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【編集マツコの 週末には、映画を。Vol.13】「ぺトラは静かに対峙する」

2019.06.27

こんにちは。ふだんは雑誌『オレンジページ』で料理ページを担当している編集マツコです。
映画好きのくせにと思われるかもしれませんが、たまに映画を見ながら寝てしまうことがあります。
つまらないのではなく(つまらないときもある笑)、僕にとってはあの閉ざされた暗闇の中で心身ともにリラックスすることも映画を見る楽しさの1つなので、その結果、数分寝てしまうことも。
だいたいの場合数分寝たところで問題ないのですが、たまに物語が一気に展開するところでうっかり寝てしまうと大変です。いつの間にか舞台である国が変わってるとか、子供だった主人公が大人になっちゃったとか……。

今回紹介する『ぺトラは静かに対峙する』は、数分たりとも見逃せない緊張感が続き、良い意味で寝る間もなくあっという間に見終わる作品でした。


タイトルからして「これは絶対複雑な映画に違いない!」と思い、1秒たりともスクリーンから目を離さない覚悟で見始めました。ところが、主人公のぺトラが出てきて、次に出てくる女性はテレサ、するとジャウメの妻だというマリサとぺトラが出会い……。あれ、ぺトラって誰だっけ……。3文字の名前がいきなりたくさん出てきて、登場人物は少ないのに混乱するという体たらく
『誰もがそれを知っている』のときとは違い、顔はしっかり見分けられていたのに、今回は名前でやられたぜ……。

整理しますと、舞台となる邸宅にやって来たぺトラ(バルバラ・レニー)は画家で、「ジャウメ(ジョアン・ボテイ)と共同製作するためにアトリエに来た」と、家政婦のテレサ(カルメ・プラ)に説明します。ジャウメの妻だというマリサ(マリサ・パレデス)ともぺトラは対面しますが、「夫から学ぶことは何もない」というマリサの言葉が意味深です。
そうこうしているうちに、ジャウメの息子であるルカス(アレックス・ブレンデミュール)と意気投合するぺトラ。家族にも他人にも権力をふりかざす冷酷な父親とは溝があるものの、母親がいるから家から出ていくことはできないと話します。カメラマンとして、今はスペイン内戦の犠牲者たちの写真を撮っているという彼にぺトラは興味を示し、2人の距離は急速に縮まる……。
「ああ、これはそういうことになるな」と思わせるのですが、ぺトラはなぜか一線を越えない。


なぜだろうと思った次の瞬間、「第3章」というテロップが。そう、この映画は小説のような章仕立てになっていて、その内容を章タイトルで観客に予告してくれるのです。
第3章はかなりショッキングなタイトルで、実際に痛ましい事件が起こるのですが……そして次に、観客は目を疑います。なんと、第3章の後に第1章が出てくるのです。
そういえば、いきなり第2章から始まったことが気になっていたのですが、例のごとく一瞬寝たのかなと思い(笑)、スルーしていました。どうもストーリーの流れがつかめない(そして名前でも混乱)と感じていたのも当然で、ぺトラがジャウメに会おうとする理由は第1章を見なければ分からないんですね。
わざと章の順番を入れ替えるという脚本の妙。章タイトルで次に何が起こるかを示されていながら、脈絡が分からない部分があるため、展開が気になって仕方がない。

この入れ替えは二度行われるのですが、1回目は「そう来たか!」という純粋な驚きがあります。2回目はこちらもこのトリックを理解しているので、今起きていることの種明かしが行われることに自然とワクワクしていました。


ぺトラは父親を知らないまま母親と2人で暮らしてきました。母の死に際し、彼女はどうしても自分のルーツを知りたくなる。叔母の協力を仰ぎ、母の昔の知り合いからなんとか情報を手繰り寄せるのですが、そこでたどり着いた名前こそ、彫刻家として世に名を馳せるジャウメ。
ぺトラはジャウメが自分の父親なのかどうかを確かめるため、自らの芸術家としての地位を利用し、彼への接近を試みたのです。

ジャウメは随分非道な人物として描かれています。権力を利用して家政婦をもてあそび、さらに実の息子であるルカスを異様なほど厳しく抑圧する。
ぺトラは頃合いを計り、ついにジャウメに真偽を確かめるのですが、意外にも彼の答えはNoでした。
ルカスと自分は異母兄弟なのではと疑っていたぺトラですが、その疑いも晴れ、2人は結ばれ家庭を育むことに……。
多少ストーリーを知ったくらいでは、この映画を見る楽しみは全く失われないのでご安心を★
この後、もう一度章の順番の入れ替えがあるのですが、悲劇が起こった後に幸せだった過去が描かれるのでかなり残酷です。


このジャウメという人物は、他者を抑圧する怪物のような存在として描かれていると思うので、彼の言動の是非を問うのはナンセンスに思います。考える必要もないほど、彼の言動は悪意に満ちているので。
それぞれの登場人物がこのような怪物にどう立ち向かうか、そこが見どころです。
息子であるルカスは最大の被害者のように描かれていますが、彼は単純に弱いから身を滅ぼしたのではないでしょうか。
以前読んだ小説のあるくだりを思い出しました。北海道の実家から家出をした主人公が、東京で作った家族と再び北海道を訪れるのですが、湖畔で猟犬の死体を発見します。皆は「可哀そう」「哀れだ」と口を揃えるのですが、北海道の自然の厳しさを知っている主人公だけは何も感じず「そういう犬は死んでいく運命なのだ」と独りごつのです。
マツコもルカスに対して同じようなことを思いました。弱い者は生き残れない、シンプルな話です。
その点、ぺトラはジャウメの悪意に屈しません。傷つき、翻弄はされるけど、最後まで対峙するのです(タイトル!)。


明らかになっていく家族の秘密にハラハラするのですが、実はそんなに多くの出来事が起こっているわけではありません。
シンプルな物事さえも複雑に絡まっているように感じてしまう、章の入れ替えによる絶大な効果を感じます。
この映画、ときおり人物から視点をはずし、カメラが静かに移動して周りの景色を映し出すんです、それもけっこう長い時間。
カタルーニャ地方の壮大な風景を眺めていると、人間のわちゃわちゃしたやり取りがなんとも愚かしく思えてきて……。
意外にも心温まる(?)結末が待っていたことにホッとしながらも、いやでも結局誰が本当のことを言ってるか分からないぞとも思い、最後までドキドキ、余韻もたっぷり残してくれる映画でした。


「ぺトラは静かに対峙する」 6月29日(土)より 新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺ほか全国他順次公開
©2018 FRESDEVAL FILMS, WANDA VISIÓN, OBERON CINEMATOGRÀFICA, LES PRODUCTIONS BALTHAZAR, SNOWGLOBE
配給:サンリス



【編集マツコの 週末には、映画を。】
年間150本以上を観賞する映画好きの料理編集者が、おすすめの映画を毎週1本紹介します。
文/編集部・小松正和

次回7/5(金)は「Girl/ガール」です。お楽しみに!

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