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馬田草織の塾前じゃないごはん
塾前じゃないごはん=お夕飯のこと。ポルトガル料理研究家で文筆家の母・馬田草織さんとJKこと女子高校生の娘さん。女2人で囲む気ままな食卓の風景をお届けします。さて今晩の「塾前じゃないごはん」は?

けんかしないで正月を過ごしたい。ささやかだけど切実な願い「白菜グリルと帆立てのクリーム煮」のレシピ

2024.01.09

「白菜グリルと帆立てのクリーム煮」のレシピ

[第20回]けんかしないで正月を過ごしたい。切実だけどささやかな願い

[第19回]トゥバとセブチの違い。家族間〈ジェネギャ〉について考える

朝から晩まで、冬期講習漬けの受験生娘

わが家のJC娘は受験生。今年の年末年始は朝から夜まで塾だった。冬期講習は昼用と夜用の塾弁当を持たせ、年末年始は元日以外はずっと講習。ほんとおかしいよね、これ。東京にいるとだんだんと普通に思ってしまう自分が恐ろしいが、世界を俯瞰したらこんなシステムで子どもを受験に向かわせる仕組みって明らかにクレイジー。日本の教育システムは右を見ても左を見ても受験合格、偏差値アップという目標が燦然と輝き、昔の軍隊由来っぽい「訓練」とか「特訓」とか、何やらいかめしい名前をつけた講座が次々とあって、しかもまあまあ驚くような金額がかかるようにできていて、ほんと巧み。

それならいっそ、塾に子どもをやらなければいいじゃんとも言われそうな話だが、「塾に行って勉強したい」と人生に対して珍しく前向きなことを、自ら言い出した子どもに、「だめよ、お母さんといっしょに現代の受験経済システムに反抗するのです」とは到底言えず、子どもが参加を希望する講習に申し込んではせっせとお金を支払う。そんなハートはチキンな母親だが、言いたいことはあるのだ。

塾が嫌いとか、そういう話でもない。娘にとって塾の先生は、教えたり励ましたりしてくれる頼もしい存在。娘の話を聞いていると、むしろ先生には感謝したいぐらいだ。だからこれは塾うんぬんというよりも、教育システムと受験経済システムの問題だ。どうやったらこの仕組みを変えられるのだろう。わたしもこのシステムの構築に結果的に加担してしまっているのだろうかと、毎日夕飯代わりの弁当を作りながら、勉強がんばれよと思いながら、受験システムへのもやもやだけが粉雪のように静かに心に降り積もっていく。いまいましいシステムめ。

正月前に、娘からのひと言

そんなわけで今年は娘にとって、おじいちゃんとおばあちゃんのいるわたしの実家でゆっくりできる正月は元日のみだった。前々から実家ではスペシャルなおせちをオーダーしたり、わたしも料理を仕込んだりして元日を楽しみにしていた。

すると年末のある日、JC娘が塾から戻ってからになったお弁当箱を手渡しながらわたしに言ったのだ。
「お母さん、今年は元旦しか楽しい時間ないから、おじいちゃんとけんかしないでよ、貴重な元日なんだから」。
そうだよね、お母さんもそれ毎年祈ってるの。でもなかなかうまくいかないんだなこれが。

毎年正月に家族で集まると、言い合いやけんかにならなかったためしがないぐらい、わが家ではわたしと父がよく口論になってきた。といっても、父と私はとくに仲が悪いというわけではなく、どちらかというと気は合う方だ。ただ、考え方のベースがある一点において明らかに違う。九州生まれの昭和仕込みな父はナチュラルボーン男尊女卑スピリッツがたけだけしく、そのせいでフェミニスト化したわたしとその点においては混ぜるな危険の関係だ。だからなるべくそっち側に話が行かないように、昔の懐かしい思い出話を中心に、おだやかな空気をキープするのが賢明だと学んだ。それでもやはり、リラックスした実家で祝いの酒が入ると、思ったことを遠慮なく言いたい似たものどうしの父とわたしはだんだんと向かってはいけないほうへそろって吸い込まれるようにかじを切り、最後はいつもどおりの言い合いになっていた。これってエンディングに音楽つけたらまさにコントだ。毎回オチが決まっている。

