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【編集マツコの 週末には、映画を。Vol.27】「エセルとアーネスト ふたりの物語」

2019.10.03


こんにちは。ふだんは雑誌『オレンジページ』で料理ページを担当している編集マツコです。
よくお仕事をする料理研究家の先生がいるのですが、その人の料理って「普通なのにおいしい」んです。
特に「映え」てもないし、使っている調味料はしょうゆとかお酢とかマヨネーズとか誰の家の冷蔵庫にでもあるものばかり。でもものすごくおいしい。特にポテサラなんて最高なんです。

映画『エセルとアーネスト ふたりの物語』も、どこにでもいそうな普通の夫婦の物語。
普通だからこそ愛おしく、普通を懸命に生きた2人の姿に、もうー涙が止まりませんでした。
『スノーマン』『さむがりやのサンタ』などで知られる絵本作家、レイモンド・ブリッグズが、自分の両親を描いた作品が原作になっています。
イギリスのお話ですが、普通の家族の喜びや悲しみがぎゅっと詰まった、日本の人も共感できる作品です。


人は一度しか生きられないので、どの時代に生まれたら幸せか、幸せだったかは誰にも分からないですね。
マツコの父親は事あるごとに「俺はいい時代に生まれた」と言うのですが、高度経済成長を経験した人たちはまあそう思うわな、と聞き流しつつも納得しています。
とはいえ、今と比べて治らない病気が多かったり、男女格差もあったり、どの時代もベストということはないですよね。
1928年に出会い、結婚し、1971年までともに過ごしたエセルとアーネストはどんな時代を生きたのでしょう?

ロンドンで牛乳配達員として働くアーネストが、貴婦人のメイドをしていたエセルにデートの申し込みをするところから物語は始まります。
2年後、晴れて結婚した2人の生活は、時代の追い風もあってかどんどん裕福なものに。
25年ローンで購入した一軒家は、浴槽付きの風呂、水洗トイレもあり、さらに石炭ストーブをガスレンジに変えたり、中古のソファを見つけてきたり、家を少しずつ快適にしていく2人。
日本でいうと昭和初期、いわゆる労働者階級でも随分と余裕のある暮らしだったんですね、イギリスは。



映画のタイトル通り、これは妻エセルと夫アーネストの人生を綴った、パーソナルな物語。
と同時に、この時代を過ごしたイギリス人、さらには20世紀を過ごした世界中の人の物語でもあります。

というのは、平凡な2人の夫婦が経験した出来事は、この時代の人たちが「ああ、そうだったなあ」と懐かしく思い出すことばかりのはずだからです。
ミュージックホールの入場料が5シリングだったこと、手回しの脱水機を使っていたこと、ダイヤル式の黒電話の呼び出し音に初めはびっくりしたこと、アポロ11号の月面着陸をテレビで見たことetc.
過去を回想しながら同じ時代を生きた人たちが共感し合えるのは、今も昔も変わらないですよね。
去年~今年にかけて、平成の30年間を振り返った僕たちもまた、過去を共有したのだと思います。

もちろん共有するのは楽しい過去ばかりでなく、エセルとアーネストが生きた時代を描くには、戦争は避けて通れません。
息子レイモンドが生まれ、その成長を見守る幸せな生活に忍び寄る戦争の影。家にシェルターを作り、毒ガス攻撃に備えてマスクが配られ、レイモンドは疎開生活を強いられ……。
アメリカ映画とかを見ても思いますが、どの国も戦時下は過酷だったとはいえ、勝った国と敗けた国ではだいぶ印象が変わるなあ。
広島に原爆が落ちた情報を2人がラジオで聞き、みんなが通りに出て勝利を祝う。ここは日本人が見るとやっぱり辛い場面です。
と同時に、息子が戦死したご近所さんとアーネストの会話も挿し込まれ、勝った敗けただけでは片づけられない、パーソナルな痛みもきちんと表現されています。


子供の頃、日本のものより外国の絵本が好きでした。
特にクリスマス関連のものは日本だと少なかったので、見知らぬ国のイベントを想像しながら楽しんでいたのを覚えています。
その中でも特に好きだったのが、レイモンド・ブリッグズ作の『さむがりやのサンタ』。
日本でもロングセラーの絵本なのでご存じの方も多いと思いますが、ぶつぶつと文句を言いながら世界中にプレゼントを届けに行くサンタが憎めなくて、絵本にしては少しリアルなタッチにも魅かれるものがありました。

ところでエセルは、つまりレイモンドのお母さんですが、悪い人じゃないけどちょっと癖もある女性。
メイドを辞める際、「私は小間使いではなく奥様専属のメイドだった」と主張したり、レイモンドが高等中学に通うことになると、お隣さんに「算数ではなく数学を勉強するの」と自慢してみたり、けっこう階級意識がすごい。今風に言うなら、すぐマウンティングしたがる印象です。
大人になったレイモンドに対しても、絵描きになろうとするのを反対したり、婚約者のジーンに対しても否定的な態度を取ったり。
ただ、そのエセルの描き方が決して否定的ではなく、レイモンドの愛情を感じるんですよね。
僕の大好きなお母さんはこういう人だったんですよ、っていう。

『さむがりやのサンタ』も、ぶつぶつ文句を言いながら、ときには好きなブランデーを飲みながら配達をこなす、皆が描く理想のサンタとはちょっと違う存在。
子供の頃に魅かれたのは、こういう人間くささだったのかもしれないと、今回この作品を見てなんだか分かりました。


原作本も読んだのですが、こちらは絵のタッチや色使いがもう少しリアルで、だいぶ大人向け。
支持政党の違う2人のちょっとした言い争い、同性愛の合法化に関するニュースについての会話などが良い意味で生々しく、映画とはまた違う魅力があります。映画といっしょにぜひ。
そして映画も原作も、最後の場面がとにかく素晴らしい。
原作者レイモンド・ブリッグズの両親への愛情が特に感じられるところだなと思いました。

そうそう、エンディング曲を書き下ろしたのは、なんとポール・マッカートニー。
ブリッグズ氏の大ファンらしく、14歳のときに亡くなったお母さんへの想いを書いた曲だそう。

『さむがりやのサンタ』を久々に読み返してみたら、サンタさんが牛乳配達員と会話を交わす場面がありました。「まだおわらないのかい」「ほとんどすんじまったよ」
ここにもアーネストがいたんですね。


「エセルとアーネスト ふたりの物語」 岩波ホールほか全国順次ロードショー
配給:チャイルド・フィルム/ムヴィオラ
© Ethel & Ernest Productions Limited, Melusine Productions S.A., The British Film Institute and Ffilm Cymru Wales CBC 2016


『エセルとアーネスト ふたりの物語』 作:レイモンド・ブリッグズ 訳:きたがわ しずえ
定価:1,600円+税 発行:バベルプレス http://www.babelpress.co.jp/

【編集マツコの 週末には、映画を。】
年間150本以上を観賞する映画好きの料理編集者が、おすすめの映画を毎週1本紹介します。
文/編集部・小松正和

次回10/11(金)は「トスカーナの幸せレシピ」です。お楽しみに!

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