人公クレール(ジュリエット・ビノシュ)もそんな風に、Facebookでアレックス(フランソワ・シビル)と偶然知り合い、2人の関係は急速に深まっていきます。
ただし、クレールがアレックスに見せているのは偽りの自分。
「クララ、24歳」。ひょんなことから新たにこのアカウントを作成したクレールは、「彼女」に顔を与え、命をどんどん吹き込んでいくのです。

SNS上で自分を偽ること、これは多かれ少なかれ経験済の人も多いのでは?
怖いと感じたのは、いつの間にかこの偽りの存在をクレール自身が信じてしまっているようなところ。嘘をつく罪悪感はありつつも、演じているうちにクララという別の人生を生きているような……。
クレールがクララのプロフィール写真に使った女性はいったい誰なのでしょう。
直接会いたいというアレックスの申し出に、初めは色々な言い訳でかわしていたものの、事態は思わぬ方向に動き始めるのです。


外国に比べて日本は「若い方がいい」という価値観が強いように思います。
そうかと思えば「フランス女性は年齢を重ねるほど美しくなる」……、女性誌でこういう見出しをよく目にしますが、この映画を見ると、どこの国でもそんなに変わらないなという気持ちになりますね。

クレールは大学で文学を教える50代女性。地位も財産もある彼女ですが、プライベートはというと、離婚を経験し、二人の子どもは両親の家を行き来しているようです。
老いそのものは誰にでも訪れるわけで、鏡に映る自分の姿に落ち込んだり、固有名詞がなかなか思い出せなかったり、ため息をつきながら受け入れていくものなのかもしれません。
嘘をついてまで自分より20歳以上も若いアレックスとの関係にクレールを拘泥させたのは、老いることで必要とされなくなる、忘れられていくという恐怖。
その恐怖は男女問わずあるとも言えるし、いやでも女性の方がより感じやすい社会なのかもしれません。
初めはクレールの行動を間違っているとも思ったのですが、見ているうちにだんだんと共感してしまうところもあって……。


この映画は、クレールが精神分析医のボーマン(ニコール・ガルシア)に事の経緯を語っていく形で進んでいきます。
アレックスとの関係の着地点、クララの正体、そしてクレールを本当の意味で打ちのめしたある出来事etc.
二転三転する展開に、いったいどれが本当の出来事なのか混乱してきます。

ボーマンはクレールよりも年上でしょうか、あくまで医師として患者の話を聞きながら、内心では同じ女性として共感したり一緒に悲しんだりもしているのかな?と思いました。

SNSというツールはともすれば安易に批判されがちですが、この作品はその是非を問うているわけではなく、加齢による女性の孤独を現代的な形で描いているところが面白いのです。
老いに焦り、壊れていくクレールは見ていて痛々しい。そんな役もピタッとハマるジュリエット・ビノシュがやっぱりすごいですね。



「私の知らないわたしの素顔」  2020年1月17日(金)よりBunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー
©2018 DIAPHANA FILMS-FRANCE 3 CINÉMA-SCOPE PICTURES

【編集マツコの 週末には、映画を。】
年間150本以上を観賞する映画好きの料理編集者が、おすすめの映画を毎週1本紹介します。
文/編集部・小松正和

次回1/24(金)は「ジョジョ・ラビット」です。お楽しみに!

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