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馬田草織の塾前じゃないごはん
塾前じゃないごはん=お夕飯のこと。ポルトガル料理研究家で文筆家の母・馬田草織さんとJKこと女子高校生の娘さん。女2人で囲む気ままな食卓の風景をお届けします。さて今晩の「塾前じゃないごはん」は?

「カリカリにんにくとオイルサーディンのトマトパスタ」子供を育てながら働くということ

2023.06.27

「カリカリにんにくとオイルサーディンのトマトペンネ」

[第8回]産んでも仕事は続けられるのだろうか、問題

子どもを育てながら仕事をする生活になって14年がたつ。早い、早すぎる。あっという間すぎて怖い。そこらのホラー映画よりずっと怖い。

JC娘、14年の振り返り

自分のこれまでの歩みにはいまいち実感が持てないが、目の前で朝ごはんを食べているJC娘を見ていたら、たしかに14年たっていることが確認できた。たとえばおぬしが保育園児だったころは、朝から手づかみで納豆を食べ、その手でおもむろににっこりと、私のお気に入りの白いシャツのそでをがっちりつかんだりしてたよね。私はガッデムまたやられたと洗濯機に服を投げ入れ、急いで着替えたものだったよ(出勤前の幼児の納豆は危険)。いまではハムときゅうりがぎっしりはさまったホットサンドを、私の服のそでを汚すこともなくきれいに食べる娘の様子に、あらためて14年の成長を実感したのだった。

14年もたったので、子育てしながら仕事をしてきたこの経験を、少しは後輩のかたがたのお役に立てたいと思う。だって私もかつては、先輩がたの言葉に助けられたのだ。あるいは加齢とともに、一方的にあめを配りたくなるおばちゃん的心持ちになってきたのもまた事実。

子どもを持ったうえで、働くことへの不安

20代30代で仕事に夢中になっていたころ、私がいちばん怖かったこと。それは、いま子どもを産んでも、あるいは子どもを持っても、この仕事を続けられるのだろうかということだった。子どもを持ったら、私のキャリアはいずこへ。当時働いていた出版社は、子を持つ女性編集者も女性編集長もいたので先輩の実例はあるにはあったが、それでもやっぱり怖かった。出産後、編集ではない部署に異動する人もいたし、出産直前まで私と同様に深夜残業しまくっていた人が、働き方が一気に変わって18時に仕事を切り上げ急いで帰ったりするのを見ると、自分の未来の想像がつかなかったからだ。想像できないものはなんだかわからない。だから怖い。

子持ちで働く=障害物競走?

実感としての日本における育児と仕事の両立は、残念ながらまだトラップだらけというのが正直なところだ。当時の子を持つ男性の働く様子が徒競走なら、子を持つ女性は障害物競走のイメージ。それも、あんパンとかネットとかそんなかわいい障害物じゃなく、オリンピック正式種目の3000m障害みたいな、つまり3キロ走る間に1m近い高さの平均台みたいな障害物を28回と水濠を7回越えるスーパーハードなやつ。

 ほら、やっぱり仕事と子育ての両立は大変じゃんと、げんなりさせたら申し訳ない。でも私がお伝えしたいのは、そのハードな障害を越えるときの考え方についてのお話と、障害を越えてやろうじゃないのと思いたくなる大きなメリットについてだ。


これから子を持つ人、子育て中の人に伝えたいこと

結論から言うと、子どもが小学校に上がるまでの6年間は、仕事への出力を適宜抑えつつ、仕事を続けてほしい。育休が取れるならもちろん取る。とにかく辞めないこと、これが肝心。私だって辞めたくはないけど、でもいまの仕事環境じゃ無理だというかたは、まずは会社や団体と交渉して、それでも望みなしなら少しでも理解のある企業に移る、転職する、あるいはフリーランスでやる、起業するなどして、とにかく仕事を続けてほしい。一度辞めると、戻るのは自分の気持ち的にも社会的にも本当に大変だからだ。ここ、最大のトラップ。仕事を辞めると、自分で自分の人生のコントロールができなくなってしまう。そしてこれもとても大事なことなのだが、これまでどおりの100%出力で仕事をしようと思わないこと。100%の人と自分を比べないこと。そんなことをしたら自分が壊れてしまうから。子育てでいちばんタフな時期が、この最初の6年間だ。世界中見渡しても、子どもを産んですぐの時期に100%で働ける人はまずいない。あのNZのアーダーン前首相だって、主夫を担ったパートナーや、サポートブレーンがいたのだから。

子育ては大変だが、大変さは徐々に減り、あるいは変化し、やがてゴールを迎える(はず)。そして忘れがちだが、子どもはやがて大人になる。子育て初期を振り返ると強く思うのだが、ティーン未満の子どもたちは、親への無条件の愛を24時間無限にぶつけてくれる。圧倒的に親を愛してくれる。こんなに濃密な心のやり取りをする時間は、人生を俯瞰してもきっとほかにないと思う。渦中にいるときは大変すぎて気がつきにくいが、子どもからの愛は、あなたを最大に肯定してくれるのだ。あなたは最高、あなたが大好き。きっとこれまでつきあってきたどんなパートナーにだって、ここまで激しくスキンシップされたり、好きだと言われたことはないだろう。だからこの時期は、仕事の出力を50%に下げてもなおいっしょにいることに意義があるし、思っている以上に豊かな時間なのだ。そしてときには、しびれるような励ましのひと言をくれたりして、あなたの精神的な味方になってくれる。やがて子どもがあなたから離れていっても、豊かな時間の思い出が、あなたの生涯の宝物になる。