改めて感じる「平穏な日々」のありがたさ

そんなわけで、今年の元日はつとめておだやかに過ごすことを旨とした。トピックはほぼ娘のことやマイルドな去年の振り返りで、社会的なあれこれには触れない。政治的な話もなるべくしない。そうやってごちそうとお酒をおいしくいただいたら、朝から昼過ぎまでけんかもなく過ごすことができた。やればできるじゃないか。夜の食卓もこの調子で過ごそう。

そしたら夕方、能登地方で大きな地震が起こったのだった。しだいに明らかになっていく惨事に、夜の食卓は言葉を失ってしまった。日本中がいちばんリラックスして、おだやかにおめでたい気持ちを分かち合っていた時間帯だ。ひどすぎる。怖くて、痛くて、寒くて、不安が募って、どんなにか大変だろう。受験生たちにいたってはどんな心持ちだろう。どうか被害が最小限にとどまりますよう、どうかつらい環境が一刻も早くおだやかになりますよう、祈るしかない。そしてわずかだが、できる範囲での寄付だ。ほかにできることは何があるだろう。これを書いている今も考える。

翌日2日からJC娘は塾が始まり、わたしも朝からいつもどおり弁当を作り娘を送り出した。いつもより明らかに静かな正月。コロナ禍を経てあらためて気がついたのは平穏な生活のありがたさだったが、今年もそれを胸に刻んで過ごそうと思う。そして今回の地震で被災されたみなさま、どうかご無事で。受験生と支えるみなさまも、どうかご無事で。寄付以外に、何ができるのだろう。

今回の塾前じゃないごはん

「白菜グリルと帆立てのクリーム煮」

和が中心だった正月料理のあと、リッチな生クリームの味わいは新鮮。今が旬の甘みを蓄えた白菜をつぶしたにんにくといっしょに香ばしく焼きつけ、帆立て貝柱の水煮缶を缶汁ごと加えて蒸し焼きにしたら仕上げに生クリームをひと回し。フライパンひとつで完成する白菜メニューです。牛乳とは明らかに違う生クリームの濃厚なこくで、帆立のうまみしかないだしと生クリームの合わさったソースごとをご飯にかけてもいいし、パンをぎゅーっとソースに押しつけて、ひたひたのところをぱくっ、もいい。ワインにもよく合うつまみ的なおかずです。生クリームになじみのない人も試す価値あり。キッチンでのささいな冒険は、小さくても確かな喜びにつながります。

ちなみに余った生クリームは冷凍すれば大丈夫。グラタンのソースやシチュー、パスタのソース、本来はチーズと卵だけで作るカルボナーラのソースに加えてこくを出すのも家庭料理ならでは。私は残ったらシリコン製の製氷トレーに小分け冷凍してホットココアに浮かべたり、スクランブルドエッグを作るときに溶き卵に加えたりもします。ぽってりとこくのあるココアやスクランブルドエッグは、寒い冬の朝はとくにうれしい。

白菜1/4株(小さめのもの)は、軸の根元部分に縦に切り込みを数回入れ、火を通りやすくする。にんにく1かけは皮つきのままつぶす。フライパンにオリーブオイル大さじ1とにんにくを入れて中火にかけ、白菜は断面を上にして塩をふり、両面をこんがり焼く。白菜の断面にそれぞれ焼き色がついたら、しん部分を押して葉を広げる。

帆立て貝柱の水煮缶1缶(約150g)を缶汁ごと加え、10分ほど弱めの中火で蒸し煮にする。白菜の葉がくたっとしたら塩適宜で味をととのえ、生クリーム1/2パック(100ml)を回しかけてふたをし、さらに5分ほど煮る。白菜に味がなじんだら完成。

粗びき黒こしょうをしっかりきかせると、メリハリのある味になります。濃厚なうまみがあと引く白菜で、ワインもいけるけしからん真冬のつまみおかずが完成です。
馬田草織
馬田草織
文筆家・編集者・ポルトガル料理研究家。思春期真っ盛りの女子中学生と2人暮らし。最新刊「ムイトボン! ポルトガルを食べる旅」(産業編集センター)。料理とワインを気軽に楽しむ会「ポルトガル食堂」を主宰。開催日などはインスタグラムからどうぞ。
インスタグラム @badasaori

『馬田草織の塾前じゃないごはん』 毎月第2・第4火曜更新・過去の連載はこちら>>>
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