料理好き、そして玉子好きな小説家の井上荒野さんが、 気楽に作れておいしい「目玉焼き」のせ料理を紹介する連載エッセイ。最終回のレシピは、井上さんの思い出の目玉焼きのせトースト。半熟の黄身をくずしてバターを塗ったトーストといただきます。シンプルで、元気をくれるひと皿です。
厚切りのトーストに、目玉焼きをのせる。
目玉焼きはもちろん半熟。ナイフを入れて、とろりと流れ出した黄身を、パンに絡めながら食べる。
これは私にとって「おじいちゃんのトースト」だ。子供の頃、母がこれを作ってくれるたびに、「おじいちゃんがこうやって食べてたのよ」と言ったから。今ではめずらしくもない食べかただけれど、当時としてはハイカラなひと皿だったのかもしれない。私の最初の「目玉焼きのせ体験」でもあった。
コロナの第一波は今(五月中旬現在)、収束の兆しを見せている。だがワクチンや治療薬の開発には時間がかかりそうで、それまではコロナと共存せざるを得ないと言われている。以前とはたぶんいろんなことが変わってしまう「アフターコロナ」の世界では、「目玉焼きをのせればたいていのことはどうにかなる」なんて言葉はひどく呑気に響いてしまうかもしれない。
ではどうするか。結局は、自分にできることをやっていくしかないのだろう。自分にできること——私にできることの一番目は小説を書くことだが、大きく考えれば、「じゅうぶんに生きること」だろうと思う。
日々に楽しみを見つけること。でも、怒るべきことにはちゃんと怒ること。自分のためにも他人のためにも、あきらめないこと。
この連載は、今回が最終回となります。毎回楽しく書かせていただきました。ときどき何かに目玉焼きをのせつつ、じゅうぶんに、元気に生きていきましょう。お読みくださってありがとうございました。
まだまだ寒い
長野ですが…
ときどきはテラスで
食事できる気温に
なりました
いつも
じゅうぶんに
生きてる猫
地味だけど
風情がある山の桜
撮影/三原久明
文・写真・料理/井上荒野 構成/掛川ゆり
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