たしかに、子どもがいると自分が自由に働ける時間は限られる。とくに子どもが未就学児のころは、親の自由時間は無になる。私も保育園に娘を預けたあと、取材や撮影で外にいる時間が長いと、帰宅して原稿を書く時間がほとんど取れない日も多かった。そんなときはつい、これまでなら思う存分原稿が書けたのに、取材ができたのにと思ったりもした。

でも、そんな思いは少しずつ変わっていった。育てながら、子どもからもらうものがとてつもなく大きかったからだ。自分の人生はいま新しい段階を迎え、仕事を続けるとともに、子どもという人生の仲間を育てる新たな任務を担うことになった。だから、生きるうえでの力配分を考えなおそうと、積極的に思えるようになったのだ。

子育て中の仕事の出力

私の場合、娘が保育園児のころは仕事の出力を段階的に30〜50%、小学校で60%、JCのいまは70%にしているイメージだ。そんなに出力を落として平気なのか、ずっと100%でやりたかったという後悔はないのかときかれれば、それははっきりと、ないと言える。むしろいまは、仕事の出力を状況に合わせて変えてきたことで、結果的に長く仕事するうえでのモチベーションの維持にもなってきたし、自分の心や体を守ることにもなっている。そして、仕事の目標のほかにも人間を育てるという新しい目標が生まれ、それにより、仕事で得るものとはまた違った喜びを得られるようになったからだ。

人生は長い。そんなことを言われても、20代30代のころはピンとこない。私も30代後半だった当時もなお、いま頑張らないと後がないかのような謎のあせりを感じていた。そんなとき、ある人の言葉を聞いて、自分の生き方に違った視点を持つことができた。

「人生を80年とすると、尚子の人生は半分もたっていません。時間にたとえるとまだ午前11時ぐらいです」
人生を24時間にたとえ、当時30代後半でマラソン選手の現役引退を宣言した高橋尚子選手に、尚子さんのお父さんが贈った言葉。私は高橋さんと同世代。そしてちょうどそのころ、私は娘を産んだ。だからこの言葉がとても響いた。そうか、私はまだ人生の午前中なんだ。

そのとき不意に、自分が海辺を走っているイメージが広がった。これまでは一人でバイクで爆速で飛ばしていたが、仕事の出力を下げたと同時に、オープンカーに乗り換える。娘を隣に座らせ、これからはゆっくりドライブするのだ。景色を眺めて風を感じたり、途中でおやつやごはんの休憩を入れたり、写真を撮ったりしながら進む。そして少しずつスピードを上げていく。しゃべり疲れて静かに夕日を見るころには、娘は車を降り、自分の選んだ新しい乗り物に乗り換えるだろう。その様子を、遠くから愛でたい。そしてまた、私だけのドライブを続けるのだ。好きな方向に車を走らせるには、仕事を続ける必要がある。だから仕事は辞めない。仕事の出力を調整しながら、ゆっくり好きなほうへ気ままに走っていきたいのだ。

なんだか長く語ってしまったが、大事なことなのでもう一度。

大丈夫。怖いかもしれないけど、子どもを産んでも働ける。子どもを持っても働ける。だからどうかその仕事を辞めないで。出力下げても辞めないで。恐るるな、後輩たち。

今回の塾前じゃないごはん


「カリカリにんにくとオイルサーディンのトマトパスタ」

オイルサーディン缶が好きで、いろんな料理を作ります。買い物に行きそびれても、オイルサーディン缶があれば安心。今回は簡単なパスタです。魚の身だけでなく、缶に残りがちなオイルもソースのだし的要素として使います。このオイルには青魚の魚油成分に豊富なEPAやDHAが詰まっていて、脳の神経伝達をスムーズにしたり、血管をしなやかにして老廃物を排出しやすくしたりと体が喜ぶ成分が豊富。老化の激しい大人にも、成長期の子どもにも、ありがたいオイルです。

パスタ(フジッリ)は表示の時間どおりにゆでる。グリーンアスパラガスは斜め薄切りにし、パスタがゆで上がる30秒前に同じ湯に入れてさっと火を通す。にんにくは粗いみじん切りする。トマトはざく切りにする。

フライパンにオイルサーディン缶のオイル、にんにく、種を取ってちぎった赤唐辛子を入れて弱火で熱し、にんにくは色づいたら網じゃくしなどですくい、ペーパータオルを敷いた小皿に取り出す。オイルの残ったフライパンにいわしの身、トマト、白ワインビネガー少々を加えて弱火で熱し、トマトが崩れてソースにとろみがつくまで煮て、塩で味をととのえ火を止める。

ゆでたパスタとアスパラガスを加え、フジッリの溝にソースをからめるイメージであえ、器に盛る。仕上げに揚げにんにくを散らす。酸のある冷えた白や軽い赤ワインにもよく合う、じつにけしからん簡単パスタです。

馬田草織
馬田草織
文筆家・編集者・ポルトガル料理研究家。思春期真っ盛りの女子中学生と2人暮らし。最新刊「ムイトボン! ポルトガルを食べる旅」(産業編集センター)。料理とワインを気軽に楽しむ会「ポルトガル食堂」を主宰。開催日などはインスタグラムからどうぞ。
インスタグラム @badasaori

『馬田草織の塾前じゃないごはん』 毎月第2・第4火曜更新・過去の連載はこちら>>>

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