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【編集マツコの 週末には、映画を。Vol.35】「読まれなかった小説」

2019.11.28


こんにちは。ふだんは雑誌『オレンジページ』で料理ページを担当している編集マツコです。
「材料が多い」「作り方が長い」「味の想像がつかない」。突然すみません。
今回紹介する『読まれなかった小説』のタイトルが切なすぎて、自分の仕事に置き換えて考えてみました。「作られなかったレシピ」と仮定したらどんなだろう? と。
映画の話に戻ると、「読まれなかった小説」を書いた作家志望の青年が、大嫌いな父親とぶつかり、悩み、運命を受け入れていくまでの物語。
トルコという不思議でユニークな国の美しい自然とストーリーが見事に重なった、「見られるべき映画」です!


この映画のあらすじを同僚に伝えたら、「あ、『北の国から』みたいな感じ?」というコメントが。
ちょっぴり(いやかなり)ダメだけど、実は人間的な魅力に溢れている父親と子供たちが徐々に分かりあっていく……。そういう意味では確かに共通点も? とも思うのですが、『北の国から』ほどほっこりしていないというか、もう少し苦い気持ちになるかもしれません。

大学を卒業したばかりの主人公シナン(アイドゥン・ドウ・デミルコル)は、「こんなところで終わりたくない」と故郷を軽んじ、何者かになりたいと願い、小説家を目指します。
けれども思った以上に本の出版は難しく、自分が忌み嫌っていた父親と結局は同じ道を辿るのかもしれない……。
行き先が見えない不安が終わりを迎える安心感と、意外性も何もないところに落ち着く敗北感を同時に感じる映画です。


桐野夏生さんの小説が好きなのですが、『メタボラ』という作品の主人公とシナンが少しダブって見えました。
『メタボラ』の主人公の「僕」は、DVや育児放棄で家庭を崩壊させた父親を憎むも、自分のふとした言動に父親の血が流れているのではないかと怯え、苦しみます。
シナンの父イドリスはDVも育児放棄もせず、ただ金にだらしないだけなんですけどね。
シナンはというと、最初は純粋で穏やかな青年なのかなと思いましたが、そうでもないことがだんだん分かってきます。

それが一番分かるのが、地元の書店で権威ある作家を見つけて話しかける場面。
僕も作家志望ですと告げ、どんな作品を書いているんだと聞かれると、「一言じゃ言えません」ともったいぶり、「エッセイでも短編でもない。言うなればオートフィクション、メタノベルです」。
ごめんなさいちょっと意味が分かりません……。
さらには、出版のための支援を地元の有力者に頼みに行く場面だったか、「これは私的な告白です」みたいなことを言ってて、そんなの絶対読みたくないなって思いました(笑)。
自分の意見に共感してもらえないと、すぐに攻撃性を発揮するシナン。その権威ある地元の作家とも言い争いになり、ケンカ別れのような形になってしまいます。
シナンがもっと善良で、奔放な父親にただ振り回されているだけのお人よしだったら、ちょっと普通過ぎて面白くなかったような。
一見とても優しそうな人物が、ダークな部分を見せるのがすごくいいんですよね。


このお父さんはどういう人物なのでしょう。競馬が好きで、どうやら給料の大部分をつぎ込んでしまっている。
そうかと思えば、村に井戸を作ろうとひたすら穴を掘ってみたり、不思議な行動もするんですよね。
イヒヒ、イヒヒ、と意味もなく気味の悪い笑い方をするので、家族からも村人からも距離を置かれてしまっています。
ただのぐうたらオヤジといえばそれまでなのですが、何か深い考えを持っているようにも見えて……。
で、実は先生なんですよこの人。そんな立派な職業の人がなぜギャンブルに? なぜ意味もなく笑うように?
そんな風に考えながら見ると、よりいっそう面白いと思います。

この作品の原題は「野生の梨の木」。トルコには野生で生る梨が多く、とっても形がいびつで味もまずいらしいです。転じて、役に立たないものの象徴なのだそう。誰のことを指しているんでしょうね。
切ないニュアンスはそのままに、目線をシナンに向けた邦題が素晴らしいと思いました。



独特な雰囲気のあるトルコの風景も見どころです。シナンの故郷は、トロイ遺跡のあるチャナッカレという土地。
一見華やかな観光地でありながら、そこで暮らす人たちは日々田舎町ならではの閉塞感に倦んでいる……そういうリアルな感じが好きです。
シナンが幼馴染と再会する林の中、作家と議論を交わす川沿いの道、大きな梨の木が生える祖父の家etc. 人間同士の感情のぶつかり合いと、自然の美しさが不思議なコントラストを作り出しています。


「読まれなかった小説」  11月29日(金)新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー!
© 2018 Zeyno Film, Memento Films Production, RFF International, 2006
Production, Detail Film, Sisters and Brother Mitevski, FilmiVast, Chimney,
NBC Film


【編集マツコの 週末には、映画を。】
年間150本以上を観賞する映画好きの料理編集者が、おすすめの映画を毎週1本紹介します。
文/編集部・小松正和

次回12/6(金)は「カツベン!」です。お楽しみに!

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